上 下
45 / 143
05 試練と挑戦

三日会わざれば刮目せよ

しおりを挟む
 わたしは朝から学園にいた。

 この学園というのは、さまざまな教育機関及び研究機関、それに付随する寮や宿泊施設、食堂などの生活設備が集まっている場所で、生徒の多くは貴族だけど、平民もいる。

 王都第一学院という場所があって、そこは貴族さんや騎士さんが学ぶ場所だそうだ。

 スードルがいるのは魔法大学というところで、そこの魔導士学科で学んでいるらしい。


「スズネー!」

 ロイドさんとは別の意味で様変わりしていたスードルは、私を見て駆け寄ってきた。

「スードル! すごい、かっこよくなったね!」

 ローブやブーツも丁寧に手入れされているので身なりも綺麗だし、全体的に垢抜けている。

 青緑の髪もワックスみたいなので程よく遊ばせていて、全然印象が違う。
 
 大学デビューかな?


「そ、そう? かっこいい?」
「うん、見違えたよ!」

「スズネにそう言ってもらえて嬉しいよ。スズネもなんか……元気になったみたいで良かった!」

「わたしが?」
「なんかこう……目の光が戻った感じがする」
「目の……光?」

 そういえば、スードルはわたしの目が死んでることを心配してたんだっけ。

 自分ではあまり分からないけど、スードルがそう言うならそうなんだろうな。


「それよりスードル、そんなオシャレしてるなんて、彼女でもできたの?」

「彼女って、恋人のこと? いないよ! ここは平民も多いけど、ほとんどは貴族様だし……僕なんかが話しかけたら打ち首になっちゃうよ!」

 外見はイケイケでも、中身は今までのスードルと一緒だ。なんだか安心できる。


 今日は、スードルは午前中授業がないらしい。
 わたしはスードルと一緒に喫茶店というものにやってきた。

 さすがにコーヒーというわけにはいかないみたいだけど、王城の西にある庭園で栽培されている果実のジュースが発売されている。

 さすがに値段はかなり高いけど、味はすごくおいしい。

「でも、好きな人はいるんでしょー?」

「えっ……ま、まあ、いる……よ?」
「やっぱり!」
「キーッ!」

 わたしは身が乗り出したので、勢いあまって膝の上のキースが床に落ちた。

 キースは悲鳴を上げて天井に向かって飛んでいき、スードルの後ろの梁に、逆さまになってぶら下がる。


「ねえねえ、こくはく、した?」
「えっ、いやいやしてないよ! 雲の上の人だし!」

「えぇ、貴族さんなの?」
「えっ、違うよ! 貴族様とは全然関わりがないんだけど」

「それなのに雲の上なの?」
「うん。僕よりずっと魔術が上手くて……」

 どうやら身分ではなく、能力の話だったらしい。
 もしかして、先輩とかを好きになったんだろうか。


「ねえ、どんな人なの? 年上の人?」
「え? うん、年上だよ。かっこいいし、可愛いし、優しいし……」

「へー、なんて人なの?」
「え、あ、うん……内緒にしてくれる?」
「するする、もちろん! スズネ嘘つかない!」
「キキッ! ……キーーーーッ!?」

 キースがキーキー笑うので、わたしは剣の柄を握ってスードルの頭の後ろを起点に水の泡を作り、キースを落とした。
 海で鍛えたコントロールが役に立ったみたいだ。

 空気の泡の起点を自分の鼻の前にできるのだから、水の泡でうるさいコウモリを包み込むくらいは余裕だ。


「今、何か聞こえなかった?」
「気のせいだよ。ねえねえ、誰か教えて!」

 怪しむスードルを誤魔化し、わたしはさらに身を乗り出す。

 スードルはちょっとキョロキョロと周りを見渡してから、小さい声でわたしの耳元に囁いた。

「れ、レイスさん……だよ」

 ん?

「れいす?」
「うん」
「レイスさんって、あのレイスさん?」
「ほ、他に誰がいるの……?」

「……レイスさんなの!?」
「声が大きいよ!」

 スードルは悲鳴を上げてわたしの口をふさぐ。

 びちょびちょになって飛べなくなったキースが、トコトコ床を這ってきて、わたしの足に恨めしげに噛みついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...