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04 行商人と目的地
怒涛
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たった数日で、海は危険だということと、宮廷騎士の実力を、わたしは身を持って知った。
ミノルさんは、それはそれはお強い騎士様だ。
私と同じ両刃の直剣使いだが、練度が違いすぎる。
剣なんて振り回せば一緒とかなんとかどこかのドワーフが言っていたが、全然そんなことはない。
わたしは、人が海を割るところを初めて見た。
ミノルさんはかなり長い間付き合ってくれた。
わたしとダイビングの相性はそんなに良くなかったのだけど、やはり努力は裏切らない。
加えて、空気の泡を作るよりは、敵に斬りかかる方が、わたしにとっては得意分野だったようだ。
呼吸が不自由なくできるようになった頃には、嘘みたいに海の中を自由自在に移動して、5m級の魔獣を一人で仕留めた。
「……すご……わたし、すご」
海を叩き割るミノルさんには遠く及ばないけれど、キースなしでここまでできるなんて。
倒した魔獣のお祝いバーベキューに興じながら、わたしは自分の潜在能力に感動していた。
「たはは、私の見込んだ通りでしたよ」
「……キー」
ちゃっかり参加中の醤油さんを、それとなく避けるキース。
最近あまり一緒にいてあげられないせいか、ちょっと元気がない。
心なしか萎んでいる気がする。
「もうそろそろ行けるんじゃありませんか? お兄さんもいらっしゃってくださいますよね」
「休暇中だからな、付き合うつもりだ。積極的に動くことはできないが」
「それは嬉しいですね。報酬はお支払いした方が?」
「いや、やめてくれ。妹とバカンスに興じるのは禁止されてないが、副業は禁止だからな」
最初の四足歩行が印象的すぎて最初は思わなかったのだけど、ミノルさんは騎士様だけあって気品がある。
休暇中だからとかで制服も着ていないけれど、野生の中にも、どことなく高貴さを感じる。
「宮廷騎士団って、どんなお仕事をしてるんですか?」
「我が第3騎士団は、砂漠のダンジョンの管理、周囲の街の治安維持、警護を担当している」
「ダンジョンじゃないのに、パトロールに来てくれたんですか」
「近頃は、魔物の発生、魔獣化が増加しているからな。スズネも気をつけた方がいい。冒険者にとっては、稼ぎやすいかもしれないが」
ミノルさんは、鋭い牙で魚の身を鱗ごと噛み千切る。
一方のリンさんは、よく噛んで少しずつ食べている。
「ところで、どうしてあんな場所に行きたいんだ? あの辺りはデッド・ゾーンだから安全ではあるが、面白いものはないと思うが」
「とある場所を探していまして。世界樹の都市、ご存知ですか?」
「知らないな。全く」
醤油さんはつれない返事にも動じず、「そうですかぁ」とか言って笑っている。
「そこに行ってどうする?」
「人を探していましてね。そこにいると思うんですよ」
「恋人かにゃ~?」
リンさんがからかうみたいに言ったが、醤油さんはあり得ないという風に首を振る。
「たはは、恋人? 人としては最悪の部類ですよ。付き合うなんてあり得ません」
醤油さんらしくもない毒を吐くので、わたしまで気になった。
「そんなに嫌なら、どうして探してるんですか?」
尋ねてみたら、醤油さんは「そうですねぇ」とまた底の見えない笑顔を見せた。
「嫌な相手でも、一緒にいなければいけない理由があるからですよ。あ、いや……逆ですね。私の生きている理由が、エナと一緒にいることだからです」
意味深なことを言って誤魔化そうとしているような気がしなくもなかった。
何か話せない事情があるのか、もったいぶって面白がっているのか。
醤油さんの場合、どっちもあり得そうだから困る。
「スズネさえよければ、今から様子を見に行けばいいと思うんだけどにゃ。どうする?」
「今から行くのか?」
「様子を見るだけだにゃ。最近近づいてにゃかったから、様子が変わってるかもしれにゃい」
「わたしは大丈夫です、行きます!」
「キー……」
ついさっき獲物をゲットしたおかげでハイになっているのか元気なわたしは、二つ返事でオーケーした。
ちょっとキースは嫌そうだったけど。
「じゃあ船を動かすから、気をつけてにゃ」
船は動き出した。
音もなく進む。帆船に似たボート。
多分、魔石か何かで動いている。
「ミノルさん、どうしてこの街に来たんですか? さっきダンジョンで仕事してるって、聞きましたけど……」
ミノルさんはやや手持ち無沙汰で暇そうにしていた。彼はわたしを振り返り、気前よく答えてくれる。
「沖の魔獣が増えていることについて、調査に来た」
「調査……って、冒険者の人に頼まないんですか?」
ギルドには調査の依頼もある。
アリスメードさんたちはそれを受けて白玉の森に来てくれたのだ。
「我々は本来、ダンジョン内の管理を生業としている。だが近頃、宝具によってダンジョンの活性が抑えられているのだ。暇なのでこちらに来た」
「暇……」
「だが、仕事はいくらでもある。今回の任務は、ギルドの手伝いといったところだ」
つまり、本来はこういう調査や開拓を冒険者がやって、その後の維持管理を騎士団がしていると。
維持管理が暇になったからって手伝いに来てくれるなんて、仕事熱心な人たちだ。
「それじゃあ、冒険者のわたしも、頑張らないとですね!」
「ああ、そうだな。そうしてくれると助かる」
ミノルさんは鋭い牙を見せて笑い、わたしの頭を撫でた。
「だが少女よ、殺されるなよ。市民を守ることが、我々の最も重要な仕事なんだ」
そんな、ミノルさんの騎士様らしいところをちょこっと垣間見たときだった。
リンさんが悲鳴のような叫び声を上げた。
「前方、右舷の方向に魔力反応あり! 敵対反応、3m級魔獣が少なくとも5体!」
船が大きく揺れる。リンさんが思いっきり左へ舵を切った。
「うわっ!」
大きく船が揺れる。わたしは船縁にしがみつく。
「こ、ここ、危険なんですね……」
「いや、この辺りの海域はほとんど生物がいない。偶然、逸れが偶然合流しただけだろう。リン! 5体なら仕留める、そのまま進め!」
「……分かった! 頼む!」
再び船が前進する。
ミノルさんの海上戦闘スタイルは独特だ。
剣を抜き、それを咥えて獣へと変身する。
そのまま海に身を躍らせ、走る。
ミノルさんもそうだけど、獣人の人は訓練すれば自分の姿を変えられるのだそうだ。
もちろんすごい難しくて、ミノルさんくらいスムーズに自由自在にできる人は滅多にいないらしい。
そんなミノルさんがだいぶ前方に走った頃、魔獣が姿を現した。
数にして5体。
リンさんのソナーは正確だ。
ミノルさんは正面の魔獣に、爪で襲いかかる。
その隙に背後から襲いかる魔獣を、振り向きざまに剣で一突き、絶命させる。
重さを持った剣は、咥えていられなくてそのまま落ちる。
人の姿に戻る。引き抜いた剣で魔獣の牙を受ける。ネコの顎で噛み砕く、切り裂く。
やはりその強さは圧巻の一言に尽きる。この人本当にすご……
「うっ……ぁっ……」
頭が痛い。
「なんっ、で、こんな急に……痛い……いたっ……」
ズキン、ズキン、鼓動と共に、頭の中で小石が跳ねるような痛みが続く。
——愚かな。
今まで経験したことがないような痛みだ。
——大人しくしていれば良かったものを。
わたしは頭を押さえて蹲った。
——怠惰であることすらできぬらしい。
痛い。痛い痛い痛い。
——アレと約束を違うことは避けたかったが、致し方あるまい。
「スズネ、危にゃいっ!」
——邪魔をされるよりは。
何が起きたか分からなかった。
気がついたときには、わたしは既に海に投げ出されていた。
「っぷは、あ、え?」
さっきまでいた甲板が頭の上にある。リンさんが何か叫んでいる。
「スズネ! 船に戻って!」
醤油さんがロープを投げる。
わたしはそれに手を伸ばす。
次の瞬間、凄まじい水流に揉まれ、わたしは海の中に引き摺り込まれた。
ぼやけた視界に空気を挟み半ば無意識に明瞭化する。恐ろしく深い海、目の前に迫る牙。
思い出す白玉の森の思い出。
あのときのわたしは、巨大な魔獣になす術もなく逃げることしかできなかった。
でも今は、不思議と怖くない。
わたしは知ってる。
「シュート・エレメント・アクア!」
同時に泡は消える。視界は奪われる。
でも大丈夫、分かってる。
剣は硬く、鋭く。精度を上げる。
速度は十分。この剣なら貫ける。
もう、何も分からなかった頃のわたしじゃない。
水面に顔を出した。
幸いにも波は穏やか。
「キー!」
キースがわたしの目の前にいた。
でもそのキースは、わたしの知ってるキースじゃなかった。
「えっ、キ、キース!?」
「キー!」
間違いなく巨大と言っていい、真っ白なコウモリがそこにいた。
大人を乗せて飛べるくらいの大きさがある。あの小さくて可愛かったキースはどこへ……?
「うあっ……」
また頭痛が襲ってくる。泳いでいられない。わたしはまた水の中に沈みかける。
「キー!」
でもわたしは、空中に浮かんだ。
そして、キースがわたしのことを咥えて持ち上げていることに気がつく。
キースは重たいのか、よろよろしながら低空飛行したけど、わたしをなんとか船に落としてくれた。
「大丈夫ですか、スズネさん」
醤油さんが駆け寄ってきて、わたしのことを助けてくれた。
「キー!」
「助けてくれてありがと、キース。助かったよ」
「キー!」
「えへへ、なでなでしてあげるからね……頭が治ったら」
「離脱するよ! スズネを頼む!」
言うが早いか、リンさんは一気に船の速度を上げた。
激しい振動と共に、その海域が遠ざかっていく。
片方の眼を失った海の魔獣が、怒り狂う声が聞こえた。
ミノルさんは、それはそれはお強い騎士様だ。
私と同じ両刃の直剣使いだが、練度が違いすぎる。
剣なんて振り回せば一緒とかなんとかどこかのドワーフが言っていたが、全然そんなことはない。
わたしは、人が海を割るところを初めて見た。
ミノルさんはかなり長い間付き合ってくれた。
わたしとダイビングの相性はそんなに良くなかったのだけど、やはり努力は裏切らない。
加えて、空気の泡を作るよりは、敵に斬りかかる方が、わたしにとっては得意分野だったようだ。
呼吸が不自由なくできるようになった頃には、嘘みたいに海の中を自由自在に移動して、5m級の魔獣を一人で仕留めた。
「……すご……わたし、すご」
海を叩き割るミノルさんには遠く及ばないけれど、キースなしでここまでできるなんて。
倒した魔獣のお祝いバーベキューに興じながら、わたしは自分の潜在能力に感動していた。
「たはは、私の見込んだ通りでしたよ」
「……キー」
ちゃっかり参加中の醤油さんを、それとなく避けるキース。
最近あまり一緒にいてあげられないせいか、ちょっと元気がない。
心なしか萎んでいる気がする。
「もうそろそろ行けるんじゃありませんか? お兄さんもいらっしゃってくださいますよね」
「休暇中だからな、付き合うつもりだ。積極的に動くことはできないが」
「それは嬉しいですね。報酬はお支払いした方が?」
「いや、やめてくれ。妹とバカンスに興じるのは禁止されてないが、副業は禁止だからな」
最初の四足歩行が印象的すぎて最初は思わなかったのだけど、ミノルさんは騎士様だけあって気品がある。
休暇中だからとかで制服も着ていないけれど、野生の中にも、どことなく高貴さを感じる。
「宮廷騎士団って、どんなお仕事をしてるんですか?」
「我が第3騎士団は、砂漠のダンジョンの管理、周囲の街の治安維持、警護を担当している」
「ダンジョンじゃないのに、パトロールに来てくれたんですか」
「近頃は、魔物の発生、魔獣化が増加しているからな。スズネも気をつけた方がいい。冒険者にとっては、稼ぎやすいかもしれないが」
ミノルさんは、鋭い牙で魚の身を鱗ごと噛み千切る。
一方のリンさんは、よく噛んで少しずつ食べている。
「ところで、どうしてあんな場所に行きたいんだ? あの辺りはデッド・ゾーンだから安全ではあるが、面白いものはないと思うが」
「とある場所を探していまして。世界樹の都市、ご存知ですか?」
「知らないな。全く」
醤油さんはつれない返事にも動じず、「そうですかぁ」とか言って笑っている。
「そこに行ってどうする?」
「人を探していましてね。そこにいると思うんですよ」
「恋人かにゃ~?」
リンさんがからかうみたいに言ったが、醤油さんはあり得ないという風に首を振る。
「たはは、恋人? 人としては最悪の部類ですよ。付き合うなんてあり得ません」
醤油さんらしくもない毒を吐くので、わたしまで気になった。
「そんなに嫌なら、どうして探してるんですか?」
尋ねてみたら、醤油さんは「そうですねぇ」とまた底の見えない笑顔を見せた。
「嫌な相手でも、一緒にいなければいけない理由があるからですよ。あ、いや……逆ですね。私の生きている理由が、エナと一緒にいることだからです」
意味深なことを言って誤魔化そうとしているような気がしなくもなかった。
何か話せない事情があるのか、もったいぶって面白がっているのか。
醤油さんの場合、どっちもあり得そうだから困る。
「スズネさえよければ、今から様子を見に行けばいいと思うんだけどにゃ。どうする?」
「今から行くのか?」
「様子を見るだけだにゃ。最近近づいてにゃかったから、様子が変わってるかもしれにゃい」
「わたしは大丈夫です、行きます!」
「キー……」
ついさっき獲物をゲットしたおかげでハイになっているのか元気なわたしは、二つ返事でオーケーした。
ちょっとキースは嫌そうだったけど。
「じゃあ船を動かすから、気をつけてにゃ」
船は動き出した。
音もなく進む。帆船に似たボート。
多分、魔石か何かで動いている。
「ミノルさん、どうしてこの街に来たんですか? さっきダンジョンで仕事してるって、聞きましたけど……」
ミノルさんはやや手持ち無沙汰で暇そうにしていた。彼はわたしを振り返り、気前よく答えてくれる。
「沖の魔獣が増えていることについて、調査に来た」
「調査……って、冒険者の人に頼まないんですか?」
ギルドには調査の依頼もある。
アリスメードさんたちはそれを受けて白玉の森に来てくれたのだ。
「我々は本来、ダンジョン内の管理を生業としている。だが近頃、宝具によってダンジョンの活性が抑えられているのだ。暇なのでこちらに来た」
「暇……」
「だが、仕事はいくらでもある。今回の任務は、ギルドの手伝いといったところだ」
つまり、本来はこういう調査や開拓を冒険者がやって、その後の維持管理を騎士団がしていると。
維持管理が暇になったからって手伝いに来てくれるなんて、仕事熱心な人たちだ。
「それじゃあ、冒険者のわたしも、頑張らないとですね!」
「ああ、そうだな。そうしてくれると助かる」
ミノルさんは鋭い牙を見せて笑い、わたしの頭を撫でた。
「だが少女よ、殺されるなよ。市民を守ることが、我々の最も重要な仕事なんだ」
そんな、ミノルさんの騎士様らしいところをちょこっと垣間見たときだった。
リンさんが悲鳴のような叫び声を上げた。
「前方、右舷の方向に魔力反応あり! 敵対反応、3m級魔獣が少なくとも5体!」
船が大きく揺れる。リンさんが思いっきり左へ舵を切った。
「うわっ!」
大きく船が揺れる。わたしは船縁にしがみつく。
「こ、ここ、危険なんですね……」
「いや、この辺りの海域はほとんど生物がいない。偶然、逸れが偶然合流しただけだろう。リン! 5体なら仕留める、そのまま進め!」
「……分かった! 頼む!」
再び船が前進する。
ミノルさんの海上戦闘スタイルは独特だ。
剣を抜き、それを咥えて獣へと変身する。
そのまま海に身を躍らせ、走る。
ミノルさんもそうだけど、獣人の人は訓練すれば自分の姿を変えられるのだそうだ。
もちろんすごい難しくて、ミノルさんくらいスムーズに自由自在にできる人は滅多にいないらしい。
そんなミノルさんがだいぶ前方に走った頃、魔獣が姿を現した。
数にして5体。
リンさんのソナーは正確だ。
ミノルさんは正面の魔獣に、爪で襲いかかる。
その隙に背後から襲いかる魔獣を、振り向きざまに剣で一突き、絶命させる。
重さを持った剣は、咥えていられなくてそのまま落ちる。
人の姿に戻る。引き抜いた剣で魔獣の牙を受ける。ネコの顎で噛み砕く、切り裂く。
やはりその強さは圧巻の一言に尽きる。この人本当にすご……
「うっ……ぁっ……」
頭が痛い。
「なんっ、で、こんな急に……痛い……いたっ……」
ズキン、ズキン、鼓動と共に、頭の中で小石が跳ねるような痛みが続く。
——愚かな。
今まで経験したことがないような痛みだ。
——大人しくしていれば良かったものを。
わたしは頭を押さえて蹲った。
——怠惰であることすらできぬらしい。
痛い。痛い痛い痛い。
——アレと約束を違うことは避けたかったが、致し方あるまい。
「スズネ、危にゃいっ!」
——邪魔をされるよりは。
何が起きたか分からなかった。
気がついたときには、わたしは既に海に投げ出されていた。
「っぷは、あ、え?」
さっきまでいた甲板が頭の上にある。リンさんが何か叫んでいる。
「スズネ! 船に戻って!」
醤油さんがロープを投げる。
わたしはそれに手を伸ばす。
次の瞬間、凄まじい水流に揉まれ、わたしは海の中に引き摺り込まれた。
ぼやけた視界に空気を挟み半ば無意識に明瞭化する。恐ろしく深い海、目の前に迫る牙。
思い出す白玉の森の思い出。
あのときのわたしは、巨大な魔獣になす術もなく逃げることしかできなかった。
でも今は、不思議と怖くない。
わたしは知ってる。
「シュート・エレメント・アクア!」
同時に泡は消える。視界は奪われる。
でも大丈夫、分かってる。
剣は硬く、鋭く。精度を上げる。
速度は十分。この剣なら貫ける。
もう、何も分からなかった頃のわたしじゃない。
水面に顔を出した。
幸いにも波は穏やか。
「キー!」
キースがわたしの目の前にいた。
でもそのキースは、わたしの知ってるキースじゃなかった。
「えっ、キ、キース!?」
「キー!」
間違いなく巨大と言っていい、真っ白なコウモリがそこにいた。
大人を乗せて飛べるくらいの大きさがある。あの小さくて可愛かったキースはどこへ……?
「うあっ……」
また頭痛が襲ってくる。泳いでいられない。わたしはまた水の中に沈みかける。
「キー!」
でもわたしは、空中に浮かんだ。
そして、キースがわたしのことを咥えて持ち上げていることに気がつく。
キースは重たいのか、よろよろしながら低空飛行したけど、わたしをなんとか船に落としてくれた。
「大丈夫ですか、スズネさん」
醤油さんが駆け寄ってきて、わたしのことを助けてくれた。
「キー!」
「助けてくれてありがと、キース。助かったよ」
「キー!」
「えへへ、なでなでしてあげるからね……頭が治ったら」
「離脱するよ! スズネを頼む!」
言うが早いか、リンさんは一気に船の速度を上げた。
激しい振動と共に、その海域が遠ざかっていく。
片方の眼を失った海の魔獣が、怒り狂う声が聞こえた。
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