54 / 143
05 試練と挑戦
レイス
しおりを挟む
峡谷への出発の準備をしている最中のこと。
図書館に行こうと思っていたわたしは、スードルを迎えに来たレイスさんとばったり遭遇し、そのまま近くの喫茶店で講義が終わるまで一緒にお茶をすることになった。
レイスさんは、自分の昔話を話してくれた。
白玉の森は、もともと色々な木々が生い茂る、もっともっと大きな森の一部だったそうだ。
その頃には、白玉の森だなんて呼ばれていなかった。
白い実をつける木なんて、珍しくもなかったからだ。
しかし、ダンジョンの魔物が各地へ飛び出した事件。
あれによって森は壊滅してしまった。
豊かな森が占拠され、破壊されていく中、白玉の森の木だけは、傷一つなかったのだという。
そして魔物たちはなぜかその場所に留まった。
それによって弱い魔獣が淘汰され、強い魔獣だけが生き残り、互いを高め、そして今の白玉の森になった。
結局そこに住んでいた人々は住処を追われてしまったのだけど、白玉の森は、かつての森の姿を残す貴重な場所だそうだ。
「あたしたちはねー、すっごく長い間森に住んでたの」
と、レイスさんはそう言った。
「本当に長い間。何年も、何十年も、もしかしたら何百年も。だから、みんな森を守ろうって一生懸命だった。獣人だけじゃないの。それまで交流がなかった、エルフや森の守護者のドライアド、もちろん森に住んでた人間の人も、一緒に戦った」
レイスさんは懐かしそうに言った。
「あたしはね、村で一番の魔術の使い手だったんだ。あたしより魔術が上手い人なんて誰もいなかった。あたしは、誰よりも強いと思ってたんだ」
故郷を追われたレイスさんは、冒険者になった。
それは、家を失った多くの人が取らざるを得なかった選択肢だったけれど、レイスさんにとっては前向きな選択でもあった。
レイスさんは自分の能力に自信があって、冒険者になれば必ず成功するだろうと思っていたそうだ。
冒険者になって経験を積んで、宮廷の騎士団に入ろうと思っていた。
しかし、冒険者としての活動はなかなか上手くいかなった。
「言ったっけ? あたし、魔術ばっかりやってたから体力のほうがからっきしだったの。でも、冒険者って体が資本でしょ? 剣とか武術をやってる冒険者には、全然及ばないの。それに、野宿をしたり雑務をやったり、そういう細々した仕事もたくさんある。あたしは魔術しかできなかった」
その頃は冒険者が溢れていたし、その上魔術だけの依頼なんてほとんどなくて、生活は苦しかった。
仕方なく魔術以外の訓練も受けてみたり、勉強をしてみたりするのだけど、なかなか身にならず、苦しい日々が続いていた。
そんなとき、レイスさんに興味を持ったのがアリスメードさん。
彼らは魔術師のメンバーを失ったばかりだった。
才能ある獣人の魔術師が苦労しているという話を聞き、彼女に声をかけたようだ。
アリスメードさんも、当時は今ほど有名だったわけじゃなく、ランクはBになったばかりのパーティだった。
それも、一人仲間を失っていたせいで降格しそうになっていたらしい。
レイスさんは、本当は一人でやっていこうと思っていたそうなのだけど、自分にはその実力がないことを痛感していた。
だからアリスメードさんたちと一緒に、組むことに決めた。
「あたしは魔術が得意だけど、剣では絶対フェンネルに勝てないし、ロイドほど頭も良くないし、シアトルみたいに経験もないし、アリスみたいなリーダーシップもない。あたしは、すごく運が良かったんだ。でもスズネは一人でしょ?」
「わたしは基本、ソロですもんね」
「そうそう。それに、パーティにいても、やっぱり剣くらいやっておけば良かったなって思うよ。魔術は万能だけど、あたしは魔力量が多くないからさ。ダウンしたときの対抗手段が何もなくて」
「レイスさんが、わたしに剣を習ったほうがいいって言ってくれたのは、そういうことだったんですね」
「うん、そうだよー! スズネは素直で、いい子だよね。ちゃんと強くなっちゃって、羨ましいぞ!」
レイスさんはわたしの頭をめちゃくちゃに撫でる。
牙を剥き出しにして笑うようなその表情も、だんだん見慣れてきた。
「キー、キー!」
「あはは、そーだね、スズネにはキーくんがいるかぁ」
基本ソロだと言ったのが気に食わなかったらしい。
キースはキーキー鳴いて抗議する。
アリスメードさんに何を教えてもらったのか知らないけど、キースは明らかに変化していた。
蝶々みたいなヒラヒラした飛び方から、ムササビのような滑空を織り交ぜるようになり、全体的に動きに無駄がない。
コウモリのくせに地上の民に飛行について教えを請うとは何事かと思ったけど、意外と役に立ったようだ。
「あたし、スズネはあんまり元気がない子なんだなーって思ってたけど、最近のスズネは楽しそうでいいね! なんかいきいきしてて! やっぱり、キーくんのおかげかな?」
「それはないです」
「キー!?」
キースは怒って突撃してきた。なんか真剣に痛い。
「あー! 分かった、わたしが悪かったってば! じょーだんだよ! ごめん! キースのおかげ! おかげだから!」
そう言うと、キースは満足げに「キ~」と鳴いた。
図書館に行こうと思っていたわたしは、スードルを迎えに来たレイスさんとばったり遭遇し、そのまま近くの喫茶店で講義が終わるまで一緒にお茶をすることになった。
レイスさんは、自分の昔話を話してくれた。
白玉の森は、もともと色々な木々が生い茂る、もっともっと大きな森の一部だったそうだ。
その頃には、白玉の森だなんて呼ばれていなかった。
白い実をつける木なんて、珍しくもなかったからだ。
しかし、ダンジョンの魔物が各地へ飛び出した事件。
あれによって森は壊滅してしまった。
豊かな森が占拠され、破壊されていく中、白玉の森の木だけは、傷一つなかったのだという。
