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10 最終章

特別サービス

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 ダンジョン本部の依頼も、徐々に少なくなって来た。

 今日はクルルさんに預けた剣ができあがる日だ。わたしは、工房に朝早く出向いた。

「おはようございます!」
「おはよーなの! 待ってたの!」
「キー」
「キースも、おはようなの。今、準備するの~」


 新しく建設された工房は、色々な職人さんたちが共用で使ってるらしく、クルルさん以外にもたくさんいる。
 
 でも、作業場は共用らしいけど、顧客のプライベートを守るため、各々に個別の店舗みたいな場所も与えられているようだ。
 ちょうど、ショッピングモールみたいに。
 

 木造の建築で、家具は少ない。床は張ってなくて、コンクリートみたいなものがそのまま剥き出しになってるけど、どうせ靴なので気にするほどじゃない。

 簡単な作業はこの部屋でもやるらしく、工具や砥石が部屋の角に収められていた。
 それらを収納するためのラックも備え付けられているので、風変わりなインテリアに見えなくもない。
 
 クルルさんは、一番いいところをもらったみたいだ。
 こう言っては失礼だけど、元の工房より片付いてて清潔感があるような。


「お待たせなの」

 クルルさんは、布に包まれた剣を持ってきた。
 キースは飛んでいって、天井の梁にぶら下がる。

「確かに、丁寧に使われてたの。刃の部分はかなりきれいで、ちょっと研いで磨いただけなの。剣の腕も上達したと思うから、前よりも柔らかく、鋭く仕上げてるの。使うときは硬化をかけないと、劣化が早くなるから気をつけるの」

 魔術も、何度も使ううちにもうほとんど自分の手足のように操れるようになった。
 
 クルルさんはそういうのも考慮して、調整してくれたようだ。
 

「魔導芯を組み込み、魔力機構を実装したの。魔術の使用感に変化をつけて、スズネの特性にフィットさせたの! ななんと、自分の魔力強度の限界を超えて、擬似的に魔力強度を上げられるの。魔力消費量はとんでもないけど、全力で放つ一撃の威力は、今までの比にならないの。爆発的なの~」

「爆発……」


 わたしは魔力量の割に強度が足りないと言われてたし、それが強化されるってことなのか。
 嬉しいけど、使いこなせるかな……暴発しないといいけど。
 
「剣としてよりも、媒体として使うことが多いっていうから、切れ味よりも魔力機構を重視したの。魔術媒体としては、最高峰の改造なの。さらにチャージ機能をつけたから、最大2種類の魔術を同時に発動させることができるの。今のスズネなら、きっと使いこなせると思うの!」


「そんなこともできるんですか?」

「そうなの。魔力消費が激しいから、あんまりやらないカスタムだけど、できないわけじゃないの。剣にむけて撃つようにすると、その魔術を記憶させ、発射することで、発動させることができるの。普通に使うときとは違って、始点の操作はできないから注意するの!」


「分かりました。えっと……バブル・エレメント・アクア」

 わたしは言われた通り、剣に向けて魔術を撃った。
 それは発動せず、消える。
 

「あれ……魔力は使った感覚があるのに、変な感じですね」

「そうなの、この後、覚えた魔術を繰り返すの~。自分で魔術を使うのと同時に解放すれば、複数の魔術を同時に使えるの~」

 なるほど。わたしも、複数の魔術を同時に使うのはまだできない。色々使い所があるかも。


「コート・エレメント・ウィンド」

 チャージの解放と同時に風を纏わせ、宙に浮かせる。小さな水が、パチンと弾けた。
 

「便利ですね。これ」
「そうなの。物理的に複数の魔術を使えるから、難しい合成魔術を勉強する必要はないの。誇り高きドワーフ、最高の職人!」

 クルルさんは胸を張って、えっへんと腰に手を当てる。
 かわいい。
 
 わたしは「ありがとうございます」と言って、剣を受け取った。
 

の部分は、傷んでたから新しいのに張り替えておいたの。最初は違和感あると思うけど、同じ素材だから、すぐに馴染むと思うの。何か不都合があったら、また言うの。それから、言われた通り、装備の方の改造はなしにしておいて、手入れだけしておいたの。気に入ってるなら、それも悪くないと思うの」


