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10 最終章
2階
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2階もまた、一面の平原だ。
さっきと違うのはタワーまでの距離。ただ時間がかかるだけ。
わたしの視界が戻った頃には、みんなは既に動いていた。
転送のタイミングには、ちょっとズレがあるらしい。個人差だから気にするほどではない。
「本当に、突然階層が進むんですね」
「20階まではノンストップだからな。今回はショートカットを使うから、かなり連続して戦わないと。スズネがいてくれるから助かるよ」
アリスメードさんは微笑んで言った。
「さっきの魔術、すごかったねー! スズネの魔力強度って、あんなにすごかったんだー!」
「クルルさんの、改造のおかげだと思います……」
レイスさんが褒めてくれたけど、発動した魔術の威力には、我ながらびっくりした。
全然自分では止められなかった。
確かに「爆発的」とは言ってたけど……ここまでとは。
本当に、街中で試さなくて良かった。特にテウォンの家とかで使わなくて良かった。
ここでも、思いっきり放つのはやめた方が良さそう。
「キー……」
「キース、大丈夫?」
「ピカピカ、アツイ……」
わたしの魔術のせいで、キースは目を回したらしい。
怪我はないけど、飛べずに地面の上をふらふら歩いている。
魔術の威力が高すぎて、至近距離で見てしまったキースはもろに閃光を受けたみたいだ。
キースは別に夜行性でもなんでもないから関係ないと思うけど、コウモリってこういうのに弱かったり?
「あらあら」
シアトルさんが、ふらふらのキースを見て「可愛いわね」と微笑む。
「ごめんねキース。あんなに強いと思わなかったから……わたしのせいだよね。どうしよう、ここはわたしが単独で壊すはずだったのに」
「私が行ってくるわ。いつもそうしてるし」
「でも……」
「キー、キー!」
キースは、元気に鳴き声を上げて翼をバタバタさせた。
元気をアピールしてるみたいだ。でも、やっぱりちょっとふらふらしている。
「そうしろ、キースは治療する」
しかし答えたのは、ロイドさんだった。
シアトルさんはすぐに走り出し、姿を消す。
「キース、目蓋は開けずに動くな。スードル、ポーションを寄越せ。6番と2番だ。精製水とガーゼも」
ロイドさんは地面に座り、キースを呼ぶ。
わたしは、ふらふらのキースを掬い上げて、ロイドさんの前に置いた。
「どうぞ」
ロイドさんは、ビーカーにポーションを注ぎ、水を加えて素早くかき混ぜた。
「何をしてるんですか?」
「薬を調合してる」
「しばらく休めば、治るんじゃないですか?」
「キー、キー」
キースは、ふらふらしながらも一生懸命に鳴いている。
わたしはキースの頭を撫でた。
しかし、ロイドさんは首を振る。そして作ったポーションに布を浸した。
「アリスに飛び方を教わったなら、魔術で風を操作しながら飛んでたはずだ。だがスズネの攻撃で、魔力の流れが乱れて魔力回路が損傷した」
「えっ? ただ眩しかっただけじゃないんですか?」
「魔法を扱ってる最中は、抵抗力が落ちる。そこに魔力を伴う光線を受けて、結果的に目が眩んだような症状が出る。キース、あまり強がるな。俺は転移地点にいたが、それでも衝撃を感じた」
「……キー」
キースは、ロイドさんの足元にペチャっと潰れて、動かなくなった。
やっぱり、辛かったのかな。
「でも、シアトルさんは無事でしたよ」
「シアトルは斥候だからな。不意の事態には強いんだ。それに魔術を使ってたわけでもない」
ロイドさんは、動かないキースの瞼の上から、ポーションを浸した布を乗せた。
「……治りますか?」
「ああ、すぐにな。次の階に着いた頃には」
獣の腕を器用に使いこなし、ロイドさんはわたしの頭を撫でた。
「安心しろ。相棒と呼吸が合わなくて互いを傷つけるのは、よくあることだからな」
「……わたし、ロイドさんはホーンウルフがいないと何にもできないのかと思ってました」
「ブハッ、ん、んん……」
アリスメードさんが噴き出して、咳払いした。
「スズネ、そんなことないよ! ロイドさん! 僕はロイドさんのこと、尊敬してます!」
「別に間違ってない。俺はテイマーだからな、あいつらがいないと何もできない。別にそれでいい」
「……ふっ」
スードルがフォローするが、フェンネルさんはちょっと笑った。
何がおかしいのか、ちょっと分からない。
「違うんですよ! わたし、そうじゃないんだなーって思ったんです。ポーション、詳しいし」
「別に、ポーションに詳しいわけじゃない。魔獣用のポーションなんて売ってないから、調合の方法を知ってるだけだ。ついでにちょっと。人間用にも詳しい」
指先でキースの布を持ち上げて、再びビーカーに浸し、もう一度乗せる。
キースは気持ち良さそうに、「キー」と鳴いた。
「それでも、すごいです。ありがとうございます」
「キー!」
キースは、ペタッとしたままだったけど、元気に鳴く。
回復し始めてるんだろうか。
「……そうか?」
「キー、キー!」
「ホーンウルフ以外に認められたのは久しぶりだな」
悲しすぎることを言いながら、ロイドさんはそっとキースの頭を撫でた。
「そうかなー? あたし、ロイドはホーンウルフがいない方が、」
レイスさんの台詞を遮り、視界は再び暗転した。
さっきと違うのはタワーまでの距離。ただ時間がかかるだけ。
わたしの視界が戻った頃には、みんなは既に動いていた。
転送のタイミングには、ちょっとズレがあるらしい。個人差だから気にするほどではない。
「本当に、突然階層が進むんですね」
「20階まではノンストップだからな。今回はショートカットを使うから、かなり連続して戦わないと。スズネがいてくれるから助かるよ」
アリスメードさんは微笑んで言った。
「さっきの魔術、すごかったねー! スズネの魔力強度って、あんなにすごかったんだー!」
「クルルさんの、改造のおかげだと思います……」
レイスさんが褒めてくれたけど、発動した魔術の威力には、我ながらびっくりした。
全然自分では止められなかった。
確かに「爆発的」とは言ってたけど……ここまでとは。
本当に、街中で試さなくて良かった。特にテウォンの家とかで使わなくて良かった。
ここでも、思いっきり放つのはやめた方が良さそう。
「キー……」
「キース、大丈夫?」
「ピカピカ、アツイ……」
わたしの魔術のせいで、キースは目を回したらしい。
怪我はないけど、飛べずに地面の上をふらふら歩いている。
魔術の威力が高すぎて、至近距離で見てしまったキースはもろに閃光を受けたみたいだ。
キースは別に夜行性でもなんでもないから関係ないと思うけど、コウモリってこういうのに弱かったり?
