43 / 143
05 試練と挑戦
約束の再会
しおりを挟む
王都への道のりは険しいわけではなかったはずなのだけど、やたらと疲れた。
砂漠を旅する間、日中は強烈な日差し、夜は放射冷却で死ぬほど寒くて眠れない。
地平線まで遮るもののない星空は、怖いくらいに明るくて美しかったけど、何しろ寒暖差が激しすぎて大変だった。
加えて、わたしはミノルさん所属する宮廷騎士団さんたちと共に移動した。
何しろ、彼らは移動スピードが凄まじい。
しかも騎士というより武士みたいにストイックだ。
しかし楽しいこともあった。
砂の上はダイオウグソクムシみたいな魔獣に乗って移動するのだけど、この子が本当に可愛い。
初見こそ、ダンゴムシの体の下から無数の触手がはみ出してシュルシュル言ってる様が怖すぎて悲鳴を上げたのだけど、滑るような水平移動は極めて快適だし、夜になると甲羅?が光るのも素敵。
触手はトカゲの尻尾みたいにザラザラしていて、握手してくれたりする。
大人しくて人懐っこく、しかも後ろにメロンくらいの大きさのがゾロゾロと列をなしてついてくる。
この子たちがもう本当に可愛くて、どんだけ戯れていても飽きない。
ちょっと持って行こうかと思ったのだけど、この子たちは砂漠以外では活躍できないようだったので泣く泣く諦めてお別れした。
「……広っ……えぇ。広ぉ……」
さすが王都というだけあって、そのギルドはとんでもなく広かった。
とにかく広い。人が多い。
さすがに豪華絢爛とまではいかないものの、今までのギルドで一番すごい。
天井は高く、隅々まで清掃されていて、すごいしか言えないけど、とにかくすごい。
その迫力に人通りの多さも相まって、わたしは圧倒されてしまった。
ただその広さがすごくて、海の街より密集度は低いような気がする。呆けてばかりもいられない。
ちなみに、ミノルさんたちとはギルドで別れた。彼らは急いで王城に向かうそうだ。
「うん、とりあえず宿を決めるか」
「スズ、タテモノ! キレイ、ステキ!」
「喋らないで目立つから」
「キー!?」
海の街と同じく、入り口すぐにはロビーがある。
わたしはインフォメーションのお姉さんに接触した。
「こんにちは。えっと……移動登録と、宿を探したいんですけど。どこに行けばいいですか?」
「……あら、その白い子……もしかしてスズネさんじゃありませんか?」
「あ、スズネはわたしです」
「え? あ、ふふっ。そうですね。やっぱりスズネちゃんでしたか。少々こちらでお待ちくださいね」
垂れ目のお姉さんはそう言い残し、裏に行ってしまった。
わたしは受付の場所を聞きたかっただけなのに。
「お待たせしました、どうぞこちらへ」
お姉さんは別の人を連れてきて、自分の代わりにそこに立たせた。
わたしを案内してくれるようだ。
忙しいだろうに、親切な人だなあ。
「どこに行くんですか?」
「スズネさんを連れてきてほしい、と言われているのですよ」
「えっ?」
王都、ギルド、連れて行く。
人、都会、大人、コウモリ、幼女。
「ゆう……かい?」
「キー?」
「こちらへどうぞ、少々お待ちくださいね」
わたしは若干の怪しさを感じながらも、その部屋のソファに座った。
めっちゃふわふわだ……
たぶんちょっと今疲れてて頭がバカになってるな……
「ねえキース、眠いからちょっと寝てもいい? 後で起こしてくれればいいからさ」
「イヤ。ネル」
「キースはいつも寝てるじゃん! ネコじゃないんだから起きてよ!」
抵抗虚しく、キースはわたしの隣にぺちゃんこになって寝始めた。
わたしが仕方なくその頭をなでなですると、キースは気持ちよさそうに寝息を立て始めた。呑気だなぁ。
部屋には王都の地図が飾られていて、わたしはそれを眺める。
ギルドも大きいが、都市はもっと大きい。
王都の西にはお城があり、周囲には貴族のお屋敷が広がっている。
南にギルド、北には学園がある。
西東はホテルとかお店とか、普通の街が広がっているらしい。
「大きい街だなぁ」
地図には周辺の街の大体の位置と方向も記されている。
わたしが未だ訪れたことのない場所もあった。
南の砂漠の街、そして南西の火山と北西の雪山。
