上 下
93 / 143
09 交流の成果

動物相手のリーダーシップ

しおりを挟む
 荷造りが一通り終わったころ、エヌさんが来た。

「あの、荷造りは終わりましたか?」
「もう少しですよ! エヌさんも手伝ってくれるんですか?」

 エヌさんは「そうですね」とか言って少し笑った。


「もしよければ、私に荷物を預けてほしいんです。スズネちゃんは知ってると思うけど……私の能力。荷物を運ぶなら、任せて下さい」
「能力?」

「エヌさんは異空間に荷物を詰め込んで運べるんです。エヌさんに頼めば、置いていく必要もないです!」

 全然思いつかなかったけど、エヌさんはこの遠征の荷物も一人で持っている。
 その容量がどのくらいかは知らないけど、相当多いことは確かだ。


「……いくらなんでも、正体不明のお前に預けるのは」

「えー、いいじゃん別に。どうせ、もっていかないつもりだったんでしょ? だったら頼もうよ」

「そうですよ! せっかく力を貸してくれるっていうんだから、いいじゃないですか。スズネの仲間なんだから、悪い人なわけ、ないですよ」

 ロイドさんは乗り気でないみたいだったけれど、レイスさんとスードルに説得されて渋々頷いた。
 エヌさんは「ありがとうございます」と言って、空中に扉を作り、次々と荷物を放り込んでいく。


「わぁ、すごい! どんな魔術なの?」
「魔術というものを、私たちは使いません。私は空間性接続のミューティです」

「接続? ミューティって何?」
「ミューティは、遺伝子異常による突然変異により、一般常識から著しく乖離する能力を有する人類のことですよ」

 エヌさんは置いていくはずだった荷物を全て詰め込み終えたので、扉を消した。
 説明されたレイスさんは「ふーん」とか分かった風だったけど、たぶん何も分かってないと思う。


「準備ができたなら早く行こう。乗せるのは、全部で……6人か?」
「キー、キー!」
「ん?」
「スズ、ノセル! イッショ!」

 どうやらキースはわたしのことを乗せて飛んでくれるみたいだ。


「みたいです。なのでロイドさん、わたしたちは一緒に行くので大丈夫ですよ」

「そうか。なら……」


 ロイドさんは、ホーンウルフたちと誰が誰を乗せるかを話し合い始めた。

「ウォンッ!」
「そうだな、そうするか」
「クゥン」
「分かった」
「ワンッ!」
「ウォン」
「ウゥゥ……」
「いや、それはいい」
「ワンッ!」
「本当に? ありがとう」

 ……ある意味、エーチさんより狂気を感じる。


 エヌさんはホーンウルフと話し合いを行うロイドさんを、不安そうに見ていた。

「あの……大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよー! みんなとってもいい子だもん!」

「いえ、その、そちらではなく……ええと……やっぱりいいです。ちなみになんですが、あなたは……その、ミューティではないんですよね?」
「そうだよー! あたしは魔術師だけどね!」

 レイスさんがにっこり笑うと、鋭い牙が剥き出しになる。
 声は明るい女の子の声だけど、見た目はちょっとというかかなり怖い。

 案の定、エヌさんは「そ、そうですか」と言ってちょっと距離を取っていた。


「ロイド、急いで」

 そうこうしていると、部屋の方からフェンネルさんが歩いてきた。
 アリスさんやディーさん、他の人たちも全員揃っている。


「魔獣に嗅ぎつけられた。今、一匹殺したから、匂いで寄って来る」
「あぁ、分かった」

 フェンネルさんは、無表情のまま返り血を拭っている。

 それを見ているディーさんとエフさんの顔色が優れない。
 目の前で魔獣に襲われかけただろうから、ちょっと怖かったみたいだ。

 何故かアイさんはめっちゃ元気だし、エーチさんはいつも通り明後日の方を向いてブツブツ言っている。


「ロイド、アイとエーチは二人で一緒に乗りたいそうなんだ。できるか?」
「誰と誰だ?」
「我とエーチ、この青年だ。すまんな、エーチは我と共でないと、パニックになって落馬するのだ。ハハハ!」

