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10 最終章

終わりの始まり

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 この世界でも、ダンジョンというのは特殊な存在だ。

 攻略者は、入場制限未満の人数のグループがまとめて、ある空間に転送される。
 

 空間の中身は様々で、芝生の広がる草原から、無機質な室内まで色々あるのだけど、そのどれもに空間のどこかには、必ず、あるオブジェクトが存在する。一般には、「タワー」と呼ばれている。

 タワーって言われてるけど、建物とかではない。本質的には巨大な魔石で、その分身、っていう感じ。

 つまり、見た目はほとんど光の筒だけど、魔物の中に入ってるときもある。
 そのオブジェクトを壊すことで、その空間、つまり階層を攻略できる。
 

 ただ、階層の構造によっては、一つの階層に何個もタワーがあったり、逆に階層と階層が繋がって、一つのタワーを二つの階層で共有している場合もある。


 2つ目。一度踏み入れた階層から出るには、そのためのタワーを破壊する以外に方法はない。
 つまり奥に進む方法は、タワーの破壊になっている。

 しかも前に戻る方法に至っては、そのためのタワーがないと、何をやっても絶対無理らしい。
 
 ただ、たまに休憩階みたいなところがあって、そこから入り口に戻れるのと、ショートカットと呼ばれる、隣り合わない階層へのジャンプができるタワーもあったりする。
 

 というわけで、ダンジョンを攻略するときは、基本的にはこのタワーを破壊し、ダンジョンの最奥を目指すのが目標になるそうだ。
 
 
 でもほとんどの冒険者の人がそうはしなくて、ある一つの階層に留まり、ダンジョンの宝箱を探したり、鉱石なんかの素材を回収する。
 
 仕組みは不明だけど、宝箱は豪華なことが多く、装備品や剣が入っていることもあるらしい。
 ほとんど全ての冒険者の人の目当てはそれだ。
 

 そんな風に、ダンジョンには謎が多い。
 
 例えば、全ての階層は平行世界に存在しているため、別のグループが同じ階層に存在しているのに会えないとか。

 タワーを壊した瞬間、物体を含めた外部のものは全部まとめて転送されるとか。
 
 内部のものは基本的に転送されないにも関わらず、手に入れた宝箱の中身は転送されるとか。

 そもそも、転送の仕組みとは? とか。
 

「ゲームみたい」
「げぇむ?」
「あ、何でもないです」

 わたしは「続けてください」とアリスメードさんに言った。


「今までの調査で、このダンジョンの階層はおよそ30階層だと分かってる。今回の攻略で、最深部のタワーを破壊することが決定された。しかし、最大到達階は26階だから、そこから先は未知の領域だ」

「そのせいで、可愛い仲間たちを置いていくことになった……」

 ロイドさんが恨めしげに呟いた。
 調子は回復したみたいだけど、機嫌は良くないみたいだ。


「魔獣をダンジョン内に連れて行くことは、推奨されてないのよロイド。分かってるでしょ?」
「……俺が一緒に行く意味はあるか? あいつらがいないのに?」
「ほらほら、そんなに落ち込まないのよ」

 シアトルさんが、ロイドさんの背中を撫でて慰めている。
 
 
 確かに、ホーンウルフがいないロイドさんって想像できない。
 
 いつもはほぼホーンウルフの世話と指示しかしないから、普通に動けるのかどうかは完全に未知数だ。全く役立たずってことも、ないんだろうけど。
 

「ダンジョンの中の魔物はテイムできないのにか?」
「まぁまぁ、いいじゃないの」

 シアトルさんに宥められているけれど、ロイドさんはあんまり納得してないみたいだ。


「探索で、5階から18階への近道ショートカットを開通させたから、そんなに長くはかからないよ」

「そのあとはどうなるか、分からないけどねー」

 レイスさんは楽しそうに言う。ワクワクしてるみたいだ。
 

「それで、日数だけど……」
「最大で14日だ。それ以上かかるなら、俺は単独でも帰還する」

 ロイドさんは、固く決意しているみたいだ。絶対に譲らなさそう。

「好都合だ。ロイドがそう言うなら、リミットは14日に。不測の事態が発生し、予想外に探索が延びて14日以上の滞在が必要になると考えられたら、その時点で攻略を中止し、帰還する。そのくらいなら平気なはずだ」