そこに世界樹の都市なんて場所はないみたいだ。
そんな風に感心しながら色々眺めていると、部屋の扉がノックされた。
ノックに気づいたキースは起き上がり、飛んで寄ってきてからわたしの頭の上に鎮座する。
「はーい」
応接間の扉が開いた。
「スズネ!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
そして、部屋に飛び込んできたその人は、わたしの知っている人だった。
「アリスメードさん!」
アリスメードさんは、パーティ「ワンダーランド」のリーダーだ。
わたしをあの白い部屋から連れ出してくれた張本人。
彼は嬉しそうに走ってきて、わたしにハグした。
「ああよかった……元気そうだな、怪我とかしなかったか? ああ、俺はもう心配で心配で……」
相変わらずだな、アリスメードさん。
彼は生き別れた子供に再会した父親の如く肩を震わせ、わたしを抱きしめている。
「……アリス、みっともない。やめて」
背後から現れたのはフェンネルさん。
表情に乏しく、抑揚のない話し方。長剣を背負った剣士。
彼女も変わっていない。
「ふぇ、フェンネルさんもいたんですね」
わたしはなんとかアリスメードさんから離れて、フェンネルさんにそう言う。
「うん。レイスもいるよ。あとシアトル」
フェンネルさんの背後から、レイスさんが顔を出した。
「あー! スズネだー! かっわいー!」
「レイスさん! レイスさんも変わって……な……」
獣人の魔術師、レイスさんは全然変わっていた。様変わりしていた。
頭髪はグレーに近く、そして尻尾もグレーになっている。
普通の人にしか見えなかった顔も、その目の色が変わり、嬉しそうに笑った口元から、牙が覗いている。
「あ……ぁ……レイス……さん?」
正直言って、少し怖い。
本当にレイスさんなのだろうか。家族とかじゃなくて?
「あぁ、スズネは知らなかったな。間違いなくレイスだよ」
「そうだよー! かっこいいでしょ?」
中身は元のレイスさんのままみたいだ。
わたしは「何があったんですか?」と聞いてみる。
「いろいろあったんだよ~! でもロイドの方がもっと……」
「まあまあ、積もる話はまた後よ。ここかどこかお忘れかしら?」
シアトルさんは、誰よりも変わっていなかった。
だから、受け取るわたしの方が変わったのだと思う。
シアトルさんは、最後に会ったときと同じように笑っていた。
その笑顔はどこか醤油さんを思わせるような、そんな含みがあるような裏があるような、それでいて醤油さんにはある無邪気さみたいなものがない。
代わりにちょっと妖しいような妖艶さがあった。
「もちろんだ。スズネ、座ってくれ。今日は大事な話があるんだ」
「えっ……と」
「着いたばかりで疲れてるだろうけど、大事な話なのよ。ごめんなさいね」
フェンネルさん以外は全員ソファに座って、フェンネルさんはアリスメードさんの隣に立った。
席が足りないわけではないのだけど、剣士さんだし、常に戦闘体制でありたいのだろうか。
「どんな話題か、想像はついてるか?」
「えと……いえ、あんまり」
「そうか。じゃあ単刀直入に聞くよ。先日、海の方から早馬が届いたんだ。宮廷騎士団、第3団からだった。この世界が危機にあると、そういう内容だった」
ああ、そうだった。
すっかり忘れていたけれど、わたしは世界の危機を打ち明けたのだった。
「え、そんな大事になってるんですか?」
「宮廷騎士が持ち帰ってきた情報だったから、ある程度の信憑性はあったみたいね。加えてここ最近の魔獣と魔物の増加に、危機感を覚えていたところよ。このまま増え続ければ、いずれは大きな被害が出る」
「一部にしか知らされてないんだ。情報源がスズネだってことは、もっと知られてない」
だから安心してくれ、とアリスメードさんは言った。
いい人たちだなぁ。
「俺たちは信じてるよ。スズネは一人っきりで、あの白玉の森にいた。そういう力があっても不思議じゃないと思ってる。だから、詳しい話を聞かせてほしいんだ」
そうか、アリスメードさんは主人公。
モンスターハウスで徹夜するくらいだし、世界の危機に何もしないなどという選択肢は彼にはないのだろう。
