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10 最終章

3階

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 環境は突然に変化する。

 あの解放的な青空はどこへやら、狭い洞窟の中だ。元の坑道に見える。
 松明に似た灯りがところどころ灯っているので、暗くはない。
 

 魔物は、初めてのろまなスライム以外が発生するけど、小さい宝石みたいな集団だ。
 元々の坑道にも発生していた弱い魔物なので、まだ戦いでは苦戦しない。

 問題は入り組んだ洞窟の生成パターン。
 この階層は16パターンのランダム生成で、洞窟内だから見通しも悪くタワーの捜索に難航する。


 そうやって狭い洞窟を彷徨っているうち、疲れ果てたところを魔物の群れに襲われて全滅。

 初心者パーティが安易にダンジョンに挑んではいけない理由だ。


 しかしわたしたちには、ロイドさんのおかげで完璧に元気になったキースがいる。

「キー!」


 キースは洞窟の中を迷いなく飛び、複雑な通路を通り抜けていく。

「キー、キー!」
「待ってキース、気をつけて! シュート・エレメント・メラ!」

 炎のエレメントは、攻撃力抜群。前方を一気に焼き払える。
 キースはちゃんとわたしの背中に隠れて、バレないようにしている。


「便利ね。マッピングの必要がないなんて」

「いつもはどうしてたんですか?」

「もちろん、私が探すのよ。洞窟の生成パターンから、タワーの場所にあたりをつけて。スードルもタワーの方向は察知できるみたいだけど、内部構造までは分からないのよ」

「シアトルさんも、大変ですね……」
「斥候がわたしの仕事だもの。そのかわり、戦いはアリスたちに任せてるわ。適材適所よ」

 さすがに洞窟の中は走れないので、シアトルさんと二人で早足だ。
 わたし一人でも良かったけど、万が一迷ったら大変なことになる。


 洞窟の中は、完全に元の坑道みたいだ。
 けれど、ところどころに水晶が見え隠れしていて、キラキラ光っている。

「宝物がたくさんですね」
「ええ、ダンジョンだから。全部の宝部屋を見つけられたら、浅い階層でも一稼ぎできるわね」

 どおりで、ダンジョンの周辺が栄えるわけだ。
 今回は素早く通り抜けちゃうだけだけど、本気で採掘しまくれば大金持ちになれそう。


「それだけに危険なのよ。魔物は無限に湧くし、休憩階がなければ永遠に降りるしかないの。別のパーティでダンジョンに行ったことがあるけれど、前衛が全滅しても先に進まなきゃいけないときなんて、もう思い出したくもないわよ」

 シアトルさんは微笑みながらそう言った。
 台詞が怖くて、わたしは全然笑えない。


「そ、そんなことがあったんですか……」

「もちろん。結局、私しか生き残らなかったわよ。砂漠のダンジョンは難関だから、みんな覚悟してるけど。遺された方はたまったものじゃないわね」

 エナさんたち、大丈夫かな……容赦なく切り捨てていって、最後は誰もいなくなって詰んだりしたらどうしよう。


「キー!」

 キースが一際大きく鳴いて、スピードを上げた。タワーが近いみたいだ。


「シュート・エレメント・メラ!」

 無詠唱でも使えるけど、シアトルさんに伝える意味でも詠唱して魔術を使う。キースも軽やかに回避する。


 洞窟の奥から、光が漏れていた。あの先にあるみたいだ。

「あれ、タワーの光ですか?」
「ええ、そうみたいね」


 もう、キースの案内は必要ない。
 光が漏れている穴を覗くと、大きな空洞の中に、眩い光を放つ柱があった。

「コントロール・エレメント・クレイ」

 土を魔術で動かし、穴を広げて中に入る。

 魔物はいなかった。
 

「今度は、剣で壊してみたらどうかしら? フィードバックが特殊だから、ちょっと面白いわよ。近接の物理攻撃で壊すことなんて、珍しいから」


 わたしは、シアトルさんに言われた通り、剣を抜いてタワーをツンツン突いてみる。

 カンッ、って切っ先が弾かれた。
 弱すぎる刺激は、ダメージにならないみたいだ。


「キース、避けててね」

 さっきの魔術の爆発力からして、魔力戦術もちょっと怖いけど、せっかくの機会だし試してみよう。
 ついでにチャージ機能も使おうかな。

 わたしは、剣を抜いて下段に構えた。
 

「コート・エレメント・アクア」

 水を纏わせれば、剣は重く、鈍く、広くなる。
 チャージを解放すれば使える。


 そして振る。

 上から、さらに風を纏わせ速度を上げる。
 重さがあるから威力は増す。
 タワーに当たる直前で風のコートを解き、硬化に変えて叩きつけるように切り上げる。


 バキンッ、という強い衝撃を感じた。

 光の筒が砕け散り、頭上から降り注ぐ。
 視界は再び暗転する。
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