上 下
113 / 143
10 最終章

収集中……

しおりを挟む
 市場には、たくさんの人がいた。
 
 店の種類も雑多に並んでいる。
 食料品店の隣に衣料品店があったり、靴屋さんの向かいに屋台があったり、武器屋や素材屋、その他様々な屋台や露店がランダムかつ乱雑に立ち並んでいる。

「はい。ここはいい店だよ。他より値は張るけど、味は一番。値段も、ぼったくりってほどでもねーし」
「ありがとテウォン」


 わたしは、シアトルさんに渡されたリストに書かれたものを、おつかいで買い集めている。

 例の如くいつものようについてきた、テウォンと一緒だ。

 別に頼んだわけではないのだけど、話の流れでダンジョンに行く話をしたら、クルルさんを説得し、案内してくれることになった。

 正直、すごく助かっている。テウォンはこの街のことを知り尽くしていて、商品の相場や店ごとの特徴まで分かって、わたしを案内してくれた。


「スズ、おやつ?」
「おやつ? 魔石のこと?」

 ついでに、キースは人の姿になってついてきている。
 未だに二足歩行は慣れないみたいで、ちょっとヨタヨタしてるけど、すごく楽しそうだ。

 その理由は明白で、キースの手の中にある。

「クゥ、クゥ」
「そうだって。これ、これほしい」

 キースは、両手をお皿の形にして、その上にクドを乗せていた。
 クドもクドで、外を散歩できるのが嬉しいらしく、周囲を見回しては、クゥクゥ鳴いている。
 

「オマエ、オレといる時より楽しそうだなー」

 テウォンがちょっと嫉妬している。テウォンの嫉妬は怖い。
 
 わたしは、スードルとテウォンが言い争ったときを思い出し、絶対に言い争わないように微妙に話題を逸らすことにした。
 
 
「えーっと、テウォンは、いつもバッグの中に入れてるんだっけ?」
「前は、肩とか頭に乗せてたんだけどな。冒険者の人がさ、襲われてんじゃねーかとか言って来るんだよ」

「襲われて……?」

「なんか、きせーされてるように見えるらしくてさ」
「き、寄生……」

 そんな魔物もいるんだろうか。
 声をかけた冒険者さんも、心配してくれたんだろうけど……寄生……
 

「でも、キースは大丈夫だよね。あんまり言われない」

「スズネは見るからに冒険者だからな。テイマーに見えるんじゃねーの?」
「確かに、キースは特別感あるかも……」

 キースには、精霊族の女の子さんに貰った魔眼がある。
 オッドアイなので、すっごい目立つのだ。


「クドも、キースみたいになれねーのかなー」
「うーん……難しい、かもね」

「ふーん、まあいいや。小さいのもかわいーしな」

 クドは、買ってもらった魔石を、ぽりぽり齧って食べている。
 
 魔石はとてもポピュラーなので、小さいものなら基本的にどんなお店でも売っていることが多い。
 もちろん、決して幻獣のおやつ用ではない。


「あらまぁ」

 お店の人が、びっくりして目を丸くしている。わたしの知ってる限り、ホーンウルフも魔石は食べない。
 直でバリバリするのは、珍しい光景だろうなぁ……

「えっと。すみません。これ、いっぱいありますか?」
「ええ。お嬢ちゃん、おつかいかしら?」
「あ、はい。頼まれたんです」
「偉いわねぇ」

 わたしは、携帯食糧を買って、ちゃんと数を数え、リストにチェックを入れた。
 

「そんなに買うのか?」
「うん。人数分必要だし、予備も必要なんだって」
「ふーん……冒険者も、色々考えてんだな。あ、おばさん、オレも買うよ」

「あら、あなたもお使いなの?」
「オレは違うよ。自分で食べる」

 テウォンも、わたしと同じ携帯食糧を買っていた。
 お菓子みたいなものだから、おやつ代わりに食べたりするのかもしれない。


「次はどこ? 着替えとかもいるんだろ」
「着替えは買わなくても大丈夫だよ。いつも旅してるから」
「じゃあ、旅は慣れてんだな」

「うん。ダンジョンは初めてだけどね。次は、魔道具かな。23階で使うんだって」
「魔道具だな」

 テウォンは歩き出した。キースはその間に、わたしは、そのすぐ後ろをついていく。

「クゥ」
「うん、うん」
「クゥ……」
「スズは、いいって言ってた」
「クゥ、クー」
「そうだよ」
「クー」
「キースも」

 キースは、クドと何かを話している。
 幻獣同士、何か共通点とかあるんだろうか。

 話は弾んでるみたいだ。
 内容が気にならなくもないけど、せっかく楽しそうだしそっとしとこう。


 わたしはキースを追い抜かして、テウォンの横に並んだ。

「テウォン、ここらへん詳しいんだね」
「いつも来てるから」

「買い物?」
「あと暇つぶし」

「暇つぶし?」
「家にいても、つまんねーし。最近は忙しいけどさー、クルルのとこにも、そんなに仕事があるわけじゃねーから」

 テウォンは暗殺者みたいに人混みを難なくすり抜けていく。
 まるで歩いてる人の思考を読んでるみたいだ。
 

「テウォンって、人がたくさんいるところを通るの、得意だよね」
「そうか? 別に、普通だろ。そんなに人にぶつかったりしねーよ」

 テウォンはわたしを振り返り、後ろ向きに歩き出した。それでも誰かとぶつかることはない。
 

「今はクドがいるしな。先を教えてくれる。それにオレは、影が薄いってよく言われるんだよ」
「それは違うと思うけど……」

「そうか? オレ、自分でも影は薄いと思うけどな」
「そ、そんな悲しいこと言わないでよ、テウォン……」

「別に悲しくねーだろ。魔獣に気づかれることもねーし、こっそり坑道にも入れるし、便利だよ。ゲートとかも反応しねーし。大人にくっついていけば、どこにでも入れる」

 あまりそういう感じはしなかったけど、わたしが尾行に気づけないのも、そういう理由があったりするんだろうか。

 確かに、そこまで来ると一種の才能だったりするのかな……


「……あのさ、スズネ」

 テウォンは、少し首を傾げて言った。

「何かあった?」
「ダンジョン、明日行くんだろ」
「そうだよ」

「何時?」
「え、何時って、どうして?」

「……クルルに聞いて来いって言われたんだよ。見送りたいんだってさ」

「え、悪いよそんなの。クルルさんも忙しいでしょ?」
「オマエは困らないだろ。クルクルクルルが行きたいなら行かせてやれよ」

 まあ確かに、無理に断るほどでもない。
 わたしは何とはなしに、テウォンに答えた。

「一応、お昼の予定だよ」
「ふーん。昼休みじゃん。ちょうどいいな」


「テウォンも来てくれるの?」
「何に?」
「見送り。来てくれる?」

「行かねーよ。オレは明日、忙しいし」
「あ……そうなんだ」

 来てくれるのかと思ったから、なんかちょっと拍子抜けだ。
 まあでも、忙しいなら仕方ない。
 急に決まったことだし。


 テウォンは、全部のお店を、最後まで淡々と案内してくれた。

 キースとクドは相変わらず仲良しで、キーキークークー、楽しそうに会話していた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...