上 下
105 / 143
10 最終章

相棒自慢

しおりを挟む
「噂はこっちまで届いてたの。スズネは自慢のお客さんなの!」

 クルルさんは嬉しそうにスキップしている。
 転けそうで心配だ。

「キー、キー!」
「キースも元気そうで何よりなの。バッテリーの調子はどうなの?」
「キー!」
「きしししし! それは何よりなの!」

 そういえば、クルルさんはキースと喋れたんだった。
 ……あれ、わたしもいつの間にか喋れるようになってるような。


「それで、クルルさん。今はどこに向かってるんですか?」

「職人仲間のところなの。ギルドでお金が手に入ったから、みんなに報告しに行くの。全部スズネのおかげなの! うう、すっかり立派になって……ククルは感無量なの……」

「お母さんみたいなこと言わないでください」

 ギルドのお姉さんは、クルルさんがわたしと知り合いなのを見て、わたしが渡した分を、そっくりそのままクルルさんに預けてくれた。
 

「クルルさんは変わりなかったですか?」

「こんなことになっちゃったし、変わりはあったに決まってるの。でも、特に怪我もなかったし、元気なの。これから仕事も始められるし、とっても楽しみなの」

「工房は……」
「もちろん沈んだの。でも、炉の火は持って来たから大丈夫なの。ドワーフの火が消えない限り、ククルの工房は不滅なの~」

 クルルさんは最後に会ったときと同じくらいに、朗らかだった。
 あんまり過度に落ち込んでるわけでもなさそうだ。少なくとも怪我がないなら何より。
 
 
「ところで、テウォンがどこに行ったか知りませんか? お姉さんと一緒なのかな」

「テウォンは、ククルのところで見習いをしてるの。でも、この時間なら病院にいるの」


「えっ、病院? テウォン、怪我をしたんですか?」
「違うの。お姉さんの送迎なの」

「お姉さんが怪我をしたんですか?」
「もともと脚が悪くて、それがちょっと悪化したらしいの」

 テウォンのお姉さんといえば、テウォンとは似てないクールな美人さんで、とても上品な人だ。

 脚が悪かったとは知らなかったけど。


「テウォンに会いに行くの?」
「うーん……そう、しようかな。また後で行きます」
「分かったの! 工房ができたら、その剣の手入れもしてあげるの。待ってるの~」

 ククルさんはタタタッと軽快に走って行った。

「キース、テウォンに会いに行こう」
「キー」

 キャンプにはテントだけではなく、簡易式の建物も建設されている。
 
 商店なんかはさすがに屋台だけど、大きめの施設はしっかり建物になっていて、病院もそうだ。遠くから見ても分かるように、塔みたいなものが見える。


 街をすれ違う人にも活気が見える。冒険者の人も多い。

 遠くの方では、森の木を切り倒して土地を広げる人たちや、その木を加工して建材にする人たちが働いている。
 まだ水没していなかった頃とは、また違った雰囲気。
 
 ……そう思うのは、わたしが変わったから?
 

「おい、オマエ」
「ふぁっ?」

 急に肩を叩かれ、振り向いた先には、わたしより一回りくらい年上の男の子がいた。
 スードルよりもやや年下くらい。
 大きなバックパックを背負っているので、冒険者かなとも一瞬思ったのだけど、武器らしきものを持っていない。
 

「やっぱりスズネだよな! そんな目立つ幻獣連れてんの、オマエだけだし」


 まだ病院までの距離はだいぶあった。
 だから、わたしはそれがテウォンだとは分からなかった。

 というか、声をかけられて振り返ってからも、しばらく信じられなかった。


「て……テウォン?」
「なんだよ、ボケーッとしちゃってさ。オマエ、冒険してきたんだろ? オレに話聞かせろよ」

 男子3日会わざれば刮目して見よとは言ったものだけど、それにしたって限度がある。

 やや早めの成長期を迎えたらしいテウォンは、わたしよりも身長拳1つ分くらい伸びていた。

 キースに至っては、困惑しすぎて無言になり、わたしの頭の上に乗っかっている。


「なんかその……大きくなったね……」
「親戚のばあちゃんかよ。オレだって大きくなるに決まってるだろ」

「思った以上に大きくなってて……大人になったというか、落ち着いたというか」

「オレ、元々こんな感じだったと思うけどなー。変わったといえば、スズネの方が変わったよ」

「わたし?」
「うん。なんかさ、こう……すげー楽しそうじゃん。前は死にそうだったのに。キースとも、いいコンビっていうか」
「死に……?」

 そんな風に思われてたのか、わたし……?
 

