滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

文字の大きさ
上 下
124 / 143
10 最終章

22階——後編

しおりを挟む
 話には洞窟の一種だと聞いていたけど、洞窟とか空洞というには、不自然なほど広い。
 人工的な建造物だったけど、それが朽ちて自然に侵食されたという方がしっくりくる。

 横の広さもかなりあるけど、特筆すべきはその天井の高さ。
 
 鐘楼をぶち抜いたように真上に伸び、ゆっくりと凹んでいる。


 さらに、その壁に張り付くようにして細い足場が蛇のように螺旋状に伸びている。
 
 多分一番上まで行けるんだろうけど、ガタガタしてるし濡れている。あまり実用的には見えない。


 途中にはぼんやり光る水晶みたいなものが壁と壁に渡されて、梁のように見える。
 
 それは無数にあり、しかも必ずしも水平に渡されているわけでもない。
 太さも違うし、途中で分岐したりもしている。

 地上からの攻撃は、かなり上空に届きにくいだろう。
 

 ここはなんていうか、全体に暗く湿っていて、滑る上にひんやりしている。

 コウモリはもちろん1匹だけ。一番低い梁にぶら下がっていた。
 まあ、コウモリはキースも含めて2匹なのだけど。


「跳んで、スズネ!」

 その魔法は空を切り裂き、わたしの足下を正確に捉えた。
 わたしは濡れた足場から逃れ、壁を蹴り梁の一つに飛び乗る。

 コウモリはその巨体に似合わない俊敏さで空を切り、わたしの目の前に現れわたしの体当たりした。
 
 それは大きく揺れ、わたしはさらに上へと向かうが、次の瞬間には梁は崩れた。
 どうやらそれほど頑丈なわけではないらしい。

 頭上にいるわたしに、コウモリはまた魔術で追撃してきた。


「ねぇキース、いいお師匠様が見つかったみたいだね!」

 氷の魔術を使うコウモリは、どこかの白いのとは違って無駄に鳴いたりせず、最低限の動きで天井を縫うように動き周り、その魔術を放ち床を凍らせ、ただでさえ不安定な足場を凍らしより悪くする。

「キー!」

 キースがキーキー鳴くので、コウモリはうるさそうに飛んでいく。
 わたしを飛び越し、さらに上に。

 キースはさらにそれを追う。
 

「一人じゃ危ないよ!」

 キースは何か考えがあるのか、それとも考えなしなのか、別に大きくなるでもなく小さいままでコウモリに向かって飛んでいった。


「レイス、来るわ!」

 黒いコウモリは、白チビを脅威なしと判断したらしい。
 追いつかれるのも構わず速度を下げ、そのまま白い雪を降らせながら旋回しながら上昇し、天井に到達した。
 
 その体にキースが突撃すると同時に、雪は刃へと姿を変え、四方八方に飛散する。
 

「あたしの得意な魔術、忘れちゃったのかなー!」

 瞬間、形のない熱が爆発し、氷は水滴へと姿を変えて散らばる。


「キー!」
「……」

 黒いコウモリはキースを意に介さず、洞窟のさらに上へと飛び立つ。
 そしてその鋭い目で確実にレイスさんを捕捉し、大きな氷柱を作り始めた。

「上空に留まるなら……キース、スズネ! 魔力を下に落とすよ! 気をつけて!」


 スードルが叫んだので、キースは急降下した。わたしは捕まっていた壁から手を離し、落下する。

「キー!」
「ナイスキャッチ」

 飛びながら大きくなったキースに受け止められ、そのままわたしはキースと一緒に地面に降りた。


 スードルは魔導士。
 魔導士は、通常、ほぼ一定の濃度を保ち流動する魔力の動きを制御し、魔力の薄い場所や濃い場所を作ることができる。

 周囲の魔力がなくなっても、すぐに魔術が使えなくなるわけじゃない。でも、魔術の使用感は変わるし威力は落ちるし、魔力の消費は激しく回復しない。
 実質、使えるけど脅威にならない。そういう感じだ。

 逆に魔力が濃い場所では、操作性が上がり、上げようと思えば威力も上げやすい。魔力の消費は少なく、回復は早い。


 ダンジョン内の魔力の動きは特殊で、どんなときでも完璧に動かせるわけではないのだけど、少なくともこの階では少なくない影響を与えられるということは分かっている。

 コウモリも異変に気が付き、わたしたちを追って降りて来た。

「今回は俺が動けるということを、忘れてもらっては困るな」

 アリスメードさんは、弓に矢を2本も同時につがえ、引き絞り、放つ。


 しかし、なんとコウモリさんは驚くべきことに、それを一本は避け、もう一本は魔術で防いだ。

「あ、アリスメードさんの矢が……!」
「……!」

 わたしもびっくりしたけど、他のみんなはもっとびっくりしていた。

 百発百中、鳥類の天敵、空中戦の覇王と名高いであろうアリスメードさんの矢が弾かれるとか避けられるとか、基本的にはあり得ないのだろう。


「レイス、気をつけろ!」
「……えっ、あ、うん! 分かったよ!」

 しかし当のアリスメードさんはあんまりショックを受けておらず、レイスさんに注意を促す余裕を見せる。
 もしかして、わざと外したのかもしれない。

 注意されたレイスさんは、急いで両手をコウモリに向け、火炎放射みたいなのを放つ。
 氷の魔術は炎に相殺され、ぶつかったところで水になって、白い霧がむわっと広がる。


 コウモリは再び飛び上がろうとしたけど、いつの間にかフェンネルさんが背後に回り込んでいた。

「終わり」

 斬り下ろされた剣は、完璧にコウモリの背中を捉えた。
 かに見えた。


「んっ」

 コウモリは瞬時に急旋回し、フェンネルさんの剣を避ける。
 フェンネルさんでも躱されるって、強すぎるような。

「もう避けられないよな!」
「あたしからも!」

 アリスメードさんが矢を放ち、ほぼ同時にレイスさんが魔術を放った。
 コウモリは避けようとしたけど、片方の翼にまともに食らって、そのまま落ちる。


「キーー!!」

 やばい。
 鳴き声がキースとほぼ一緒だ。

「ど、どうしようキース。まるでキースのことを攻撃してるみたいで、ちょっとやりにくいんだけど」
「キー?」

 キースからしてみると、全然違う声らしい。
 いやでも、人間サイドからするとほぼ一緒。悲鳴がキースのそれに聞こえる。やりにくい。

「キー、キーキー」
「いや、いつもキースのことをいじめてるのは違うじゃん。いじめてるわけじゃないよ。可愛いからよしよししてるだけだよ」
「キーキー!」
「だって面白いんだもん! 面白いんだから仕方ないじゃん! シュート・エレメント・メラ! コート・エレメント・クレイ!」

 氷の魔術を使ってバリアを張ろうとするのを、スードルとレイスさんが食い止めている。
 周囲には霧が満ち、よく見えない。でも別に気にしてない。地面に落ちたコウモリなんて、ただのドブネズミみたいなものだ。

 霧の中を掻い潜り、剣を構える。

「えりゃー」

 黒い体を、霧ごと切り裂く。
 コウモリさんは悲鳴の一つも発することなく、何かが砕けたような音と共に、闇に溶けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...