 笑い事じゃないことを大笑いしながら、アイさんは仁王立ちで胸を張る。


「……3人は危険なんだがな、分かった。俺と乗れ。スードル、こっちの荷物を全部乗せる。レイス、その女と乗れ。シアトルはその男と。フェンネルはその女だ。アリスは、こっちに魔獣を近づけさせるなよ。スズネはキースと一緒でいいなら、それで行こう」

 ロイドさんはてきぱきと指示を出す。


 キースはいつの間にか大きくなって、わたしの頭を突いた。

 わたしは「分かったよ」と言って、キースの背中に乗る。


「エヌちゃん、よろしくね!」
「は、はい……」

「うふふ、ちゃんと捕まってた方がいいわよ」
「あ、あぁ……」

「フェンネルさんっていうんだよね? よろしくねー!」
「…………レイスが、増えた……?」

「行くぞみんな、駆け抜けろ! 絶対に油断するなよ!」

 ロイドさんの掛け声と共に、ホーンウルフが走り出す。
 キースも彼らを追って、すごいスピードで森の中を飛ぶ。


 凄まじいスピードだ。
 向かい風がすごくて、目を開けるのも大変。

 頭を低くしてないと、木の枝に当たりそうだ。
 もちろん当たったらただでは済まない。

 鈴の音が風切り音に紛れて薄い。遠くや近くで聞こえる魔獣の唸り声や叫び声。

 乗っているときは気が付かないけれど、ロイドさんはホーンウルフたちの通りやすい道を選んだり、体の大きさや乗っている人によって指示を分け、揺れが少ないルートや道幅が広いルートに誘導している。

 正確にはロイドさんが、自分の乗っているホーンウルフに指示を出し、それを周囲のホーンウルフに伝えさせているみたいだ。

 あんまりロイドさんのすごさって理解してなかったけども、こういうところで活躍しているのかもしれない。こんなにたくさんのホーンウルフに指示を出すなんて、相当大変そうだし。


 一方、キースは自分の飛びやすいところを自分で選んで飛んでいるみたいだけど、枝が多くて飛びにくそうにしている。

「森の上に出たらダメなの?」
「ミエナクナル、ダメ! テキ、トブ、ツヨイ!」

 はぐれたところを狙われてしまうみたいだ。
 この世界の空って、無駄に危険すぎるような気がする。

 キースの飛行速度もすごく上がったみたいだし、これからはわたしが歩いて移動することも少なくなったりするんだろうか。


 やがてわたしたちは、森を抜けた。

 押しつぶされそうなくらいに巨大な空は、すっかり朱色に染まっている。

「ウォーン!」

 ホーンウルフの遠吠えが、夕暮れ空に響いている。

「キー!」
「うわっ!?」

 調子に乗ったキースが宙返りしたので、わたしは危うく振り落とされるところだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

異世界転生 勝手やらせていただきます

仏白目
ファンタジー
天使の様な顔をしたアンジェラ  前世私は40歳の日本人主婦だった、そんな記憶がある 3歳の時 高熱を出して3日間寝込んだ時 夢うつつの中 物語をみるように思いだした。 熱が冷めて現実の世界が魔法ありのファンタジーな世界だとわかり ワクワクした。 よっしゃ!人生勝ったも同然! と思ってたら・・・公爵家の次女ってポジションを舐めていたわ、行儀作法だけでも息が詰まるほどなのに、英才教育?ギフテッド?えっ? 公爵家は出来て当たり前なの?・・・ なーんだ、じゃあ 落ちこぼれでいいやー この国は16歳で成人らしい それまでは親の庇護の下に置かれる。  じゃ16歳で家を出る為には魔法の腕と、世の中生きるには金だよねーって事で、勝手やらせていただきます! * R18表現の時 *マーク付けてます *ジャンル恋愛からファンタジーに変更しています 

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...