滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢

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02 出会いと別れ

異なる目的地

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 その日もわたしはテントにいた。

 サボっていたわけではない。
 たっぷり昼寝をして、夜に出て行くつもりだった。

 星を見たかったし、夜戦も経験したいと考えていた。

 朝にはギルドに行って魔石を換金したところだ。


「いっぱい貯まったねー」
「キー?」

 ところでこの世界の通貨は銅貨と銀貨と金貨がある。

 わたしが見る限り、金貨というものには全然お目にかからない。

 なので銅貨と銀貨の話になるのだけど、銅貨と銀貨には大きいのと小さいのがある。
 で、大銀貨というのは聞かないので、おそらく小と普通だと思うけど。

 わたしの感覚と両替結果によると、銀貨1000円、小銀貨100円、銅貨10円、小銅貨1円くらい。
 小金貨は10万円らしい。つまりエリクサーは120万円。


「キースの毛皮よりも稼げそうだよ」
「キー、キー」

 すっかり具合の良くなったキースは、嬉しそうに銀貨を加えて持ち上げたりしている。
 コムギ村では銅貨だらけだった財布の中身も、すっかり大きな銀貨でいっぱいだ。

 
「……もう、だいぶ時間経っちゃったな」
 
 この世界も一週間は7日で、一年は12か月で四季があるらしい。
 ただし1か月はきっかり4週間、28日。

 初めてここに来たときから、既に3週間が過ぎていた。
 

 もうそろそろ次に行かないとなぁ。
 なんて考え始めてはいるものの、なかなか進めない。

 わたしは、次は鉱山に行こうと思っている。
 この高原から近くで、比較的安全な道だ。


 しかしその旅は、一人旅になる。

 つまり、アリスメードさんやスードルとはお別れだ。


 フェンネルさんにも言われたけど、理由はいくつかある。

 まず、このモンスターハウスは当初見積もっていたよりも厄介だということ。

 完全な制圧には、追加で3週間はかかるだろうとギルドの方から言われている。
 

 次に、彼らの次の目的地は王都であるということ。

 未だ人への苦手意識が拭いきれないわたしは、王都へ行くことを躊躇していた。
 
 お金もかなり手に入れたとはいえ、貴族や王族など上流階級の住まう王都はここらとは比べ物にならないくらい物価が高いらしい。

 わたしにはまだ早い。


 もともと、一人は気楽だし好きな方だ。
 でも、彼らと過ごした時間が全く楽しくなかったかと言われればそんなことはあり得ない。
  
 埋まらない溝はあるけど、それでも彼らは、わたしの仲間と呼ぶに相応しい。

 ……と、思っている。


「わたし、鉱山に行こうと思うんです」

 決心して、アリスメードさんにそう言ってみた。

 彼は徹夜明けで、目の下にはクマができている。
 わたしも手伝いたいけど、できることはない。


「……鉱山って?」
「旅を続けたいんです。わたし、世界中を見て回りたい」

 アリスメードさんは沈黙し、「……そうだな」と言った。

「俺たちはしばらくここから離れられそうにないし……ついて行くことはできないな」
「そうですね」


「……なあ、スズネ。俺と一緒に来ないか」

 アリスメードさんは、徹夜明けの掠れた声で、それでも真剣にそう言った。

「俺は、スズネならやれると思ってる。スードルを入れてやらなきゃいけないから、パーティ加入は先になるけど……クランって形なら、一緒に活動できる。俺はスズネと一緒にやりたい」


 クランというのは、パーティや冒険者同士の同盟みたいなものだ。
 一時の協力みたいな形だけど、結んでる間はパーティみたいな感じらしい。


 アリスメードさんは真剣だった。
 同時に、わたしの答えを知っている風でもあった。
 

「ありがとうございます。わたしも楽しかったです。でも、一人で行きます」
「……」

「アリスメードさんがわたしを心配してくれてるのは分かるけど、わたしにAランクパーティなんて早すぎるんです。わたしはまだ、この世界のこと、全然知らないから」


 アリスメードさんは、わたしの目を見て「ああ」と言った。

「スズネには、一人で生きていく力があるよ。それは俺も認めなきゃいけない」

 それから、キースを見て笑った。
 

「それに、頼もしい相棒もいるしな」
「キーー!」

 キースは元気よく羽ばたいて、大きな声で鳴いた。


 わたしは「うるさい」ってその体を引っ掴む。

 キースは「ウギュッ」なんて変な声を上げて、わたしの両手に収まった。


 アリスメードさんは疲れたように笑って、しばらく沈黙した。

 それから少し考えて、彼は頭痛がするみたいに笑った。

「フェンネルはな、俺が心配しすぎだって言うんだ。ロイドは、干渉しすぎだって言う。スズネはどう思う? 俺はおかしいかな」

「おかしいってほどでは……ないです。わたしは嬉しかったですよ。アリスメードさんが心配してくれるの」

「……ありがとう。やっぱりスズネは良い子だな」


「その、それより大丈夫ですか? 体調悪そうですけど」

「大丈夫だよ。……と、言いたいところだけど、ちょっときついな。前線が崩れ始めてるんだ。でも峠は越えたと思ってる。あともう一踏ん張りなんだ。だから安心してくれ」


 ちなみに、体調が悪そうなのはアリスメードさんだけで、他は割と元気そうにしている。

 どうやらアリスさんは結構な苦労人というか、一人で頑張る性格らしい。

「アリスさん! 矢、買って来ました!」
「おかえりスードル」
「スズネもいたんだ! ただいま!」


 そんなアリスメードさんを、スードルは一生懸命支えている。
 この2人、世界が世界なら結婚しそうなくらい仲が良い。


 早く王都に行って、スードルを仲間に入れてあげてほしい。
 わたしが鉱山へ同行を頼まないのは、そういう理由もあった。


「アリスさん、大丈夫ですか? 肩をお揉みしましょうか?」

「ああ……ありがとう。大丈夫だよ。それより少し寝たい……」
「寝ててください。僕、ちゃんと起こしますから」

「……ああ、ありがとう。スズネも、夜戦するならちゃんと寝ろよ」
「分かりました。おやすみなさい」

「おやすみ、スズネ」
「おやすみ」


 アリスメードさんは、既に床に崩れ落ちるようにして眠っていた。

 わたしの手の中では、キースがぺちゃんこになってぐぅぐぅ寝ていた。
 

 パチンってやったらどうなるかな。
 ……いや、やらないけど。

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