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08 異世界
説得と和解
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エナさんの長い話が終わるころには、既に日が暮れていた。
明らかに太陽はないのに、この世界でも夜は暗く、朝は明るくなるみたいだ。どういう仕組みなんだろう、とわたしは思った。
エナさんは、あの不味い水を美味しそうに細めてごくごく飲んでいる。
「どうかな。僕らがどんな想いで、君を召喚したか理解してくれた? それでもなお、君は諦め悪く、生にしがみつくつもりなのかな?」
エナさんは、やっぱりわたしに死んでほしいみたいだった。
わたしは、なんていうか、困っていた。
死にたい、とは、思わない。死にたくない。キースもわたしの帰りを待ってる。
でも同時に、それはわたしの存在に矛盾してしまう。
エナさんがわたしを召喚しなければ、わたしはこの世界に生まれなくて。
わたしがこの世界に生まれなければ、わたしは「生きたい」なんて思わなかった。
でもわたしが「生きたい」と思えば、この世界は滅びてしまう。
神様が滅びるって言ってた世界は、わたしのいた世界じゃなく、こっちの世界のことだったのだろうか。
神様はこの都市が滅びることを望んでいて、だからわたしに、世界樹の都市に行ってほしくなかった?
……いや、だとしても、やっぱり疑問が残る。
どうしてわたしは、この都市のちょうど入り口に転送されたのか、とか。
仮にそれがエナさんの指示だったとしても、王子様のこともある。
王子様はわたしを「神様に言われて世界樹の都市に送り届ける」と言った。
そして恐らく、王子様にそう言ったのと同じ神様がダンジョンに機械を置いてほしいと頼んだ。
王子様はそれに従った。
「……あ」
そこでわたしは、気がついた。
「あの、エナさん。聞きたいんですけど」
「この後に及んでまだ質問? いいかげん僕喋りすぎて疲れたんだけど」
「ごめんなさい。でも、大事なことなんです。……わたしが、仮に死ぬとしても、死なないにしても……この世界と、この上の世界って、関係あるんですか?」
「知らないよそんなの。言ったじゃん、僕らは上に世界があることすら知らなかったの。そっちもそうなんでしょ? 違う?」
「でも……そうだとするなら、わたしが犠牲になったところで、この問題は解決しないと思うんです。エナさんの話を聞いてると、なんていうか、なんとなくだけど、上の世界と似てると思ってて」
「上の世界も、マナの不足で苦しんでるの?」
「そうじゃないんですけど……上の世界は、今、魔獣が大量発生してるんです。わたし、神様が授けた機械がダンジョンに置いてあるって言ったと思うんですけど」
「ああ、言ってたね。それ、本当? 僕、口から出まかせじゃないかと疑ってるんだけど」
「本当です。それに……エナさん、さっき、『ダンジョンでマナを生産したけど、あるとき急に、マナが吸収されるようになった』って言ってましたよね? それ、5年前なんですよね?」
「そうだね、だいたいそのぐらいかな」
「それで、今は『海を中心に各地で取り出してる』って。それって、ダンジョンにしたのと同じ方法なんですよね?」
「そうだよ。それがどうかしたの?」
「たぶん、この都市と上の世界は繋がってるんです。少なくとも、ダンジョンと海は確実に。それでなんですけど……たぶん、エナさんが、マナを生産すると、魔獣が発生するんだと思うんです」
「……うん? それで?」
「だから……その、エナさんがわたしを使ってマナをたくさん作っちゃったら、上の世界が大変なことになるんじゃないかなって」
「え、知らないよそんなの。どうでもいいじゃん。だって僕に関係ないし。むしろ君が害されたことに怒り狂うかもしれない世界が滅びるんだから、プラスでしょ」
エナさんは全く動揺することなくそう言った。
サイコパスってこういう人のことを言うのかもしれない。
「……醤油さんもいるんですよ?」
「まあ、それはいいんじゃない? 僕は全然構わないよ。なんなら世界が滅びた後で、醤油の魂だけ回収できればそれで十分だし」
相変わらず、エナさんはとてもドライだ。
たぶん、あまり感情で動くタイプの人ではないのだと思う。
わたしがどんなにお願いしても、ダメなものはダメ、なのだろう。
でも同時に、分かりやすくもある。
「……えっと、これはわたしの考えなんですけど。魔獣とか魔物って、倒すと、体の中から魔石が出て来るんです。つまり、マナ・ストーンが。それって、つまり、体が魔力でできてるってことじゃないんですか?