「まあ、クルルにこき使われて、オレもちょっと鍛えたかもな。でもその程度だよ」
 
 そういえば、クルルさんのイメージに流されてたけど、テウォンは基本的に無愛想だ。
 無愛想というかクールな性格なんだと思う。初対面の時とか、接客業なのにニコリともしてなかったし。
 
 クールで美女なお姉さんに似てるのだろうか。お姉さんに初めて会ったときは、あんまり似てないと思ったんだけどな。

 ……うん、思い出してきた。


「そうだ。オマエにはまだ、見せてなかったよな? オレの相棒」
「え、相棒?」

「うん。オレもほしいって、言ってただろ。あれからもオレ、坑道に潜ってて。そこで会った冒険者が、オレにくれたんだ」

「連れて帰ったの?」
「そうだよ。こっち」

 テウォンはわたしを手招き、スルスルと路地裏へ入っていく。


 わたしもそれについていくと、簡単に人通りの少ない裏通りに出た。

「すごいねテウォン、まるで犯罪者みたい!」
「……よく、分かんねーけど……まあいいや」

 テウォンはバックパックを下ろし、その蓋を開けた。

「ほら、見て」

 テウォンは、心底自慢げにそれを見せる。


 わたしはバックパックの中を覗き込んだ。

「……」

 中には普通に荷物が入っていたけど、その上に大事に置かれた何かがいた。
 それは、手の平サイズの、カメのような不思議な生物だった。

 暗い中でも不思議と光を放つその生物は、全身が宝石に包まれている。

「これ、何? 魔物?」
「幻獣だってさ。なんか小さいし、可愛いだろ?」


 テウォンは、バッグに手を入れて、それをゆっくりと取り出した。

「……」

 出てくると、それはやっぱりカメだった。
 甲羅の部分だけではなく、手足のウロコの1枚1枚に至るまで、キラキラ光る宝石だ。

 テウォンはポケットから魔石を何個か取り出して、カメに食べさせた。カメはポリポリと音を立てて魔石を頬張る。


「ダンジョンで拾ってきたの?」
「オレがスズネの話をしたらさ、ドワーフの冒険者がくれたんだ。こいつも幻獣だって言ってた」

「……クゥ」

 魔石を食べ終わった幻獣ちゃんが、キラキラした目でテウォンを見る。
 めっちゃ可愛い。
 

「か……可愛い……何この子、めっちゃ可愛い……」

「だよな! すっごい可愛くて、いつも一緒なんだ。でもこいつ、ダンジョンの中にいる魔物と似ててさ……見つかると騒ぎになるかもしれないから、中に入れてるんだ」

「こんなに可愛いんだから、大丈夫なような気もするけど……ところで、名前はなんていうの?」

「クーって鳴くから、クドって呼んでるんだ」
「クゥ、クゥ」
「あはは、呼んだわけじゃねーよ」


 テウォンに反応し、よちよち寄っていくクド。
 めっちゃ可愛い。本当に可愛い。

「うわぁ、うわぁ! いいなぁ、懐いてるんだね! 触ってもいい?」
「頭突っつくなよ、噛み付くから。背中は叩いても平気なんだ」

 甲羅はちょっと冷たくて、宝石みたいに輝いている。
 さっき食べた魔石の色に、ゆっくりゆっくり変化している。
 
 わたしが甲羅を触っても、気づいてないのか無視してるのか、反応しない。
 

「キー!」

 と、キースがわたしの頭を引っ掻いた。

「はは、やきもち妬いてんだな。クドは硬いけど、キースはふわふわだ」

 キースはクドを掬い上げるように持ち上げる。

「キー、キー」
「なにー、キースも抱っこしてほしいの?」
「キー!」

 キースがキーキー鳴くので、わたしはキースを胸元で抱っこした。
 大きめのフクロウくらいのサイズなので、手の平に乗せるには無理がある。
 

「やっぱオマエら、仲いいよな。キースはいい相棒だし。なークド、オレとも仲良くしような」
「……クゥ」
「キーキー!」

 キースは褒められて嬉しかったのか、またキーキーと鳴いている。

 それに呼応するように、クドが小さく「クゥ」と鳴いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

処理中です...