 アリスメードさんは、シアトルさんに意見を求めたみたいだった。
 

「そうね。そんなにかかるとは思えないけど」

「今回は調査じゃなくて攻略が目的だから、僕らは素早く駆け抜ければいいんですよね?」
「そうだよー! スズネもいるし、今までより簡単かも」


 この鉱山のダンジョンは、砂漠のそれよりも階層が浅く、難易度も低い。

 階層の浅さは、急激な難易度の変化にも通じるところがあって、初見殺しが多いらしいけど、それにしたって砂漠のダンジョンよりはずっとマシだ。
 

 まだ到達できないところもあるけど、ダンジョンから得られる情報とか、資源より、街の復興を優先するべきだということで、ギルドから無力化の許可が出たみたいだ。


「それで、スズネはどうする?」

 わたしは、アリスメードさんたちに、一緒にダンジョンへ行こうと誘われていた。

 わたしはこの街に思い入れもあるし、ダンジョンに行けるだけの実力もある、って思ってくれたみたいだ。
 
 ギルドの決まりで、ダンジョンの単独踏破は認められていないけど、アリスメードさんたちと一緒なら、入れるらしい。
 

「一緒に、行かせてください」
「キー!」

 キースも大きい声で返事をした。
 同意なのか何なのか、わたしにも不明だけど。


 正直、今日、話し合いをするから着いてくる?って言われた時点で、そのつもりではいた。

 テウォンのために頑張る……っていうのもあるけど、やっぱり、ダンジョンってワクワクするし。


 この世界に来たばかりのときに比べれば、人付き合いも、剣さばきも、魔術も、格段に上達したと思うけど、それでもなんだか、あんまり縁がなくてパーティを組もうという話にはなかなかならない。

 この機を逃すと……なんて、少々動機は不純かもしれない。


「やったー! スズネが来てくれるなんて、百人力だよー!」

 レイスさんはすごく喜んでくれた。百人力は、言い過ぎだと思うけどな……

「うん。スズネは、頼りになる」

 フェンネルさんも、うんうんと頷いてくれた。


「えへへ……あ、あの。わたし、聞き忘れてたんですけど。ちなみに、出発するのって、いつなんですか? 長い間空けるなら、宿の部屋を出ないといけないので」

「今日と明日で準備をして、明後日出発って予定だ。何かあるなら、延期はまだできるよ」
「それで大丈夫です。わたし、何を準備すればいいですか? 食べ物とか、ポーションとか?」

「あら、気にしなくていいのよ。こっちに任せて頂戴」

 と、シアトルさんは言う。


「えっ、でも……さすがに、何もかも任せっぱなしは申し訳ないです」

「いいのよ。ダンジョンの中ではパーティみたいなものなんだし、私たちの方が経験があるから、甘えて頂戴。アリスだって、ほとんど私に任せてるんだから、気にしなくていいわ」


「でもわたし、一緒に準備してみたいです。ダンジョンなんて初めてだし」

「あらぁ、嬉しいわね。スードルといい、スズネといい、可愛い子達は勤勉ねぇ。誰かさんたちにも、見習ってほしいわ」

 シアトルさんはクスクス笑って言った。

 アリスメードさんは苦笑いして、ロイドさんが目を逸らす。
 レイスさんは、そーっとそっぽを向いた。フェンネルさんは、無表情。
 

「俺は、ギルドとの調整で忙しいから……」
「俺は体調が悪い」
「えへへ……あたしもちょっと、個人的な用事がー」
「……」

 言い訳しないフェンネルさんが潔い。
 
 もしかして、みんな旅行の準備とかが、苦手なタイプなのかな。
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