「今の状態って、たぶん、エナさんが頑張って作ってるマナが、全部上に流れちゃってて、そのせいで魔獣が大量発生してる……ってことだと思うんです」
エナさんは、その考えに関しては少し興味を示してくれた。
「仮にそうだとして、僕にどうしろって言うの? まさか今のマナの生産すらやめろってこと?」
エナさんは、わたしを試すように聞き返す。
「違います。やっぱり、話し合いが必要なんじゃないかなって……上の世界には、自然にある魔力を動かせる、『魔導士』って人もいるんです。みんなで力を合わせれば、もしかしたら、この都市に、マナを送り込めるかもしれない……それに機械は、やっぱり怪しいです。撤去してもらえるように、頼んだ方がいいと思うんです」
「だからさ、それ本当にできるの? 上の世界には何の関係もないじゃん」
「そんなことありません! 最近の魔獣の発生の原因は、機械なんじゃないかっていうのは、言われてました。何らかの影響があるっていうのは察してるんです。
「でも、撤去したら、またダンジョンから魔獣が溢れ出すかもしれない。だから、このままにしとこうっていうのが考えみたいです。だから、もしダンジョンから魔獣が出て来ることがないって分かれば、きっと撤去してくれます」
「ふーん。魔獣ね。その感じだと、そっちの世界の人間って、あんまり武力がないのかな? 獣なんて、銃でも使えば簡単に殺せそうなのに」
「え……っと、どうなのかな。分からないです。でも、危険だって言われてたし、たぶんそうだと思います」
「その魔獣って奴さえ制御できれば、何の問題もないの?」
「はい、そうだと思います。わたしが聞いた限りだと……一応、宝具は王子様がくれた物だから、退かすときは聞いた方がいいかもしれないですけど、でも王子様も別にどうでもいいとか言ってたし、大丈夫だと思います」
「王子様ってさぁ……そっちの世界って、まだ絶対王政なの? 前時代的すぎだよ。蛮族の集まりじゃないの?」
「そんなことないです。お城はあるけど、王様は……いるのかな? 貴族さんはいるけど……でも、みんな仲良しですよ。王子様っていうのは、闇の峡谷っていうところに住んでる古代闇妖精の王国の王子様です」
「面白い民族がいるんだね、上の世界って。その王子様ってのが機械を持ってきたの?」
「王子様は、光の民……人間とか、獣人さんとか、を助けようとしてくれたんですよ。神様に言われたから、貸してあげたって言ってたけど……」
「は?」
「その神様が、エナさんの敵の神様なんじゃないですか? だったらその機械、絶っ対、悪いことしてますよ! エナさんは上の世界の人のこと、あんまり信じてないみたいですけど、わたしは信じてます。自分たちが知らない世界のことだからって、苦しんでるのを放っておくような、そんな人たちじゃないんです!」
「……ふーん」
「わたしは死にたくないです。死んじゃダメだと思うんです。死ぬのは簡単だけど、わたしが死んだら、ここのことを知ってる人は、本当に誰もいなくなっちゃう。今のところ、ここに来られるのはわたしだけなんです。わたしには、生きて果たすべき、役目があると思います!」
わたしがそう言うとほぼ同時に、部屋の扉が開いた。
わたしばかりでなく、エナさんまでもが驚いて「わ」と声を上げる。
「彼女の言う通りだよ、総督。我々は会話すべきだ」
それは燃えるような赤い髪を持つ、隻眼の女性だった。彼女は力強い目をし、仁王立ちしている。
「あぁ、聞いてたんだ」
とエナさんが言った。
「総督の知識と技術力はよく理解しているが、彼らが我々に敵対するという確証がない以上、我々はまず対話すべきだ。我々において最も優先すべきは大樹の保持と種の存続ではないか?」
「それは分かってるよ。リスクの問題だ。彼女を利用すれば確実に助かるんだよ。分かる? 賭けるのは勝手だけど、失うものは人類だよ。この世界なんだよ?」
「彼女を犠牲にする方が、将来的なリスクは高いだろう。我々にとってはただのイズミでも、幼い少女だ。大切に想う者がいる。彼女を傷つければ、彼らは我々に敵対する。どうしようもなく、確実に。
「彼女によれば干渉の可能性はないそうだが、今後永遠にそうだとは限らない。そうなったとき、彼らの我々に対する認識が、『幼い少女を無慈悲に殺した蛮族』では困る。今度は異界人と戦うことになりかねないとは思わないか?」
「知らないよそんなの。僕は守るのは得意だから、攻めてきたら皆殺しにすればいいじゃん」
「総督はそれでいいかもしれないが、我々の子孫はどうなる? 総督とて、永遠に君臨することは難しいだろう。そして我々も、永遠の君臨を許すつもりはない」
「……あー、そう。君はそういう考えなわけね」
エナさんは露骨に嫌な顔をした。
「さっきディーは、こっそり上に行って機械だけぶち壊そうって言ってたけど、君はそれも嫌なんだね? 正面切って交渉して、和解を持ちかけて……そうしないと嫌ってこと? はぁ……そんなんだから、君は負け犬なんだよ」
「それでも、オレは自分が間違ってるとは思わない。人類の9割以上が死滅した世界で、今、生きてるんだ。それが答えだよ」
「思い上がるな。お前は、生きてようが死んでようが何の影響もないし、お前が死ぬとデコイが壊れそうだから生かしてるだけなんだから。
「でも……はぁ……お前の言う通りにするのはほーんとムカつくし、最悪の気分だけど……それが最善だろうってことは、認めざるを得ないか。はー…………じゃ、スズネちゃん。今日はもう寝なよ。明日、改めて全員に紹介するからさ」
「えっ?」
「だーかーらー、生かしてあげるって言ってるの! 死にたくないんでしょ? じゃあいいよ、生きてても。ただし役には立ってもらうからね! ってこと。分かった? 子供だけど女の子だし間違いが起こったら大笑いしてあげるから、適当なところで寝れば? おやすみ!」
エナさんはそう言って、部屋の扉を開けて出ていった。
明らかに太陽はないのに、この世界でも夜は暗く、朝は明るくなるみたいだ。どういう仕組みなんだろう、とわたしは思った。
エナさんは、あの不味い水を美味しそうに細めてごくごく飲んでいる。
「どうかな。僕らがどんな想いで、君を召喚したか理解してくれた? それでもなお、君は諦め悪く、生にしがみつくつもりなのかな?」
エナさんは、やっぱりわたしに死んでほしいみたいだった。
わたしは、なんていうか、困っていた。
死にたい、とは、思わない。死にたくない。キースもわたしの帰りを待ってる。
でも同時に、それはわたしの存在に矛盾してしまう。
エナさんがわたしを召喚しなければ、わたしはこの世界に生まれなくて。
わたしがこの世界に生まれなければ、わたしは「生きたい」なんて思わなかった。
でもわたしが「生きたい」と思えば、この世界は滅びてしまう。
神様が滅びるって言ってた世界は、わたしのいた世界じゃなく、こっちの世界のことだったのだろうか。
神様はこの都市が滅びることを望んでいて、だからわたしに、世界樹の都市に行ってほしくなかった?
……いや、だとしても、やっぱり疑問が残る。
どうしてわたしは、この都市のちょうど入り口に転送されたのか、とか。
仮にそれがエナさんの指示だったとしても、王子様のこともある。
王子様はわたしを「神様に言われて世界樹の都市に送り届ける」と言った。
そして恐らく、王子様にそう言ったのと同じ神様がダンジョンに機械を置いてほしいと頼んだ。
王子様はそれに従った。
「……あ」
そこでわたしは、気がついた。
「あの、エナさん。聞きたいんですけど」
「この後に及んでまだ質問? いいかげん僕喋りすぎて疲れたんだけど」
「ごめんなさい。でも、大事なことなんです。……わたしが、仮に死ぬとしても、死なないにしても……この世界と、この上の世界って、関係あるんですか?」
「知らないよそんなの。言ったじゃん、僕らは上に世界があることすら知らなかったの。そっちもそうなんでしょ? 違う?」
「でも……そうだとするなら、わたしが犠牲になったところで、この問題は解決しないと思うんです。エナさんの話を聞いてると、なんていうか、なんとなくだけど、上の世界と似てると思ってて」
「上の世界も、マナの不足で苦しんでるの?」
「そうじゃないんですけど……上の世界は、今、魔獣が大量発生してるんです。わたし、神様が授けた機械がダンジョンに置いてあるって言ったと思うんですけど」
「ああ、言ってたね。それ、本当? 僕、口から出まかせじゃないかと疑ってるんだけど」
「本当です。それに……エナさん、さっき、『ダンジョンでマナを生産したけど、あるとき急に、マナが吸収されるようになった』って言ってましたよね? それ、5年前なんですよね?」
「そうだね、だいたいそのぐらいかな」
「それで、今は『海を中心に各地で取り出してる』って。それって、ダンジョンにしたのと同じ方法なんですよね?」
「そうだよ。それがどうかしたの?」
「たぶん、この都市と上の世界は繋がってるんです。少なくとも、ダンジョンと海は確実に。それでなんですけど……たぶん、エナさんが、マナを生産すると、魔獣が発生するんだと思うんです」
「……うん? それで?」
「だから……その、エナさんがわたしを使ってマナをたくさん作っちゃったら、上の世界が大変なことになるんじゃないかなって」
「え、知らないよそんなの。どうでもいいじゃん。だって僕に関係ないし。むしろ君が害されたことに怒り狂うかもしれない世界が滅びるんだから、プラスでしょ」
エナさんは全く動揺することなくそう言った。
サイコパスってこういう人のことを言うのかもしれない。
「……醤油さんもいるんですよ?」
「まあ、それはいいんじゃない? 僕は全然構わないよ。なんなら世界が滅びた後で、醤油の魂だけ回収できればそれで十分だし」
相変わらず、エナさんはとてもドライだ。
たぶん、あまり感情で動くタイプの人ではないのだと思う。
わたしがどんなにお願いしても、ダメなものはダメ、なのだろう。
でも同時に、分かりやすくもある。
「……えっと、これはわたしの考えなんですけど。魔獣とか魔物って、倒すと、体の中から魔石が出て来るんです。つまり、マナ・ストーンが。それって、つまり、体が魔力でできてるってことじゃないんですか?
「今の状態って、たぶん、エナさんが頑張って作ってるマナが、全部上に流れちゃってて、そのせいで魔獣が大量発生してる……ってことだと思うんです」
エナさんは、その考えに関しては少し興味を示してくれた。
「仮にそうだとして、僕にどうしろって言うの? まさか今のマナの生産すらやめろってこと?」
エナさんは、わたしを試すように聞き返す。
「違います。やっぱり、話し合いが必要なんじゃないかなって……上の世界には、自然にある魔力を動かせる、『魔導士』って人もいるんです。みんなで力を合わせれば、もしかしたら、この都市に、マナを送り込めるかもしれない……それに機械は、やっぱり怪しいです。撤去してもらえるように、頼んだ方がいいと思うんです」
「だからさ、それ本当にできるの? 上の世界には何の関係もないじゃん」
「そんなことありません! 最近の魔獣の発生の原因は、機械なんじゃないかっていうのは、言われてました。何らかの影響があるっていうのは察してるんです。
「でも、撤去したら、またダンジョンから魔獣が溢れ出すかもしれない。だから、このままにしとこうっていうのが考えみたいです。だから、もしダンジョンから魔獣が出て来ることがないって分かれば、きっと撤去してくれます」
「ふーん。魔獣ね。その感じだと、そっちの世界の人間って、あんまり武力がないのかな? 獣なんて、銃でも使えば簡単に殺せそうなのに」