 見た目にはただの可愛い小さい女の子だけど、ちゃんと職人さんなんだなぁ……

「というわけで、お会計なの! 諸々込みで、小金貨4枚、銀貨61枚。小銀貨以下はおまけしてあげるの!」
「……はい」

「まいどあり、なの~!」

 ……職人さんだけど、商売人でもある。

 なんか、心なしか作ってもらったときよりも、高くなってるな……
 

「……と、言いたいところだけど、今回は特別なの。代金は小金貨2枚! これだけでいいの!」

「えっ?」

「ギルドが言ってたの。スズネが寄付してくれて、その分財源が増えたから、工房に資金提供できたらしいの。それに、スズネは街のためにたくさん頑張ってくれてるの!」

 クルルさんはそう言って、腕を組んで胸を張った。かわいい。


「おい、クルル」

 裏の方からテウォンが出てきた。テウォンはいつもの服の上に、エプロンみたいなものをつけている。
 何の仕事をしてるんだろう。
 
「いいのいいの、小金貨2枚もあれば、十分なの」
「いや、無料タダにしてやれよ。金貨2枚も取っといて、何を偉そうにしてんだよ」

「い、今は鉱石が高騰してるの。このくらい取らないと、ククルは大赤字。これでも格安なの!」

「いやでも……」
「十分ですよ! 本当にありがとうございます、わたし、頑張りますね!」

 わたしはテウォンを遮るように言って、クルルさんの手を握った。


「喜んでくれて、嬉しいの~」
「キー!」

 キースは天井で鳴いている。
 
「きしし、キースも喜んでるの!」

「喜んでんなら、いいけどさー」

 テウォンも納得してくれたようだ。
 わたしは剣をいつもの場所に収めた。やっぱり落ち着くなぁ。


「キー……キー!」

 キースが、急に降りてきた。
 何かと思って、受け止めてあげようと思ったら、ひらっと体を翻し、人の姿になった。

「クド、だして!」
「へ?」
「クド、出して! キース、会いたい」

 キースはクドに会いたいらしい。
 キーキー喚いて、テウォンに言った。
 

「駄目だよキース、クドは多分キースに会いたくないだろうし……」
「いいよ」

 わたしは嗜めようとしたけれど、その前に、テウォンはなんと自分の作業服の胸ポケットに手を突っ込み、その中からクドを取り出した。
 
「……」

 そんなところに入れてて、大丈夫なのかな。一応生き物だと思うんだけど……


「ク……」

 急に取り出されたクドは、眩しそうに甲羅から頭を取り出し、周囲を見た。

「クーちゃん」
「……クー?」
「キース、キースだよ」
「……クゥ」

 テーブルの上に置かれたクドは、キースの方を見て、首を傾げた。
 そりゃ、手の平サイズのコウモリが、急に人間になったら、首を傾げたくもなるだろう。

「あのね。キース、クーちゃんと、ともだちに、なりたいの」
「……」
「クーちゃん、かわいいの。すきだから」
「クゥ」

 クドが小さく鳴く。キースはまたコウモリの姿になった。
 

「キー」
「クゥ」
「キー、キー」
「……クゥ」

 何か話合っているみたいで、キーキー、クークーと、お互いに鳴いたり黙ったりしている。

 コウモリとカメだから、明らかに種族は違うけど、会話はできるらしい。


「ねえテウォン、クドって泳げないの? 洞窟には水とか、あんまないかな」

「洞窟にも地底湖があるだろ。海ほどじゃねーけど。水泳大会もあったから、オレは泳げる。いいものがもらえるからさ、参加してたよ。クドは知らねーけど、泳げるんじゃねーの? 別に水を怖がったりしてなかったし」

 クドについては、リクガメか、ウミガメかでだいぶ話が変わってくるだろうけど……どっちだろう。
 甲羅の形は明らかにリクガメだけど、幻獣だしなぁ。
 
 
「なんでそんなことを聞くんだよ」
「キースは水が苦手だから、水中に逃げれば手出しできないのになーと思って」
「そこまで嫌いってわけでも、ないんじゃねーの? ほら、仲良く喋ってるし」

 テウォンはそう言って、キースとクドを指差す。
 

「キー!」

 と、キースが大きく一つ鳴いた。

 話はまとまったらしい。
 ヒラヒラ飛び立って、わたしの頭の上に潰れた。


「もういいの?」
「キー」

 満足そうだ。納得いったならよかった。
 

「それじゃあわたし、失礼しますね」
「もう帰んの? ゆっくりしてけよ」
「ククルもそうしてほしいけど、ダメなの。次のお客が来るの~」

 クルルさんは忙しそうにしている。
 お客さんがたくさん来てるなら、喜ばしい限りだ。

「また、遊びに来てほしいのー」
「分かりました! テウォン、またね!」
「うん。またな」

「キー!」
「……クゥ」

 クドも、頭を上げてキースに応えている。
 幻獣二人も、仲良くなれたみたいで良かった。

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