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10 最終章

友達のお姉さん

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 わたしは夕方から夜にかけてクルルさんの仕事を手伝った後、テウォンの家に泊めてもらうことになった。
 家というか、キャンプの一部、仮設テントなのだけど。

 その作りはかなりしっかりしていて、見た目には全然テントに見えない。
 布でできてるけど、普通の家みたいだ。すごいなぁ。

 部屋には、半分水で半分陸になっているような水槽があり、クドはその中に収納されている。
 今は陸に上がり、甲羅を干しているようだ。
 見た目だけじゃなく、扱いまでカメなんだな……
 

「また会えて嬉しいですわ、スズネさん」
「お姉さんは……その、大変だったですね……」

 相変わらず、美人なお姉さんだ。
 わたしに対しても丁寧に話してくれるのは、やっぱり宿屋のお姉さんだからなのだろうか。

 優しく微笑むお姉さんは、ホットミルクを差し出しながら「心配ありませんよ」と言った。

「テウォンがよく手伝ってくれますから」
「そうなんですか。テウォン、優しいですね」
「そんなことねーよ。家族を手伝うなんて、当然のことだろ」

 テウォンは、本当に何でもなさそうにそう言った。


「じゃあオレ、洗濯に行くけどさ。スズネはなんか洗濯するものあるか?」
「わたしも手伝うよ」

「いいよ。オマエ、今日こっち来たばっかりなんだろ? 疲れてるだろうし、今日は休んどけよ」

「キー!」
「ん?」

 急にキースが鳴いた。
 キースは、テント内の天井の柱に逆さにぶら下がっているらしい。

「キー、キー」
「なんて言ってんだ?」
「クドと遊びたいんだって」

「それなら、遊んだら? 暴れたりしないから。じゃ、オレは行く」

 テウォンはそう言い、ランドリーバッグを持って出て行った。

 この世界にも、コインランドリー的なものがあったりするんだろうか?
 わたしはいつも魔術でざぶざぶ洗っちゃうから、分からないけど……


「キー」

 キースはさっそく水槽に近づき、クドに話しかけ始めた。同じ幻獣同士、何か通じ合うものがあったりするのかもしれない。

「クゥ」
「キーキー」
「……クゥ」
「キー?」
「クゥー」

 哺乳類と爬虫類の会話が続く。

「キー」

 キースはハムスターくらいのサイズになり、水槽に入った。
 有利を取れてるのは体長によるものなんだから、絶対やめた方がいいと思うけど……


「スズネさんは、テウォンと仲良くしてくださっているんですね」
「えっ?」

 キースの翼がいつパクッといかれるのかと、ひやひやして眺めていたわたしは、お姉さんに話しかけられて、思わず聞き返してしまった。

 お姉さんは優しく微笑んでいる。

「スズネさんは、テウォンと優しくしてくださってるんだなと。姉の私も、あんなに楽しそうなテウォンなんて滅多に見ませんから」
「えっ……だ、大丈夫なんですか?」
「ふふっ。大丈夫ですよ。最近は、可愛いお友達もできましたから」

 クドを見つめながら、お姉さんは微笑む。

「あの子、冒険者さんからもらったんですよね?」
「そうみたいですね。スズネさんのお知り合いの冒険者の方だとか」
「え、わたしの?」

 確か、テウォンは「ドワーフの冒険者」とか言ってたはずだけど。
 わたし、ドワーフの冒険者の知り合いなんていたかな……


「あの子は、本当に喜んでいましたわ。何もかもスズネさんのおかげですね」
「そんなこと……ないですよ。テウォンって、本当に、わたし以外に付き合いないんですか?」
「この辺りには、子供が少ないですからね」

 と、お姉さんはまた穏やかにそう言った。

「ですが近頃は、職人さん方のところにお世話になっているみたいで、そちらで楽しくしているようですよ。あの子も懲りたのか、坑道でも無茶をすることが減りました」

「そうなんですか。お姉さんも、安心ですね」
「ええ」

 お姉さんは、わたしにミルクのおかわりをくれた。
 

「キー!」

 キースが大きな声を上げたので、わたしは水槽の方を見た。
 クドは両手両足に首まで全部、甲羅の中に仕舞って動かなくなっていた。

 キースはそれをなんとかほじくりだそうとして、甲羅に噛みついてみたりしている。

「キース、ダメだよやめてあげて」
「キー、キー」

「小さいんだから、優しくしてあげなきゃ。疲れて眠たいんだよ。そっとしておいてあげようよ」
「……キー」

 キースは嫌々ながら納得し、わたしの方に飛んできた。
 そしてわたしの目の前にぺたっとなったので、わたしはそれをよしよし撫でる。

 キラキラもいいけど、やっぱりわたしはもふもふ派かな。
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