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05 試練と挑戦
三日会わざれば刮目せよ
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わたしは朝から学園にいた。
この学園というのは、さまざまな教育機関及び研究機関、それに付随する寮や宿泊施設、食堂などの生活設備が集まっている場所で、生徒の多くは貴族だけど、平民もいる。
王都第一学院という場所があって、そこは貴族さんや騎士さんが学ぶ場所だそうだ。
スードルがいるのは魔法大学というところで、そこの魔導士学科で学んでいるらしい。
「スズネー!」
ロイドさんとは別の意味で様変わりしていたスードルは、私を見て駆け寄ってきた。
「スードル! すごい、かっこよくなったね!」
ローブやブーツも丁寧に手入れされているので身なりも綺麗だし、全体的に垢抜けている。
青緑の髪もワックスみたいなので程よく遊ばせていて、全然印象が違う。
大学デビューかな?
「そ、そう? かっこいい?」
「うん、見違えたよ!」
「スズネにそう言ってもらえて嬉しいよ。スズネもなんか……元気になったみたいで良かった!」
「わたしが?」
「なんかこう……目の光が戻った感じがする」
「目の……光?」
そういえば、スードルはわたしの目が死んでることを心配してたんだっけ。
自分ではあまり分からないけど、スードルがそう言うならそうなんだろうな。
「それよりスードル、そんなオシャレしてるなんて、彼女でもできたの?」
「彼女って、恋人のこと? いないよ! ここは平民も多いけど、ほとんどは貴族様だし……僕なんかが話しかけたら打ち首になっちゃうよ!」
外見はイケイケでも、中身は今までのスードルと一緒だ。なんだか安心できる。
今日は、スードルは午前中授業がないらしい。
わたしはスードルと一緒に喫茶店というものにやってきた。
さすがにコーヒーというわけにはいかないみたいだけど、王城の西にある庭園で栽培されている果実のジュースが発売されている。
さすがに値段はかなり高いけど、味はすごくおいしい。
「でも、好きな人はいるんでしょー?」
「えっ……ま、まあ、いる……よ?」
「やっぱり!」
「キーッ!」
わたしは身が乗り出したので、勢いあまって膝の上のキースが床に落ちた。
キースは悲鳴を上げて天井に向かって飛んでいき、スードルの後ろの梁に、逆さまになってぶら下がる。
「ねえねえ、こくはく、した?」
「えっ、いやいやしてないよ! 雲の上の人だし!」
「えぇ、貴族さんなの?」
「えっ、違うよ! 貴族様とは全然関わりがないんだけど」
「それなのに雲の上なの?」
「うん。僕よりずっと魔術が上手くて……」
どうやら身分ではなく、能力の話だったらしい。
もしかして、先輩とかを好きになったんだろうか。
「ねえ、どんな人なの? 年上の人?」
「え? うん、年上だよ。かっこいいし、可愛いし、優しいし……」
「へー、なんて人なの?」
「え、あ、うん……内緒にしてくれる?」
「するする、もちろん! スズネ嘘つかない!」
「キキッ! ……キーーーーッ!?」
キースがキーキー笑うので、わたしは剣の柄を握ってスードルの頭の後ろを起点に水の泡を作り、キースを落とした。
海で鍛えたコントロールが役に立ったみたいだ。
空気の泡の起点を自分の鼻の前にできるのだから、水の泡でうるさいコウモリを包み込むくらいは余裕だ。
「今、何か聞こえなかった?」
「気のせいだよ。ねえねえ、誰か教えて!」
怪しむスードルを誤魔化し、わたしはさらに身を乗り出す。
スードルはちょっとキョロキョロと周りを見渡してから、小さい声でわたしの耳元に囁いた。
「れ、レイスさん……だよ」
ん?
