上 下
20 / 143
02 出会いと別れ

新しい場所へ

しおりを挟む
 鉱山へ向かう道には、たくさんの人がいる。
 
 何日かはかかるけど、わたしの足でも歩いて行けるそうなので、わたしは歩いて行くことにした。


 長旅をするので、わたしは大きめのバックパックを買った。

 行商人の醤油さんのものよりは全然小さいけど、それでも十分すぎるくらいの容量がある。


「スズネ、本当に行っちゃうの……?」

 スードルは結構泣いていた。

 わたしもちょっとうるっとしていたのに、スードルの号泣のせいで涙が出ない。
 
「うっ、うぅ……」
「泣くな」

「でもでも、寂しいよー!」
「泣くな」

 全員が抜けるというわけにはいかず、見送りに来てくれたのはスードルとフェンネルさん、そしてレイスさんだけだった。

 でも、わたしにとっては、それで十分だった。


「あの、フェンネルさんも、レイスさんも……本当にありがとうございました。わたし、みなさんのおかげで、すごく……すごく楽しかったです」

「こちらこそだよ!」
「……そう。あたしも」


 フェンネルさんはいつもと変わらず無表情。
 
 レイスさんは笑い泣きみたいな感じだった。
 

「僕……せっかく友達になれたのに寂しいよ!」

 スードルは子供みたいにわんわん泣きながら、わたしに抱きついてきた。


「だ、大丈夫だよ……死ぬわけじゃないんだから。また会えるよ」

 わたしが慰めると、スードルは何度も頷いた。

「また会える、会えるよね?」
「うん……だから、スードルも元気でいてね」
「分かった!」

 これじゃあ、どっちが年上か分からない。

 キースはわたしの頭の上で潰れたまま、相変わらずコインを噛み締めている。


「あの。アリスメードさんにも、ロイドさんにも、シアトルさんにも……わたしが感謝してたって、伝えてください。皆さんがいなかったら、今のわたしはないと、思います」

「分かった」

「うわーーん、スズネー!」
「うわぁ!」
「!?」

 レイスさんまでわたしに突進してきた。
 わたしはぎゅうぎゅうされて、キースは叩き落とされた。

「ちょ、レイスさん! くるじいですぅ……」
「スズネがいなくなっちゃうなんて、寂しい、寂しいよー!」

「レイス」

 フェンネルさんが助けてくれた。


「スズネ。アリスが心配してた。ロイドとシアトルは応援してた。期待、裏切らないで」

 言外に「死ぬな」と言われた気がした。

 何があるか分からない世界だ、これが最後の別れ……かもしれないということなのだろう。


「わたしは、楽しく観光するだけだから平気です。フェンネルさんこそ、怪我とかしないでくださいね。アリスメードさんとロイドさんにも、そう言ってください」

「……うん」

「あと、仲良くしてくださいって言っといてください」
「……分かった。強く言っとく」

 フェンネルさんは大きく頷く。


 結局、彼らの過去に何があったのかは分からない。
 これからどうするのかを見届けるわけにもいかない。

 でも、またどこかで会えたら、そういうことを知る機会もあるだろう。


「それから……これ、持って行って」
「え?」

 フェンネルさんは、筒状の何かをわたしにくれた。
 見てみると、それは短刀だった。

「これは……?」

「ナイフ。対人用」

「わ、わたし人に向かってナイフなんて使えないですよ!」

 わたしはびっくりして返そうとする。でもフェンネルさんは、笑ってそれを断った。


「エルフの迷信。持ち主を守ってくれる……らしい。あたしはエルフじゃないけど、お守り。みんな説得したの、あたしだし。スズネに何かあったら、責められるから」

 フェンネルさんはそう言って、わたしの肩を叩いた。
 

「スズネなら大丈夫。心配いらない。荷物増やして、意地悪しただけ」

 ふふっ、とフェンネルさんは笑った。
 わたしは、なんか意味もわからず泣きそうになった。


「そ、それじゃあ、わたしはもう行きます」

「えぇ、もう? もう少し話そうよスズネ……ねえ、出発はまた明日でもいいでしょ?」
「スードル、女々しい。諦めろ」

 フェンネルさんが、諦めの悪いスードルを嗜める。


「安心しろ。また会える」

「そうだよね! また会える!」
「う、うぅ……はい……またね、スズネ!」


 鉱山は、山を越えた先にある。
 わたしは歩き出した。

 振り返ったら忘れ物でも思い出しそうだったから、とにかく前だけ向いて歩いた。


 しばらく、たぶん1時間以上くらい登って、わたしはふと振り返った。


 切り立った山岳に広がる花畑。

 天空に浮かぶ遺跡。

 そこに鎮座する立方体。


「キー」

 頭に乗っかったキースが、コインを咥えたまま一声鳴いた。

 わたしはまた前を向いて、歩き出した。


 名残惜しいけど、わたしの旅はまだまだ始まったばかり。

 こうなったら、この世界が滅びる前に、世界の全部、思いっきり楽しもう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

異世界転生 勝手やらせていただきます

仏白目
ファンタジー
天使の様な顔をしたアンジェラ  前世私は40歳の日本人主婦だった、そんな記憶がある 3歳の時 高熱を出して3日間寝込んだ時 夢うつつの中 物語をみるように思いだした。 熱が冷めて現実の世界が魔法ありのファンタジーな世界だとわかり ワクワクした。 よっしゃ!人生勝ったも同然! と思ってたら・・・公爵家の次女ってポジションを舐めていたわ、行儀作法だけでも息が詰まるほどなのに、英才教育?ギフテッド?えっ? 公爵家は出来て当たり前なの?・・・ なーんだ、じゃあ 落ちこぼれでいいやー この国は16歳で成人らしい それまでは親の庇護の下に置かれる。  じゃ16歳で家を出る為には魔法の腕と、世の中生きるには金だよねーって事で、勝手やらせていただきます! * R18表現の時 *マーク付けてます *ジャンル恋愛からファンタジーに変更しています 

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)
ファンタジー
陸奥さわこ 3*才独身 父が経営していた居酒屋「酒話(さけばなし)」を父の他界とともに引き継いで5年 折からの不況の煽りによってこの度閉店することに…… 家賃の安い郊外へ引っ越したさわこだったが不動産屋の手違いで入居予定だったアパートはすでに入居済 途方にくれてバス停でたたずんでいたさわこは、そこで 「薬草を採りにきていた」 という不思議な女子に出会う。 意気投合したその女性の自宅へお邪魔することになったさわこだが…… このお話は ひょんなことから世界を行き来する能力をもつ酒好きな魔法使いバテアの家に居候することになったさわこが、バテアの魔法道具のお店の裏で居酒屋さわこさんを開店し、異世界でがんばるお話です

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

処理中です...