上 下
126 / 143
10 最終章

24階・25階――前編

しおりを挟む
 わたしは、24階と25階の攻略がとても楽しみだった。
 ついに辿り着き、ワクワクが止まらない。

「スズネ、大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫。早く行こ!」
「でも一応、ポーションだけでも飲んでおきなよ。魔力の回復、早くなるし」

 スードルは心配そうにしてくれているけど、わたしは普通に元気だ。
 それよりキースは大丈夫かなと思ったら、元気に飛んでいた。

「キースは大丈夫?」
「キー!」

 よかった、元気みたいだ。
 キースはパタパタ跳ねながら、元気に鳴いている。

「この階は狭いし、わたしの頭に乗っかってなよ」
「キー」


 狭く薄暗い部屋、天井からランプが吊り下げられ、出口は狭い通路に繋がっている。

 明らかに人工的な壁、床、天井。
 微妙に湿度が高くてしっとりしていることを除けば、室温も適温だし快適な環境。

 24、25階層は、わたしのよく知るダンジョンそのものだ。
 可愛いスライム、謎の通路、意味不明な開閉装置、何者かに砕かれ魔物に飲み込まれた鍵、管理されがちなモンスターハウス、理不尽な即死トラップに壁抜けバグ、そういうダンジョンの楽しみがいっぱいに詰まっている。


 この階層は二階層が繋がっていて、すごく広い。

 万が一があった時に合流ができないので、みんなで一緒に行くことになっている。


「見てよキース! 足元に明らかに怪しい突起が! これを踏んだら、通路が傾いて岩が転がって来てぺちゃんこになっちゃうんだ!」
「キー!?」
「スズネは、さっきあんなに頑張ったのに元気なのね。はしゃいで踏まないで頂戴」

 シアトルさんはこういうとき、前に立って先導してくれる。
 一応広げた地図はあるけど、たぶん確認のために見ているだけだ。道順、罠の場所など完璧に把握している。なんかめっちゃ格好いい。

「壁に触っちゃ駄目よ、レイス」
「分かってるよー!」
「壁に何かあるんですか?」
「うふふ。普通の壁に見えるけど、触ると吸い込まれちゃうのよ」
「回転扉ですか?」
「回転はしないわ」

 そう言うと、シアトルさんは軽く床を蹴り、脆い床は小さく崩れて小石ができた。
 それを拾って、壁に投げる。

「わお!」

 小石は壁に当たると、そのまま沼に沈むように吸い込まれ、半分ほど埋まったところで止まった。

「壁の落とし穴みたいな感じなんですか……どうして、全部飲み込まれないんですか?」
「半分だけしか飲み込まれないんだよー! 優しいよね!」

 と、レイスさんはニコニコしながら言う。

「優しいかしら、ね? 半身だけ飲み込まれたら、下半身でも上半身でも、ろくに抵抗できないと思うけど」
「飲み込まれて、どうなるんですか?」
「食べられるわよ。頭から」
「キー!?」

 ダンジョンに落とし穴はありがちだけど、やっぱり即死トラップなのか。
 やっぱりこの辺になると、トラップの殺意がすごいんだなぁ。


「でも、全部食べられるわけじゃないから、優しいよー! それに、あたしは助かったじゃん」
「レイスは縦半分だったものね」
「すっごく面白かったよー!」

 わたしは、縦半分の方が助かりにくいと思った。
 しかし、壁に縦半分だけ埋まってジタバタしているレイスさんを想像したら、あまりにも面白かったので、笑いを堪えるのに忙しく、何も言えなかった。


「止まって」

 シアトルさんが言った。
 全員が足を止める。

 わたしは、シアトルさんを後ろから飛び越して前を見る。

「あっ、宝箱!」

 目の前の通路の先に、宝箱が置いてあった。
 はっきり宝箱と分かる宝箱。すごい、本物だ。初めて見た。


「わぁ! 開けてみてもいいですか?」
「駄目。近づかないで」

 フェンネルさんが、わたしを止める。

「スズネも、案外可愛いところがあるのね。これは魔物よ、近づくと噛みつかれるわ」
「宝箱に変身してるってことですか?」
「中に隠れてるのよ。本当に狂暴なんだから」

 わたしが知ってるのは、宝箱自体が魔物だったのだけど、ここのはそういうわけではないらしい。

「でも、どうやっても近づかなきゃいけないんじゃないですか? 通り道だし」
「そうねぇ、困ったわ」
「どうするんですか?」
「こうする」

 シアトルさんがクスクス言ってるのを追い越して、フェンネルさんが剣を抜き、そして振り下ろす。

「ビギャァアア!」

 宝箱は、すごい断末魔と共に見事に真っ二つになった。


「……」

 金銀宝石が、じゃらじゃらと箱から溢れ出してくる。
 ネックレスとか指輪とか腕輪とか、アクセサリーばかりだ。

 すごい。
 すごいけど、なんかさっきの悲鳴が耳から離れなくてちょっと怖い。


「宝物ですか?」
「そうよ。中に魔物がいるだけで、宝箱は本物だから」
「後でちゃんと分けるから、一旦僕が回収しておくよ! あとで鑑定に出そうね!」

 スードルはそう言って、中身を袋の中に詰め込み始めた。
 そういえば、パーティの財政を管理してるのはスードルだ、とか言ってたような気がする。真面目そうな性格だし、こういうの向いてるんだろうな。

「キー?」
「キース、ほしいの?」
「キー、キー」

 キラキラが好きなキースは、大量の宝石を見てうずうずしていたらしい。
 もしかしてカラスの習性もあるのかな?

「ごめんスードル、小さいのでいいから、キースにあげてもいい? キラキラものが好きなの」

「いいけど……どうやって持っていくの? 僕に預けてくれれば、ダンジョンを出た後にちゃんと山分けするよ。今貰っても、荷物が増えるだけじゃない?」


 今回の攻略にあたっての荷物は、後衛職かつ激しく動き回る必要のないスードルと、ロイドさんが二人で分担して全部を持ってくれている。

 常に全部を背負ってるわけではないけど。


「確かに。どうするのキース、キースの体にポケットとかないでしょ?」
「キー」

 キースは、もこもこの毛皮をミミズクみたいにごそごそして、金貨を取り出した。
 この前あげた金貨みたいだ。手品かな。

「キー、キーキー」
「毛皮の中に入れてるの?」
「キー!」

 なんでそんなことができるのかは全く分からないけど、キースはパタパタ飛んでいき、宝物の中から指輪を一つ持って来た。
 そして、それを胸元辺りにもぞもぞやってきれいに隠す。

「そんなことができたんだ……」
「あはは、可愛いね」
「あ、ごめんスードル。良かった?」
「いいよいいよ、キースも頑張ってくれてるし」

 スードルはニコニコしながら許してくれた。
 キースも嬉しそうに、キーと鳴く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

異世界転生 勝手やらせていただきます

仏白目
ファンタジー
天使の様な顔をしたアンジェラ  前世私は40歳の日本人主婦だった、そんな記憶がある 3歳の時 高熱を出して3日間寝込んだ時 夢うつつの中 物語をみるように思いだした。 熱が冷めて現実の世界が魔法ありのファンタジーな世界だとわかり ワクワクした。 よっしゃ!人生勝ったも同然! と思ってたら・・・公爵家の次女ってポジションを舐めていたわ、行儀作法だけでも息が詰まるほどなのに、英才教育?ギフテッド?えっ? 公爵家は出来て当たり前なの?・・・ なーんだ、じゃあ 落ちこぼれでいいやー この国は16歳で成人らしい それまでは親の庇護の下に置かれる。  じゃ16歳で家を出る為には魔法の腕と、世の中生きるには金だよねーって事で、勝手やらせていただきます! * R18表現の時 *マーク付けてます *ジャンル恋愛からファンタジーに変更しています 

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

処理中です...