そして魔物たちはなぜかその場所に留まった。
それによって弱い魔獣が淘汰され、強い魔獣だけが生き残り、互いを高め、そして今の白玉の森になった。
結局そこに住んでいた人々は住処を追われてしまったのだけど、白玉の森は、かつての森の姿を残す貴重な場所だそうだ。
「あたしたちはねー、すっごく長い間森に住んでたの」
と、レイスさんはそう言った。
「本当に長い間。何年も、何十年も、もしかしたら何百年も。だから、みんな森を守ろうって一生懸命だった。獣人だけじゃないの。それまで交流がなかった、エルフや森の守護者のドライアド、もちろん森に住んでた人間の人も、一緒に戦った」
レイスさんは懐かしそうに言った。
「あたしはね、村で一番の魔術の使い手だったんだ。あたしより魔術が上手い人なんて誰もいなかった。あたしは、誰よりも強いと思ってたんだ」
故郷を追われたレイスさんは、冒険者になった。
それは、家を失った多くの人が取らざるを得なかった選択肢だったけれど、レイスさんにとっては前向きな選択でもあった。
レイスさんは自分の能力に自信があって、冒険者になれば必ず成功するだろうと思っていたそうだ。
冒険者になって経験を積んで、宮廷の騎士団に入ろうと思っていた。
しかし、冒険者としての活動はなかなか上手くいかなった。
「言ったっけ? あたし、魔術ばっかりやってたから体力のほうがからっきしだったの。でも、冒険者って体が資本でしょ? 剣とか武術をやってる冒険者には、全然及ばないの。それに、野宿をしたり雑務をやったり、そういう細々した仕事もたくさんある。あたしは魔術しかできなかった」
その頃は冒険者が溢れていたし、その上魔術だけの依頼なんてほとんどなくて、生活は苦しかった。
仕方なく魔術以外の訓練も受けてみたり、勉強をしてみたりするのだけど、なかなか身にならず、苦しい日々が続いていた。
そんなとき、レイスさんに興味を持ったのがアリスメードさん。
彼らは魔術師のメンバーを失ったばかりだった。
才能ある獣人の魔術師が苦労しているという話を聞き、彼女に声をかけたようだ。
アリスメードさんも、当時は今ほど有名だったわけじゃなく、ランクはBになったばかりのパーティだった。
それも、一人仲間を失っていたせいで降格しそうになっていたらしい。
レイスさんは、本当は一人でやっていこうと思っていたそうなのだけど、自分にはその実力がないことを痛感していた。
だからアリスメードさんたちと一緒に、組むことに決めた。
「あたしは魔術が得意だけど、剣では絶対フェンネルに勝てないし、ロイドほど頭も良くないし、シアトルみたいに経験もないし、アリスみたいなリーダーシップもない。あたしは、すごく運が良かったんだ。でもスズネは一人でしょ?」
「わたしは基本、ソロですもんね」
「そうそう。それに、パーティにいても、やっぱり剣くらいやっておけば良かったなって思うよ。魔術は万能だけど、あたしは魔力量が多くないからさ。ダウンしたときの対抗手段が何もなくて」
「レイスさんが、わたしに剣を習ったほうがいいって言ってくれたのは、そういうことだったんですね」
「うん、そうだよー! スズネは素直で、いい子だよね。ちゃんと強くなっちゃって、羨ましいぞ!」
レイスさんはわたしの頭をめちゃくちゃに撫でる。
牙を剥き出しにして笑うようなその表情も、だんだん見慣れてきた。
「キー、キー!」
「あはは、そーだね、スズネにはキーくんがいるかぁ」
基本ソロだと言ったのが気に食わなかったらしい。
キースはキーキー鳴いて抗議する。
アリスメードさんに何を教えてもらったのか知らないけど、キースは明らかに変化していた。
蝶々みたいなヒラヒラした飛び方から、ムササビのような滑空を織り交ぜるようになり、全体的に動きに無駄がない。
コウモリのくせに地上の民に飛行について教えを請うとは何事かと思ったけど、意外と役に立ったようだ。
「あたし、スズネはあんまり元気がない子なんだなーって思ってたけど、最近のスズネは楽しそうでいいね! なんかいきいきしてて! やっぱり、キーくんのおかげかな?」
「それはないです」
「キー!?」
キースは怒って突撃してきた。なんか真剣に痛い。
「あー! 分かった、わたしが悪かったってば! じょーだんだよ! ごめん! キースのおかげ! おかげだから!」
そう言うと、キースは満足げに「キ~」と鳴いた。
38
お気に入りに追加
884
あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜
ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました
誠に申し訳ございません。
—————————————————
前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。
名前は山梨 花。
他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。
動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、
転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、
休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。
それは物心ついた時から生涯を終えるまで。
このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。
—————————————————
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる