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02 出会いと別れ

幻獣

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 死んだ怪鳥はギルドに引き取られていった。
 珍しい魔獣らしく、素材が高値で買い取られるそうだ。

 わたしたちは遺跡のキャンプに向かっていた。


「幻獣だな」

 ボロ雑巾はきれいに乾かしたら、ちゃんとコウモリの形に戻った。

 元気はそんなにないらしかったが、なんとか落ち着き、今は寝ている。


「幻獣って、魔獣とは違うんですか?」

「魔獣は元々は獣で、魔力によって変異したものだ。
「幻獣は魔物と同じで、魔力そのものから生まれてる。ただ、魔物とは違って魔獣みたいに動物としての機能を持ってる。
「それから幻獣は、魔獣や魔物と違って食物を必要としない」


 例の如く、わたしはロイドさんと二人で移動だ。
 
 スードルとフェンネルさんが先にキャンプに行っていて、アリスメードさんはまだギルドだそうだ。

 だからシアトルさんとレイスさんと一緒に移動しているのだけど、ホーンウルフは5匹全部一緒の移動らしい。

 ロイドさんと分かれていく人は、徒歩か馬に乗るそうだ。


 どうでもいいんだけど、アリスメードさんはいっつもギルドにいるな……


「つまり、魔獣みたいな魔物?」

「そうだな。この辺りにはあまりいないはずだが、白いし、雪山の方から流れて来たのかもな」

「なんていう種族なんですか?」

「分からない。魔獣もそうだが、特に幻獣は突然変異が起きやすいからな」


 幻獣は、わたしが知っているコウモリよりも、毛がふわふわで可愛らしい顔をしている。
 
 所詮はコウモリなのだけど、小さいのも相まってマスコットのようだ。


「これって、売れますか?」
「売れないだろうな。小さすぎるし……」

「……キー?」

 幻獣が目を覚ました。

 白いコウモリは、クリクリした目を見開いてわたしを見上げる。


「殺して毛皮を剥いだら売れそうですけど」
「キー!!?」
「いやでも、小さいから……」

「ロイドさんには安くても、わたしには大金かもしれないじゃないですか」
「キー! キーキー!! キキキキキーー!!」

 その幻獣は、大声で鳴き始めた。
 クソうるさいが、口を塞いだら噛まれそうなのでそういうわけにもいかない。


「おい……嫌がってるみたいだぞ」

「わたしに捕まらなかったら、どうせあの鳥の胃袋の中ですよ。気にすることありません」

「……それなら俺が買い取るよ。さすがに……可哀想だ」
「ロイドさんになら、お世話になってるし、あげます」

「あ、ああ……そうか? じゃあ……」
「キー! キーキー!」

「……嫌みたいだな」

「ホーンウルフのおやつくらいにはなるんじゃないですか? 食べる?」
「ウォンッ!」

「ノーノー。食べるな食べるな、ステイだ。スズネ、幻獣はテイマーも不必要なくらい知能が高い、懐かれてるなら、きっといい相棒になるはずだ」


 犬派らしいロイドさんは、テイマーだけあって動物全般好きらしい。

 そんなに勧められてまで断ることでもないので、わたしはコウモリを自分の肩に乗せた。


「ロイドさんがそう言うなら、飼いますけど……エサとか分かんないですよ」
「勝手に魔力を食べるんじゃないか。幻獣は大体そういうものだから」
「キー」

 わたしの肩で、コウモリはキーキー鳴いている。


「喜んでるみたいだ。可愛い相棒ができてよかったな、スズネ」

「どうせ相棒ならもっと可愛いのが良いと思いませんか?」
「キー! キー!」
「えっ、いや、十分可愛いと思うけどな……」

 こんなに可愛がってくれそうなロイドさんよりもわたしがいいなんて、この幻獣、ちょっとアホなのだろうか。


「まだ子供に見えますけど、母親が探したりしませんか?」

「それは俺には分からないな。はぐれたのか、これでもう成体なのか」

 まあ、別についてくるだけならそれでいいし、途中でママのところに帰りたくなったら勝手に帰ってもらえばいい。


「うん、まあいいや。よろしくね」
「キー!」

 幻獣は嬉しそうに高い声で鳴いた。

 慣れてきたからか、その甲高い声もそこまで不快に感じなくなってきた。


「キーキー鳴くから、名前はキースとかでいいかな」
「キー!?」

「よし、今日からお前の名前はキースだ。よろしくな!」

 アニメの真似をして言ってみると、キースはわたしの手をすごい勢いで引っかいた。


「キー! キー!」
「え、何? 痛い痛い! やめて!」
「嫌がってるみたいだな……」

「なんで!? こういうときはだいたい喜ぶでしょ! 痛い痛い!」
「キー! キー!」

「名前はキースなの! もう決めたんだから! 恨むなら自分の鳴き声を恨んで!」
「キーーーー!」

 しばらく暴れていたが、やがて諦めたのか、キースはわたしの手の中でペチャッと潰れて目を閉じた。

 へそを曲げたようにも見えたけど、ロイドさんは笑っていた。


「幻獣が気に入る名前なんてそうそうないからな。嫌々でも受け入れたなら、十分及第点だ」

 翼を畳んだ白い塊は、ほのかに温かい。

 ホーンウルフは、どうやらおやつは食べられなさそうだと察したらしく、がっかりして「クゥン」と鳴いた。


 わたしは白い塊を持ったまま、周囲を見渡す。

 そこは狭い山道で、左右はどちらも切り立った断崖。

 道幅はそれほど狭くないものの、転げ落ちたら一巻の終わりだ。


 前世がどうだったかは知らないが、少なくとも今世の私は高所恐怖症ではないらしい。


 高所恐怖症でさえなければ、景色は最高、天気も最高、風も気持ちいいし、あとは人さえ少なければ、ここで世界の終わりを迎えていいくらい。

 でもこの世界にはこんなような場所がいっぱいあるんだろうなぁとか考えたら、なんだかワクワクする。


 しかし同時に、この景色は一年後にはなくなってしまう。
 この手の中の小さな命も、失われてしまうのだろう。

 それを惜しいと思うには、今のわたしは幼すぎるようだけど。
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