「でも、わたしも全然分からないんです。その……実は、わたし、この世界の人じゃなくて」
何を言ってるんだと言われるかとも思ったのだけど、誰もそうは言わず、あっさりと受け入れてくれた。
「転生、っていうか。前のことは全然覚えてないんですけど。その時、神様だか天使様だかに聞いたお話なんです。『この世界はあと1年と少しで滅びる』って」
「曖昧ね。正確な日付は分からないのかしら」
「スズネと出会ったのが約半年前だ。時間制限はあと半年……」
「その原因は分かるのかしら?」
「分からないです。ただ、魔力を持つ世界は崩れやすいとか言ってたから、たぶん魔力が原因なんだと思います」
わたしに質問するのはアリスメードさんとシアトルさんばかりで、フェンネルさんは黙って聞いているし、レイスさんはキースと戯れている。
わたしは、エナーシャさんのことを除いては分かっていることを全て話した。
世界樹の都市は、ただ行ってみたいっていうことにしておいく。
アリスメードさんとシアトルさんは興味深そうに聞いてくれた。
「つまり、スズネは今その、世界樹の都市を探してる……行商人と一緒に?」
「そうです」
「なるほどね」
シアトルさんが頷いた。
「……どうする?」
初めて、黙って聞いていたフェンネルさんが喋った。
アリスメードさんは考えることなく、「もちろん、世界の存続を目指す」と言う。
「それ以外の選択肢はない。このときのために戦ってきたんだ」
「スズネは?」
「スズネが決めることだ。スズネには俺たちに協力する義務なんかないし、俺たちにそれを強制する権利もない」
ふふっ、とシアトルさんが小さく笑う。
「それじゃあアリス、あなたはこの世界を救う救世主になるってこと?」
「もちろん。なれるものなら、救世主になる」
「何の犠牲もなく?」
「……どういう意味でそう言ってるんだ?」
「もし世界を救うために、仲間やスズネちゃんの犠牲が必要なのだとしたら、それを払う覚悟はあるの?」
「……」
アリスメードさんが、一瞬シアトルさんを睨んだ気がした。
でも彼はすぐに目を逸らす。
「あり得ない。仲間の一人も守れない救世主なんて、俺は望まない」
「あたしはアリスと一緒」
アリスメードさんは変わっていない。
そしてフェンネルさんも、それは同じなのだと思う。
「かわいくなったねー! 食べがいがありそう!」
「キー!? キキー!!」
……レイスさんも、変わってないなぁ。
砂漠を旅する間、日中は強烈な日差し、夜は放射冷却で死ぬほど寒くて眠れない。
地平線まで遮るもののない星空は、怖いくらいに明るくて美しかったけど、何しろ寒暖差が激しすぎて大変だった。
加えて、わたしはミノルさん所属する宮廷騎士団さんたちと共に移動した。
何しろ、彼らは移動スピードが凄まじい。
しかも騎士というより武士みたいにストイックだ。
しかし楽しいこともあった。
砂の上はダイオウグソクムシみたいな魔獣に乗って移動するのだけど、この子が本当に可愛い。
初見こそ、ダンゴムシの体の下から無数の触手がはみ出してシュルシュル言ってる様が怖すぎて悲鳴を上げたのだけど、滑るような水平移動は極めて快適だし、夜になると甲羅?が光るのも素敵。
触手はトカゲの尻尾みたいにザラザラしていて、握手してくれたりする。
大人しくて人懐っこく、しかも後ろにメロンくらいの大きさのがゾロゾロと列をなしてついてくる。
この子たちがもう本当に可愛くて、どんだけ戯れていても飽きない。
ちょっと持って行こうかと思ったのだけど、この子たちは砂漠以外では活躍できないようだったので泣く泣く諦めてお別れした。
「……広っ……えぇ。広ぉ……」
さすが王都というだけあって、そのギルドはとんでもなく広かった。
とにかく広い。人が多い。
さすがに豪華絢爛とまではいかないものの、今までのギルドで一番すごい。
天井は高く、隅々まで清掃されていて、すごいしか言えないけど、とにかくすごい。
その迫力に人通りの多さも相まって、わたしは圧倒されてしまった。
ただその広さがすごくて、海の街より密集度は低いような気がする。呆けてばかりもいられない。