「あらあら」
シアトルさんが、ふらふらのキースを見て「可愛いわね」と微笑む。
「ごめんねキース。あんなに強いと思わなかったから……わたしのせいだよね。どうしよう、ここはわたしが単独で壊すはずだったのに」
「私が行ってくるわ。いつもそうしてるし」
「でも……」
「キー、キー!」
キースは、元気に鳴き声を上げて翼をバタバタさせた。
元気をアピールしてるみたいだ。でも、やっぱりちょっとふらふらしている。
「そうしろ、キースは治療する」
しかし答えたのは、ロイドさんだった。
シアトルさんはすぐに走り出し、姿を消す。
「キース、目蓋は開けずに動くな。スードル、ポーションを寄越せ。6番と2番だ。精製水とガーゼも」
ロイドさんは地面に座り、キースを呼ぶ。
わたしは、ふらふらのキースを掬い上げて、ロイドさんの前に置いた。
「どうぞ」
ロイドさんは、ビーカーにポーションを注ぎ、水を加えて素早くかき混ぜた。
「何をしてるんですか?」
「薬を調合してる」
「しばらく休めば、治るんじゃないですか?」
「キー、キー」
キースは、ふらふらしながらも一生懸命に鳴いている。
わたしはキースの頭を撫でた。
しかし、ロイドさんは首を振る。そして作ったポーションに布を浸した。
「アリスに飛び方を教わったなら、魔術で風を操作しながら飛んでたはずだ。だがスズネの攻撃で、魔力の流れが乱れて魔力回路が損傷した」
「えっ? ただ眩しかっただけじゃないんですか?」
「魔法を扱ってる最中は、抵抗力が落ちる。そこに魔力を伴う光線を受けて、結果的に目が眩んだような症状が出る。キース、あまり強がるな。俺は転移地点にいたが、それでも衝撃を感じた」
「……キー」
キースは、ロイドさんの足元にペチャっと潰れて、動かなくなった。
やっぱり、辛かったのかな。
「でも、シアトルさんは無事でしたよ」
「シアトルは斥候だからな。不意の事態には強いんだ。それに魔術を使ってたわけでもない」
ロイドさんは、動かないキースの瞼の上から、ポーションを浸した布を乗せた。
「……治りますか?」
「ああ、すぐにな。次の階に着いた頃には」
獣の腕を器用に使いこなし、ロイドさんはわたしの頭を撫でた。
「安心しろ。相棒と呼吸が合わなくて互いを傷つけるのは、よくあることだからな」
「……わたし、ロイドさんはホーンウルフがいないと何にもできないのかと思ってました」
「ブハッ、ん、んん……」
アリスメードさんが噴き出して、咳払いした。
「スズネ、そんなことないよ! ロイドさん! 僕はロイドさんのこと、尊敬してます!」
「別に間違ってない。俺はテイマーだからな、あいつらがいないと何もできない。別にそれでいい」
「……ふっ」
スードルがフォローするが、フェンネルさんはちょっと笑った。
何がおかしいのか、ちょっと分からない。
「違うんですよ! わたし、そうじゃないんだなーって思ったんです。ポーション、詳しいし」
「別に、ポーションに詳しいわけじゃない。魔獣用のポーションなんて売ってないから、調合の方法を知ってるだけだ。ついでにちょっと。人間用にも詳しい」
指先でキースの布を持ち上げて、再びビーカーに浸し、もう一度乗せる。
キースは気持ち良さそうに、「キー」と鳴いた。
「それでも、すごいです。ありがとうございます」
「キー!」
キースは、ペタッとしたままだったけど、元気に鳴く。
回復し始めてるんだろうか。
「……そうか?」
「キー、キー!」
「ホーンウルフ以外に認められたのは久しぶりだな」
悲しすぎることを言いながら、ロイドさんはそっとキースの頭を撫でた。
「そうかなー? あたし、ロイドはホーンウルフがいない方が、」
レイスさんの台詞を遮り、視界は再び暗転した。
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