「れいす?」
「うん」
「レイスさんって、あのレイスさん?」
「ほ、他に誰がいるの……?」
「……レイスさんなの!?」
「声が大きいよ!」
スードルは悲鳴を上げてわたしの口をふさぐ。
びちょびちょになって飛べなくなったキースが、トコトコ床を這ってきて、わたしの足に恨めしげに噛みついた。
この学園というのは、さまざまな教育機関及び研究機関、それに付随する寮や宿泊施設、食堂などの生活設備が集まっている場所で、生徒の多くは貴族だけど、平民もいる。
王都第一学院という場所があって、そこは貴族さんや騎士さんが学ぶ場所だそうだ。
スードルがいるのは魔法大学というところで、そこの魔導士学科で学んでいるらしい。
「スズネー!」
ロイドさんとは別の意味で様変わりしていたスードルは、私を見て駆け寄ってきた。
「スードル! すごい、かっこよくなったね!」
ローブやブーツも丁寧に手入れされているので身なりも綺麗だし、全体的に垢抜けている。
青緑の髪もワックスみたいなので程よく遊ばせていて、全然印象が違う。
大学デビューかな?
「そ、そう? かっこいい?」
「うん、見違えたよ!」
「スズネにそう言ってもらえて嬉しいよ。スズネもなんか……元気になったみたいで良かった!」
「わたしが?」
「なんかこう……目の光が戻った感じがする」
「目の……光?」
そういえば、スードルはわたしの目が死んでることを心配してたんだっけ。
自分ではあまり分からないけど、スードルがそう言うならそうなんだろうな。
「それよりスードル、そんなオシャレしてるなんて、彼女でもできたの?」
「彼女って、恋人のこと? いないよ! ここは平民も多いけど、ほとんどは貴族様だし……僕なんかが話しかけたら打ち首になっちゃうよ!」
外見はイケイケでも、中身は今までのスードルと一緒だ。なんだか安心できる。
今日は、スードルは午前中授業がないらしい。
わたしはスードルと一緒に喫茶店というものにやってきた。
さすがにコーヒーというわけにはいかないみたいだけど、王城の西にある庭園で栽培されている果実のジュースが発売されている。
さすがに値段はかなり高いけど、味はすごくおいしい。
「でも、好きな人はいるんでしょー?」
「えっ……ま、まあ、いる……よ?」
「やっぱり!」
「キーッ!」
わたしは身が乗り出したので、勢いあまって膝の上のキースが床に落ちた。
キースは悲鳴を上げて天井に向かって飛んでいき、スードルの後ろの梁に、逆さまになってぶら下がる。
「ねえねえ、こくはく、した?」
「えっ、いやいやしてないよ! 雲の上の人だし!」
「えぇ、貴族さんなの?」
「えっ、違うよ! 貴族様とは全然関わりがないんだけど」
「それなのに雲の上なの?」
「うん。僕よりずっと魔術が上手くて……」
どうやら身分ではなく、能力の話だったらしい。
もしかして、先輩とかを好きになったんだろうか。
「ねえ、どんな人なの? 年上の人?」
「え? うん、年上だよ。かっこいいし、可愛いし、優しいし……」
「へー、なんて人なの?」
「え、あ、うん……内緒にしてくれる?」
「するする、もちろん! スズネ嘘つかない!」
「キキッ! ……キーーーーッ!?」
キースがキーキー笑うので、わたしは剣の柄を握ってスードルの頭の後ろを起点に水の泡を作り、キースを落とした。
海で鍛えたコントロールが役に立ったみたいだ。
空気の泡の起点を自分の鼻の前にできるのだから、水の泡でうるさいコウモリを包み込むくらいは余裕だ。
「今、何か聞こえなかった?」
「気のせいだよ。ねえねえ、誰か教えて!」
怪しむスードルを誤魔化し、わたしはさらに身を乗り出す。
スードルはちょっとキョロキョロと周りを見渡してから、小さい声でわたしの耳元に囁いた。
「れ、レイスさん……だよ」
ん?
「れいす?」
「うん」
「レイスさんって、あのレイスさん?」
「ほ、他に誰がいるの……?」
「……レイスさんなの!?」
「声が大きいよ!」
スードルは悲鳴を上げてわたしの口をふさぐ。
びちょびちょになって飛べなくなったキースが、トコトコ床を這ってきて、わたしの足に恨めしげに噛みついた。
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