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03 洞窟と剣と宝石と

予算オーバー

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 報酬はたっぷり貰えた。

 高原でモンスターハウスにいたときよりも、さらに高額の報酬だ。

 スポナーの破壊がたくさんできたのもそうだし、キースがバラバラと振り撒いてくれた宝石も、かなりいい値段で買い取ってもらえた。

 テウォンがすごく驚いて、「全部その洞窟で見つけたのかよ!」とか言って褒めてくれて、なんか嬉しかった。

 テウォンの宿にも、長い間泊まれそうだ。
 

「昨日はどうして来なかったの? クルルは待ってたの!」

「ご、ごめんなさい。あの……坑道にいたんですけど、なかなか帰れなくて」


 出ていけたのは、結局外が真っ暗になってからだった。
 
 わたしはクルルさんの工房に行ったのだけど、もう明かりは灯っていなかった。

 だから朝早くに出向いたのだけど、クルルさんはぷんぷん怒っている。
 

「坑道の出口は黄昏時に大混雑するの。巻き込まれないように、これからは気をつけるの」

「ごめんなさい……」

「気にしなくていいの。いいアイデアも浮かんだし、朝一番に来てくれたから許すの。とりあえずこれ、キースの分なの」


 クルルさんはわたしに、指輪のようなものを渡した。

 見覚えのあるコインがついている。それは加工され、ピカピカに磨かれていた。


「キー!」

 わたしは飛んできたキースの脚に、それをつけてやった。リングはキースの細くて小さな脚にピッタリはまる。

「キー、キー!」

 大喜びで飛び回るキースは、そのまま天井にぶら下がった。足につけたコインが、キラッと光る。

「似合ってるの。気に入ってもらえたみたいで良かったのー」

 クルルさんも嬉しそうだ。


「あの、あれってなんだったんですか? 遺跡のスライムから出てきたんですけど、わたし、よく分かんなくて」


「魔力を蓄えたり、放出する性質がある物質なの。バッテリーに使われる、ちょっと珍しい金属なの。

「遺跡の残骸からスライムが取り込んだものかもしれないの。スライム、気に入ったものを体に隠しておく性質があるの」


「バッテリー……」

「バッテリーっていうのは、再利用可能な魔石なの。魔石は入ってる魔力を使い切ったら壊れるの。

「でもバッテリーは、魔力を溜め込んだり、吐き出したりを繰り返せるの。この物質にも、同じ効果があるの!」


 つまり、わたしの知っているバッテリーとだいたい同じ性質か。

 モバイルバッテリーをくくりつけたコウモリなんて、なかなか面白い状態だけども、見た目は小さいしとってもおしゃれだ。


「そうだったんですか。ありがとうございます」

「せっかくだから、いっぱい溜められるように改良しておいたの。喜んでくれて嬉しいの!」


 キースはパタパタとわたしの頭の上に落ちてきて、「キー!」と鳴いた。

 それからおねむになったらしく、小さな寝息が聞こえ始めた。
 
 このコウモリ、本当によく寝るな。ネコなのか?


「スズネにはこれ、ブループリント。設計図なの!」

 と、クルルさんが見せてくれたのは防具の設計図だった。

「外と中の2枚重ね、別で使うこともできるの。間に普通の服を着れば、しっかりオシャレもできるの。オシャレさんなスズネにもピッタリなの!」

 オシャレさんのつもりはなかったのだけど、わたしは「助かります」と言った。
 

「内側は肌着なの。薄いけど、特別な織物を使うから最低限の防刃と防魔の機能を持たせてるの。

「スズネは魔力が多い方だから、それを利用することで頑丈かつ快適な着心地を実現。肌触りよく通気性に優れ、軽度の冷暖房機能を備えてるの。

「お手入れは水で流すだけ! バブルエレメントアクアで、ザブッと洗えばさっぱりするの」

「色々……考えてくれたんですね」

 価格が心配になりながら、わたしは相槌を打つ。
 

「外側は装甲なの。確実に急所をカバーしつつ、関節を邪魔しないからスムーズに動けるデザイン。目立ちすぎないながらファッションのアクセントにもなるようなデザインを採用したの。

「それから、重量を削って薄くなるから、割れないように衝撃を分散させるため、柔らかい素材を使う必要があるの。代わりに形状を記憶するから、しばらくしたら元の形に治るの。でも過信は禁物、一番硬い部分は胸部だけど、魔獣の爪が直撃したら大きく凹むの!」

 裏を返せば、直撃しても貫通はしないらしい。

 やっぱりすごく高性能だ。


「武器は扱いやすいようになるべく単純なデザインを採用するの。複雑な機構は一切ないの。ロマンはないけど、実用性は妥協してないの。魔力戦術は高速で魔術を切り替えるから、魔力を通しやすく、高い応答性を実現させるために合金の配合を工夫するの。

「それと、昨日話した機能は一通り実装できるの。戦いを通じて成長する……きっと最高の相棒になるの!」

「キー?」
「あ……き、キースの次に、なの! もちろん一番はキースなの!!」

 気を使わせてしまったじゃないか。申し訳なさすぎる。

 キースは満足げに、再び眠った。この野郎……


「……えっと、とにかくこんな感じなの。納品までに、武器は7日、装備は5日ほどもらうの」

「納品はいいんですけど、代金はどうなりますか?」

「前金は貰ってるから、納品までに用意してくれればいいの!」


「いくらですか?」

「え? ああ、値段なの? 考えてなかったの! きしし……ちょっと待つの、計算するの!」

 値段を考えずに設計したという事実に軽く恐怖した。

 それ、一番最初に考えるべきじゃないの? そういえば、予算とか聞かれなかったけど……


 クルルさんはソロバンに似たものを持ってきて、パチパチ音を立てながら計算している。

 ゆらゆら太い三つ編みが揺れる。本当にかわいい。


「計算できたの! 全部で金貨2枚と小金貨3枚、銀貨40枚、小銀貨以下切り捨てなの。よろしくなの!」

 金額が全然可愛くなかった。
 

「金貨!? 金貨って100万円!? 230万!?」

「ひゃくまんえん……?」

 クルルさんが不思議そうにしたので、わたしはなんとか冷静さを取り戻した。

 ……いや、さすがに無理だ。どうしても無理!
 

「す、すみません。わたし、100まん、いや、金貨は無理です。ですです、はい。いや本当にごめんなさい」

「大丈夫なの。ギルドが貸してくれるの!」

「いやちょっと借金は嫌なんです。設計を変更できませんか?」

「えぇ……うーん……」


 クルルはしょんぼりして、腕を組む。

 そしてしばらく考えていたが、諦めたように首を振った。

「確かに、スズネはまだ子供。仕方ないの……」

「ご、ごめんなさい」

「大丈夫なの。ちょっとずつ素材のランクを落とせば……最高の装備ではないけど、それでもククルは最高の技術を注ぎ込むの!」

 クルルさんは涙目だった。


 これから買い物をするときは、必ず先に値段を確認しよう。

 わたしは心に誓った。
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