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02 出会いと別れ

穏やかな夜

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 結局、わたしはアリスメードさんに連れ出されるまでずっとモンスターハウスの中にいた。

 アリスメードさんはわたしが長時間戦闘を続けていたことをすごく心配したけど、わたしにはちょっとした擦り傷くらいしかなかった。

「すごい持久力だ、こんなに小さいのに」
「魔力量が桁違いなのかしら?」
「そうなのかもしれないな……」

 アリスメードさんとシアトルさんが不思議がっている。


 日が暮れてからは危ないと、夕方に連れ出されたわたしはキャンプのテントの中にいた。

 ロイドさんとレイスさんとフェンネルさんは、現在3人でモンスターハウスの中にいる。


 昼夜を問わず魔物はどんどん生まれるので、それを処理していかなければならないそうだ。

 だから二、三人でチームを組んで、交代しながら処理しているらしい。

 良くも悪くもいてもいなくても同じなわたしやその他諸々は、好きに入って好きに出て来てもいいそうだ。


「大変ですね。もぐもぐ」

「まさか半日以上動き続けてるとは……ずっと端っこにいたって話は色んな奴から聞いてたから、心配はしてなかったけど」

「魔力は枯渇してないのよね?」
「あんまり分かんないです。もぐもぐ」
「キー」

 わたしはキャンプに売っていた訳の分からない肉の串を買って、それを食べていた。

 味付けは塩だけだったけど、肉は新鮮で柔らかく、普通に美味しい。

 キースにもあげてみたのだけど、小さい鼻を動かしただけで食べなかった。

 コウモリらしくウサギみたいな耳があるし、草食なのかもしれない。


「この魔石、いくらになるか楽しみです。ふっふっふっ。いてっ」

 悪い笑いをしたら、キースに噛みつかれた。

 ちなみに、幻獣は寄生虫や病原菌のリスクは基本的にないらしい。
 さっき水洗いしたし、なおさら安心だ。


「たくさん集めたの?」
「はい!」

 わたしはカバンの中にいっぱいに詰め込まれた魔石をポンポン叩いて頷いた。

 明日ギルドに行って、お金に変えてもらうつもりだ。


「そういえば、それ、ギルドから持ってきたんだよな?」
「バッグですか?」
「そうそう。それ、空間拡張か?」
「空間拡張?」


 アリスメードさんは何かを忙しく書きつけていたが、顔を上げる。

「内部の容量を増やす方法があるんだよ。だいたいのバッグは加工されてるんだけどな」
「弱くなってるだけだと思うわよ」


 外と中の容量の違いは全然ないように見えるのだけど、普通はそういうものらしい。

「私が広げてあげるわよ」
「えっ、いや、大丈夫です。わたし、明日ギルドに行って売りに行けばいいし」

「そう? なら無理にとは言わないけど……
「あ、でも、スズネは魔法が得意みたいだし、自分でやってみたらどうかしら? ちょっと複雑だけど、ゆっくり時間をかければできると思うし」

 そう言って、シアトルさんはアリスメードさんから紙とペンを奪い取って何かを書き始めた。


「覚えればとっても便利だから、教えてあげるわ」
「教えてくれるんですか?」
「ええ、いいわよ。知識は無駄にはならないでしょう?」

 と、シアトルさんは笑っている。

 悪い人ではないのだろうけど、何を考えているかよく分からない人だ。


「いいのか? 俺には教えないのに」
「アリスにも教えてあげたじゃない。何回やってもできてなかったけど。ふふっ」

 シアトルさんは、何か書いた紙をわたしに渡した。

 そこには変な記号が書いてあった。
 魔法陣というやつかもしれない。


「これを、魔力を込めて書いてみて頂戴。初級空間拡張よ」

「普通のペンで?」
「指でなぞるだけでいいのよ。書き順もそんなに気にしなくてもいいわ。ただ、均等な魔力で丁寧に写してね」

 わたしはバッグの中身を出して、言われた通りに模様を写した。

 単純そうな見た目に見えたけど、実際やってみると細かいところは複雑で、神経を持っていかれる。


 でも頑張って全部やってみたら、シアトルさんに褒められた。

「いい集中力ねぇ。初めてやったとは思えないわ」
「記憶を失う前は魔術師だったんだろうな」

「ああ、そういえばあったわねぇ、そんな話」

 クスッ、とシアトルさんは笑う。

 レイスさんも苦手だけど、シアトルさんはシアトルさんで、別の意味で苦手だ。


 バッグを開けてみると、不思議と中身はさっきとは比べ物にならないくらい広がっていた。

 ちょっと形がいびつなのは、私の書き方の問題っぽい。
 訳も分からずに書いたけど、上手くいって良かった。


「すごい……」
「あまりいっぱいに詰めないようにしなきゃダメよ」

 わたしは出した魔石をもう一度バッグに入れた。
 容量は5倍くらいになっている。

 全部入れてついでにロッドも入れてもまだ余裕があるサイズだ。

「キース、おうちができて良かったね!」
「キキッ!?」
「今日はここで寝てね」
「キー! キーキー!」
「冗談だよ」

「ふふふっ」

 シアトルさんが小さく噴き出す。

「仲良しなのね」


 確かに、最初はあんまり可愛いと思わなかったけど、ずっとわたしの周りを飛び回ってたり、肩に引っ付いたり、敵が来るのを教えてくれたり。

 そういうところを見ていると、ちょっと愛着が湧いた。


「わたし、もうそろそろ寝ます。ここで寝ていいんですか?」

「そうね、今日は疲れただろうし。ゆっくり休んで」
「はい! おやすみなさい」


 寝袋にくるまってから、わたしは星空を思い出した。

 山といえば天体観測。
 そんなイメージがあるので、さぞ最高の夜空だろうなとか考えた。


「……ま、いっか」

 星空は明日の夜でも見られる。
 今日は早朝の花畑を見るために早起きしたし、今日は寝よう。


 キースが頭の横に飛んできて、枕の上でぺちゃんこになった。

 わたしはその小さい体を、指先だけでそっと撫でた。


「おやすみ」
「キー」

 キースは気持ちよさそうに目を閉じた。
 私も目を閉じた。明日もいい日になるといいな。
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