ちなみに、ミノルさんたちとはギルドで別れた。彼らは急いで王城に向かうそうだ。
「うん、とりあえず宿を決めるか」
「スズ、タテモノ! キレイ、ステキ!」
「喋らないで目立つから」
「キー!?」
海の街と同じく、入り口すぐにはロビーがある。
わたしはインフォメーションのお姉さんに接触した。
「こんにちは。えっと……移動登録と、宿を探したいんですけど。どこに行けばいいですか?」
「……あら、その白い子……もしかしてスズネさんじゃありませんか?」
「あ、スズネはわたしです」
「え? あ、ふふっ。そうですね。やっぱりスズネちゃんでしたか。少々こちらでお待ちくださいね」
垂れ目のお姉さんはそう言い残し、裏に行ってしまった。
わたしは受付の場所を聞きたかっただけなのに。
「お待たせしました、どうぞこちらへ」
お姉さんは別の人を連れてきて、自分の代わりにそこに立たせた。
わたしを案内してくれるようだ。
忙しいだろうに、親切な人だなあ。
「どこに行くんですか?」
「スズネさんを連れてきてほしい、と言われているのですよ」
「えっ?」
王都、ギルド、連れて行く。
人、都会、大人、コウモリ、幼女。
「ゆう……かい?」
「キー?」
「こちらへどうぞ、少々お待ちくださいね」
わたしは若干の怪しさを感じながらも、その部屋のソファに座った。
めっちゃふわふわだ……
たぶんちょっと今疲れてて頭がバカになってるな……
「ねえキース、眠いからちょっと寝てもいい? 後で起こしてくれればいいからさ」
「イヤ。ネル」
「キースはいつも寝てるじゃん! ネコじゃないんだから起きてよ!」
抵抗虚しく、キースはわたしの隣にぺちゃんこになって寝始めた。
わたしが仕方なくその頭をなでなですると、キースは気持ちよさそうに寝息を立て始めた。呑気だなぁ。
部屋には王都の地図が飾られていて、わたしはそれを眺める。
ギルドも大きいが、都市はもっと大きい。
王都の西にはお城があり、周囲には貴族のお屋敷が広がっている。
南にギルド、北には学園がある。
西東はホテルとかお店とか、普通の街が広がっているらしい。
「大きい街だなぁ」
地図には周辺の街の大体の位置と方向も記されている。
わたしが未だ訪れたことのない場所もあった。
南の砂漠の街、そして南西の火山と北西の雪山。
そこに世界樹の都市なんて場所はないみたいだ。
そんな風に感心しながら色々眺めていると、部屋の扉がノックされた。
ノックに気づいたキースは起き上がり、飛んで寄ってきてからわたしの頭の上に鎮座する。
「はーい」
応接間の扉が開いた。
「スズネ!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
そして、部屋に飛び込んできたその人は、わたしの知っている人だった。
「アリスメードさん!」
アリスメードさんは、パーティ「ワンダーランド」のリーダーだ。
わたしをあの白い部屋から連れ出してくれた張本人。
彼は嬉しそうに走ってきて、わたしにハグした。
「ああよかった……元気そうだな、怪我とかしなかったか? ああ、俺はもう心配で心配で……」
相変わらずだな、アリスメードさん。
彼は生き別れた子供に再会した父親の如く肩を震わせ、わたしを抱きしめている。
「……アリス、みっともない。やめて」
背後から現れたのはフェンネルさん。
表情に乏しく、抑揚のない話し方。長剣を背負った剣士。
彼女も変わっていない。
「ふぇ、フェンネルさんもいたんですね」
わたしはなんとかアリスメードさんから離れて、フェンネルさんにそう言う。
「うん。レイスもいるよ。あとシアトル」
フェンネルさんの背後から、レイスさんが顔を出した。
「あー! スズネだー! かっわいー!」
「レイスさん! レイスさんも変わって……な……」
獣人の魔術師、レイスさんは全然変わっていた。様変わりしていた。
頭髪はグレーに近く、そして尻尾もグレーになっている。
普通の人にしか見えなかった顔も、その目の色が変わり、嬉しそうに笑った口元から、牙が覗いている。
「あ……ぁ……レイス……さん?」
正直言って、少し怖い。
本当にレイスさんなのだろうか。家族とかじゃなくて?