「え……っと、どうなのかな。分からないです。でも、危険だって言われてたし、たぶんそうだと思います」
「その魔獣って奴さえ制御できれば、何の問題もないの?」
「はい、そうだと思います。わたしが聞いた限りだと……一応、宝具は王子様がくれた物だから、退かすときは聞いた方がいいかもしれないですけど、でも王子様も別にどうでもいいとか言ってたし、大丈夫だと思います」
「王子様ってさぁ……そっちの世界って、まだ絶対王政なの? 前時代的すぎだよ。蛮族の集まりじゃないの?」
「そんなことないです。お城はあるけど、王様は……いるのかな? 貴族さんはいるけど……でも、みんな仲良しですよ。王子様っていうのは、闇の峡谷っていうところに住んでる古代闇妖精の王国の王子様です」
「面白い民族がいるんだね、上の世界って。その王子様ってのが機械を持ってきたの?」
「王子様は、光の民……人間とか、獣人さんとか、を助けようとしてくれたんですよ。神様に言われたから、貸してあげたって言ってたけど……」
「は?」
「その神様が、エナさんの敵の神様なんじゃないですか? だったらその機械、絶っ対、悪いことしてますよ! エナさんは上の世界の人のこと、あんまり信じてないみたいですけど、わたしは信じてます。自分たちが知らない世界のことだからって、苦しんでるのを放っておくような、そんな人たちじゃないんです!」
「……ふーん」
「わたしは死にたくないです。死んじゃダメだと思うんです。死ぬのは簡単だけど、わたしが死んだら、ここのことを知ってる人は、本当に誰もいなくなっちゃう。今のところ、ここに来られるのはわたしだけなんです。わたしには、生きて果たすべき、役目があると思います!」
わたしがそう言うとほぼ同時に、部屋の扉が開いた。
わたしばかりでなく、エナさんまでもが驚いて「わ」と声を上げる。
「彼女の言う通りだよ、総督。我々は会話すべきだ」
それは燃えるような赤い髪を持つ、隻眼の女性だった。彼女は力強い目をし、仁王立ちしている。
「あぁ、聞いてたんだ」
とエナさんが言った。
「総督の知識と技術力はよく理解しているが、彼らが我々に敵対するという確証がない以上、我々はまず対話すべきだ。我々において最も優先すべきは大樹の保持と種の存続ではないか?」
「それは分かってるよ。リスクの問題だ。彼女を利用すれば確実に助かるんだよ。分かる? 賭けるのは勝手だけど、失うものは人類だよ。この世界なんだよ?」
「彼女を犠牲にする方が、将来的なリスクは高いだろう。我々にとってはただのイズミでも、幼い少女だ。大切に想う者がいる。彼女を傷つければ、彼らは我々に敵対する。どうしようもなく、確実に。
「彼女によれば干渉の可能性はないそうだが、今後永遠にそうだとは限らない。そうなったとき、彼らの我々に対する認識が、『幼い少女を無慈悲に殺した蛮族』では困る。今度は異界人と戦うことになりかねないとは思わないか?」
「知らないよそんなの。僕は守るのは得意だから、攻めてきたら皆殺しにすればいいじゃん」
「総督はそれでいいかもしれないが、我々の子孫はどうなる? 総督とて、永遠に君臨することは難しいだろう。そして我々も、永遠の君臨を許すつもりはない」
「……あー、そう。君はそういう考えなわけね」
エナさんは露骨に嫌な顔をした。
「さっきディーは、こっそり上に行って機械だけぶち壊そうって言ってたけど、君はそれも嫌なんだね? 正面切って交渉して、和解を持ちかけて……そうしないと嫌ってこと? はぁ……そんなんだから、君は負け犬なんだよ」
「それでも、オレは自分が間違ってるとは思わない。人類の9割以上が死滅した世界で、今、生きてるんだ。それが答えだよ」
「思い上がるな。お前は、生きてようが死んでようが何の影響もないし、お前が死ぬとデコイが壊れそうだから生かしてるだけなんだから。
「でも……はぁ……お前の言う通りにするのはほーんとムカつくし、最悪の気分だけど……それが最善だろうってことは、認めざるを得ないか。はー…………じゃ、スズネちゃん。今日はもう寝なよ。明日、改めて全員に紹介するからさ」
「えっ?」
「だーかーらー、生かしてあげるって言ってるの! 死にたくないんでしょ? じゃあいいよ、生きてても。ただし役には立ってもらうからね! ってこと。分かった? 子供だけど女の子だし間違いが起こったら大笑いしてあげるから、適当なところで寝れば? おやすみ!」
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