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07 人智及ばぬ授けもの

光の贈り物

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 わたしが前世でオーロラを見たことがあるのかどうかは定かではないけれど、例えわたしの職業が北極観測隊とかだったとしても、そのオーロラは最も美しかったと思う。


 競うように輝く星を、覆って輝く光の帯。

 それは間違いなく布だった。
 繊維の一本一本までがくっきりと見える。

 吐く息どころか睫毛の先まで凍り付くくらいの極寒が、空気をどこまでも澄み渡らせる。

 一刻一刻とその姿を変える光の布は、時が経つごとに織り編まれ、その厚さと長さを増していく。

「キー」

 わたしを包むように大きくなったキースが、夜空に向かって小さく鳴いた。


「ふむ、久々に見たが、良いものじゃのう」

 女の子さんは首筋の目を頬で開眼し、夜空を眺めている。
 さっき私が見たものとは別の目だ。


「すごくきれいです」
「そうじゃろう? この場所より美しい空は、他にあるまいよ」

 女の子さんは自慢げにそう言った。

「やはり自然は眺めるだけでも十分に心を慰めてくれるのじゃ」

「精霊さんは、やっぱり自然が好きなんですか?」
「自然を克服することを望む者もあり、自然と共に生きることを望む者もあるのう」


 人それぞれという奴じゃ、と精霊さんは言う。

「そういえば、竜の子よ。そなた、人の子と添い遂げると言っておったの」
「キー」

「人の子には知識を授けた。そなたには妾の魔眼を授けようぞ」


 シカツノさんは空を見上げ、またカチカチと音を鳴らしている。

 それは鳴き声のようでもあった。


「キー!」

 キースは嬉しそうに夜空へ飛び立つ。

 雪から照り返されるオーロラの光は強く、キースの腹に当たりその体を夜空に浮かび上がらせる。


 どういう意味だろう?
 
 とわたしがキースを見ていると、キースはそのまま女の子さんの方へと飛んで行き、彼女の頭上でゆっくりと羽ばたいた。


「————」

 いつの間にか、シカツノさんが振り向いてわたしの側に立っていた。

 彼はキースの方を見ていた。
 わたしもそれに従った。

「キー——————」


 女の子さんは両手を合わせて器みたいにして、その手を天に掲げた。

 周囲の気温がさらに下がった。わたしは身震いする。


 その手に、ホタルみたいな光が集まりはじめた。
 
 ホタルと違って色とりどりで、明るいのも、暗いのも、白いのも、赤いのも、速いのも、遅いのも。

 しかし音はなく、量は増していく。
 尾を引き、長く伸びる。
 
 わたしは、それが空から降り注いでいるのだと知った。
 
 まるで流れ星の墓場のように、天球から落ちてくる。
 光の帯を織る糸が、解けて落ちる。


「そぅれ」

 柔らかい稲妻があるのなら、きっとこんな風に落ちるのだろう。

 その眩い閃光に、わたしは顔を覆って、視線を背けた。


 熱い。
 焼けるように熱い。

 白熱した電球を不意に触ったときに似ている。
 それほど熱くないはずなのに。

「スズ!」

 わたしの目の前には、キースがいた。

 長い耳に、ふわふわの毛皮を纏った、そう、毛皮の外套を纏ったキース。

「スズ、一緒!」


 キースは女の子になっていた。

 ちょうどわたしと同じくらいの、とってもかわいい女の子。

 唖然とするわたしを、オッドアイのギラギラした魔眼が見ている。


 カラカラ、カラカラ、まるで乾いた雪が降るみたいな音が聞こえた気がした。

 そこにたくさんの精霊さんがいた気がした。
 しかしそれは、きっと気のせいだったと思う。
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