「あぁ、スズネは知らなかったな。間違いなくレイスだよ」
「そうだよー! かっこいいでしょ?」
中身は元のレイスさんのままみたいだ。
わたしは「何があったんですか?」と聞いてみる。
「いろいろあったんだよ~! でもロイドの方がもっと……」
「まあまあ、積もる話はまた後よ。ここかどこかお忘れかしら?」
シアトルさんは、誰よりも変わっていなかった。
だから、受け取るわたしの方が変わったのだと思う。
シアトルさんは、最後に会ったときと同じように笑っていた。
その笑顔はどこか醤油さんを思わせるような、そんな含みがあるような裏があるような、それでいて醤油さんにはある無邪気さみたいなものがない。
代わりにちょっと妖しいような妖艶さがあった。
「もちろんだ。スズネ、座ってくれ。今日は大事な話があるんだ」
「えっ……と」
「着いたばかりで疲れてるだろうけど、大事な話なのよ。ごめんなさいね」
フェンネルさん以外は全員ソファに座って、フェンネルさんはアリスメードさんの隣に立った。
席が足りないわけではないのだけど、剣士さんだし、常に戦闘体制でありたいのだろうか。
「どんな話題か、想像はついてるか?」
「えと……いえ、あんまり」
「そうか。じゃあ単刀直入に聞くよ。先日、海の方から早馬が届いたんだ。宮廷騎士団、第3団からだった。この世界が危機にあると、そういう内容だった」
ああ、そうだった。
すっかり忘れていたけれど、わたしは世界の危機を打ち明けたのだった。
「え、そんな大事になってるんですか?」
「宮廷騎士が持ち帰ってきた情報だったから、ある程度の信憑性はあったみたいね。加えてここ最近の魔獣と魔物の増加に、危機感を覚えていたところよ。このまま増え続ければ、いずれは大きな被害が出る」
「一部にしか知らされてないんだ。情報源がスズネだってことは、もっと知られてない」
だから安心してくれ、とアリスメードさんは言った。
いい人たちだなぁ。
「俺たちは信じてるよ。スズネは一人っきりで、あの白玉の森にいた。そういう力があっても不思議じゃないと思ってる。だから、詳しい話を聞かせてほしいんだ」
そうか、アリスメードさんは主人公。
モンスターハウスで徹夜するくらいだし、世界の危機に何もしないなどという選択肢は彼にはないのだろう。
「でも、わたしも全然分からないんです。その……実は、わたし、この世界の人じゃなくて」
何を言ってるんだと言われるかとも思ったのだけど、誰もそうは言わず、あっさりと受け入れてくれた。
「転生、っていうか。前のことは全然覚えてないんですけど。その時、神様だか天使様だかに聞いたお話なんです。『この世界はあと1年と少しで滅びる』って」
「曖昧ね。正確な日付は分からないのかしら」
「スズネと出会ったのが約半年前だ。時間制限はあと半年……」
「その原因は分かるのかしら?」
「分からないです。ただ、魔力を持つ世界は崩れやすいとか言ってたから、たぶん魔力が原因なんだと思います」
わたしに質問するのはアリスメードさんとシアトルさんばかりで、フェンネルさんは黙って聞いているし、レイスさんはキースと戯れている。
わたしは、エナーシャさんのことを除いては分かっていることを全て話した。
世界樹の都市は、ただ行ってみたいっていうことにしておいく。
アリスメードさんとシアトルさんは興味深そうに聞いてくれた。
「つまり、スズネは今その、世界樹の都市を探してる……行商人と一緒に?」
「そうです」
「なるほどね」
シアトルさんが頷いた。
「……どうする?」
初めて、黙って聞いていたフェンネルさんが喋った。
アリスメードさんは考えることなく、「もちろん、世界の存続を目指す」と言う。
「それ以外の選択肢はない。このときのために戦ってきたんだ」
「スズネは?」
「スズネが決めることだ。スズネには俺たちに協力する義務なんかないし、俺たちにそれを強制する権利もない」
ふふっ、とシアトルさんが小さく笑う。
「それじゃあアリス、あなたはこの世界を救う救世主になるってこと?」
「もちろん。なれるものなら、救世主になる」
「何の犠牲もなく?」
「……どういう意味でそう言ってるんだ?」
「もし世界を救うために、仲間やスズネちゃんの犠牲が必要なのだとしたら、それを払う覚悟はあるの?」
「……」
アリスメードさんが、一瞬シアトルさんを睨んだ気がした。
でも彼はすぐに目を逸らす。
「あり得ない。仲間の一人も守れない救世主なんて、俺は望まない」
「あたしはアリスと一緒」
アリスメードさんは変わっていない。
そしてフェンネルさんも、それは同じなのだと思う。
「かわいくなったねー! 食べがいがありそう!」
「キー!? キキー!!」
……レイスさんも、変わってないなぁ。
20
お気に入りに追加
803
あなたにおすすめの小説
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる