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03 洞窟と剣と宝石と

ちびっ子3人衆

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「わたし、海に行こうと思う」
「えっ?」


 テウォンは順調に回復していた。

 病院を出てからも、しばらくは安静にしていた方がいいと言われていたテウォンだったけど、もう平気みたいだ。

 今はクルルさんの工房で、お菓子をもらって駄弁っている。


「どうしてなの? スズネは稼いでるの。ククルは、鉱山はスズネに向いてると思うの!」

 クルルさんもテウォンの隣でテーブルについて、お菓子をつまみ始めた。


 キースが見つけてくれた洞窟は、周辺が調査中のため侵入禁止になってしまったので、わたしは中には入れなくなってしまったが、今は別の場所に行って掘っている。


「んー……好きなんですけどね」
「好きなら続ければいいのに」

 テウォンが不思議そうに言った。
 

 実際、稼げてはいる。

 それに、冒険も楽しいけど、鉱石を見つけるのも楽しい。


「でも、もっと楽しいことがあるかもしれないし」
「キー!」

 キースは天井に逆さにぶら下がったまま、鳴く。
 

「えー、嫌だよそんなの。オレ、またつまんなくなるじゃん」

「大丈夫だよ。ギルドで聞いたんだけど、高原の方のだいぶ魔物の発生が少なくなってきたんだって。冒険者の人たちも高原から撤退してきてるみたい」

「そうなの! ククルも聞いたの、だからきっと、ここも忙しくなるの!」

 クルルさんは嬉しそうに、ウキウキしている。


「ふぅん、そうなんだ。じゃあオレの仕事も増えるじゃん。チェッ、めんどくせーな」

 テウォンもそう言いながら、少し嬉しそうだった。


「だからもうそろそろ、次に行こうかなって。スポナーも取り合いになっちゃうし。でしょ?」

「なるほどなの」
「ふーん……」

 二人とも納得して、モグモグとお菓子を頬張る。


「でも、どうして海なの? 海は遠いの。船に乗っても6日かかるの」

「だからです。船、乗ってみたいじゃないですか」


 鉱山から海岸の街へは、運河から海を通して船がある。

 船は概ね貨物用だけど、運賃さえ払えば乗せてもらえる。
 

 クルルさんの言う通り、海岸の街までは結構距離があるけれど、それでもやっぱり、山ときたら次は海。

 海を見ないで世界の終わりを迎えるという選択肢は、わたしにはない。

 実はわたしは、海が好きなのだ。


「テウォンとクルルさんとは別れることになるし、寂しいけどね」

「そうなの? ククルは寂しくないの」
「え」

「ククルの魂はその剣に込められてるの。ククルはスズネと一緒に旅するの!」

「キー!」
「そうなの、キースとも一緒なの! きししし!」


 クルルさんは楽しそうに笑って言った。

 確かに、寂しがってはいないようだった。


「ふぅん……オレは寂しくなるけどな」
「きしし、テルテルテウォンは素直なの」

「いいだろ、別に。だってさ、スズネと喋んの楽しかったから。スズネがいなくなったら寂しいよ」

 テウォンは頬杖をつきながら、ムッとした。


「オレも一緒に行けたらいーのにな。楽しそうでさ」
「じゃあ一緒に行く?」

 冗談半分に誘ってみる。テウォンは無言で首を振った。
 

「どうして行かないの? せっかく誘ってくれてるの」

「行くわけないだろ、オレじゃ足手まといだよ。そのくらい分かってる」

 クルルさんが大人気なく揶揄うのを、テウォンは軽くいなす。
 見た目も相まって、同い年に見えた。

 この二人は、本当にいいコンビなのだ。
 

「オレは姉さんと一緒に、ここから応援するよ。あと、クルルも一緒にさ」

「剣に何かあったら、すぐに手紙を送るの! ククルはすぐに飛んでいくの!」
「剣の心配かよ!」


 わたしはおかしくてクスクス笑った。

「ねえ、二人とも。わたしたちって友達?」

「もちろんなの! スズネとキースと、ククルは友達なの!」
「は? オレは!?」

「スズネは3人って言ったの」
「言ってねーよ! 二人ともって言ったんだからな!」

「あはは。もー仲良いよね」

「あのなスズネ、もしお偉い冒険者になっても、オレたちのこと忘れんなよ!」


 忘れない忘れない、とか笑いながらわたしは言った。

「テウォンこそ、無茶して死んだりしないでよ?」
「反省してるからな、オレ!」

 うん、絶対忘れないと思う。

 個性的だし。
 大事な友達だもん。

「キー、キー!」

 キースがパタパタ羽ばたきながら鳴いている。
 友達って、案外悪くないのかもな。

「はいはい、キースも友達だよ。友達でいいよね?」
「そうだな」

「クルルさんもいいですか?」
「もちろんなの!」

 クルルさんは勢いよく頷く。
 それから、少し首を傾げて頬を膨らませた。

「っていうか、いつまで敬語なの? ククルはクルルでいいの」

「えっ? あ、ああそうなんだ。その……大人だって言ってたから、敬語の方がいいかなぁって」

「ククルは友達にまで礼儀を求めたりしないの!」
「え? オレにいっつも勝手に入るなって怒るのに?」

「工房は仕事場なの! 親しき中にも礼儀なの!」
「さっきと言ってることが違う!」

 また小競り合いが始める。
 本当に楽しいな、この2人。

 わたしは声を上げて笑った。
 

「そうなの。スズネはそうやって笑ってる方がいいの」

「えっ?」

「だよな。オレもそう思う」

 クルルさんとテウォンは、同じタイミングで同じお菓子を掴んだ。

 一瞬見つめあった二人だが、クルルさんが奪い取った。
 本当に面白いなぁ。
 

「スズネ、なんかずっと元気ないからさ。心配になるんだよ」
「目が死んでるの。真っ黒なの!」

「うん。最初見たとき、本当に死ぬかと思った」
「え」
「きししっ、テウォンは考えすぎなの!」

「いやいや、すごい疲れてて、その上そんな死にそうな顔してるから……今思うと、長旅のせいだったんだろうけどさ」


 わたしがこの街に到着した直後、テウォンの宿に行ったときのことだろう。

 確かに、あのときは疲れてたし。
 
 
「全然起きて来ないし、マジで死んでるかと思ったよ」

 そうか、シーツを剥がしに来てくれたテウォンはそんな気持ちだったのか。と、今知る事実。

 ちょっと無愛想に思えたのは、そのせいだったのかな。


「わたしの顔は生まれつきなの。別に悲しいことがあったわけじゃないよ」

 わたしはそう言ったけど、二人はお皿の上の最後の1つをどっちが食べるかで揉めていた。
 

 別に大声で敢えて伝えることでもない。

 わたしはその最後のお菓子を横から摘んで、口に放り込んだ。
 

 それはケーキみたいなそうじゃないような、ザラザラしてただただ甘いだけのお菓子。

 二人からの非難を浴びながら頬張ったせいか、やけに美味しく感じた。
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