滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

文字の大きさ
上 下
69 / 143
08 異世界

強さは全てじゃない

しおりを挟む
 まさか、またホーンウルフに乗ってこの白玉の森に戻ってくることになるなんて、誰が想像できただろう。

 あの時は恐ろしく感じた巨大な魔獣も、今となっては不思議と平気だ。
 それはわたしが成長したからか、それとも、仲間がいるからか。


「キース、お願い!」
「キー!」

 心なしかキースの電撃も強くなっている気がする。

 ホーンウルフの速度に匹敵する飛行速度を手に入れたキースは、入り組んだ森の中を我が物顔で飛び回り、魔獣を撹乱しながら電撃を放っている。

 結構疲れるので連発はできないとか言ってたのに、元気だなぁ。


「空を飛べるって、いいよな」


 わたしは例の如く以前のように、ロイドさんと一緒のホーンウルフに乗っていた。
 
 
 しかしポジションは変わらなくても、ロイドさんは以前と違う。
 
 少したくましくて、めっちゃ獣臭い。
 

「アリスメードさんは空、飛ぶんじゃないんですか? ロイドさんもそうすればいいのに」
「アリスは特殊な人間だ。普通の人間は飛べない。飛べたとしても死ぬ」
「確かに」

 アリスさんが特殊っていうのは、全体的に同意できる。
 
 フェンネルさんの強さはって感じだけど、アリスメードさんの強さはだ。
 

 ロイドさんの強さは……強さ…………強さ、はないけど、個性は同じくらい、あると思う。
 

「鳥さんを仲間にするわけにはいかないんですか? ロイドさん、動物好きなのに」

「俺とは相性が悪いんだ。アリスが根絶やしにしていることが向こうにバレてる」


「なんで根絶やしに? アリスさんは鳥さんに対して何か恨みがあるんですか?」

「百発百中の矢が、装甲の薄い鳥類を貫いて無事なわけがない」

「百発百中なんですか?」
「少なくとも、俺は外したところを見たことがない」
「えぇ……」


 つまりは、キースの天敵なのか。アリスメードさん。
 

 わたしはオオカミに跨るアリスメードさんをチラッと見る。
 
 本気になれば、キースは無惨な串刺しになってしまうのだろう。
 そうとも知らず、飛び方のレクチャーを受けていたなんて……

 ……面白いなぁ。
 

「接近戦ができないのがアリスの弱点だが、適切な間合いをとって戦えば、パーティの中で最強だからな」

「え、魔術が使えるんだからレイスさんの方が得意なんじゃないんですか? アリスメードさんは魔獣みたいに巨大じゃないから、内臓をグチャッてしたらおしまいだと思うんですけど……」

「いつから殺し合いが前提になってるんだよ。スズネ、たまに怖いこと言うよな……」

 ロイドさんは苦笑する。
 

「魔術は小さくて素早い相手に対しては有効じゃない。発動までにタイムラグがあるし、射速も速くないから避けられる。レイスは雑な性格だし、そんなに防御力もないからな」

「じゃあ、そんなに強くないってことですか?」
「そんなわけないだろ」
「何が強さなんですか?」
「火力」
「確かに」


 わたしはオオカミに乗るレイスさんをチラッと見る。
 
 もうワイルドな方が慣れてしまったらしいレイスさんは、ロイドさん以上に獣臭い。
 

「ちなみに、適切な間合いを取らないときの最強は誰なんですか?」

「口喧嘩ならシアトルだ」
「口喧嘩は戦闘じゃないからダメです」

「近接ならフェンネルだし、不意打ちができるならシアトル。単純な破壊能力なら、レイスだろうな。勉強ならスードルが一番だと思う。あいつは物覚えがいい」
「勉強は戦闘じゃないからダメです」

「ロイドさんは?」
「俺は戦いはしない。俺が傷付いたら、こいつらが悲しむから」

 わたしの出会った中で随一の残念イケメン、ロイドさんは堂々とそう言った。
 

「強いて戦ったとしたら、ロイドさんは強いんですか?」
「生身で戦って強いわけないだろ。俺はテイマーなんだよ。村人に戦闘力はいらないんだよ」

 確かに、羊飼いみたいな職業ではあるけれど、飼ってるものはオオカミなのだから納得できない。
 
 
「じゃあ、オオカミさんたちと戦えばいいじゃないですか」
「我が子を戦場に送り出せるか? 俺にはそんな残酷なことはできない。可哀想だろ」

「わたしは子供だから分かんないんですけど、大事な仲間が戦場に行くのはいいんですか?」
「別にいい」

「畜生すぎませんか?」
「ありがとう」
「褒めてないです。畜生は褒め言葉ではないです」

 ロイドさんって、面白い人だなー。
 

「パーティ全員で、全力の殺し合いをしたら誰が生き残りますか?」
「そんなことは絶対に起こらない。なんでそんなに最強を決めたいんだよ」

「だって、お互いに怒ったりすることもあるじゃないですか。それがエスカレートしたりするんじゃないですか?」

「怒ることはあっても、殺し合いになることはないだろ。アリスは仲間を失うことを嫌がるからな、仲間を手にかけるくらいなら、自ら死を選ぶ。そういう奴なんだよ」


「……例えば、ロイドさんは、スードルとかがホーンウルフに意地悪してたらどうするんですか?」
「絶対に殺す」
「ロイドさん、パーティに馴染めてないって言われませんか?」

「ウォンッ!」

 ロイドさんの代わりに、元気な返事が返ってきた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

処理中です...