役立たずの雑用係は、用済みの実験体に恋をする。――神域結界の余り者

白夢

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#3 中央教会

27 笑顔、いつも通り

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 彼は相当、私のことが好きらしい。

「お帰りなさいブロウ」

 彼は退院後、日々変わらず仕事に行き、帰って来る。私は読んでいた本を閉じて彼に応えた。

 彼はいつもいつも、その生活を繰り返している。
 そういえば彼の休日というものを、最近見ない。

「貴方の職場には、休日というものが存在しないんですか?」
「いや、休日返上して働いてるから」
「どうしてですか?」
「そりゃあ、ほら、お前も知っての通り俺って無能じゃん?」

 そんな周知の事実みたいに言われても、私は知らない。
 私から見た彼は、それなりに器用だし仕事もできそうに見える。

「なんか雰囲気がそうみたいだな、でも別にそんなことないんだよ。むしろ期待値が高い分失望させちゃうみたいでさ」

 彼は苦笑する。

「俺だってこの顔はそれなりに気に入ってるんだけどな」
「少し疲れているんじゃありませんか」
「そんなことねーよ、毎日楽しいさ」

 彼は笑いながらそう言う。

 彼は笑顔になることが多い。
 本当の笑顔のような、そうでないような。

「強がってませんか?」
「大丈夫だよ」
「本当ですか?」
「なんでそんな気にしてくれるの? またぶっ倒れると思ってる?」
「貴方が苦しんでいるのを見るのは嫌なんです」
「大丈夫だって、ちゃんとやるから」
「ちゃんとやるって何ですか?」
「お前だって、頭のおかしい奴とは付き合いたくないだろ?」

 彼はそう言って苦笑した。

「大丈夫だよ、俺にはお前がいる、それで十分なんだよ」
「私の存在は、それほど大きいんですか?」
「大きいよ。大きいに決まってるだろ?」

 彼は言う。「お前がいなかったら、俺は死んでただろうな」と。
 私は思う。貴方がいなければ、私は死んでいたでしょうね。と。

「別に私は、貴方の頭がおかしくてもいいですよ。でも、貴方の頭のおかしいのを私が知らないのは嫌です」
「いやいや、本当に俺ヤバいからさ。お前を疑うわけじゃないけど、みんな最初はそう言うんだよ。受け入れるってさ。んで、今俺には友達の一人もいないんだ。分かるだろ?」
「分かりませんよ」
「んー、分かったよ、もしこれから辛くなる時があったら、その時はちゃんとお前に言うからさ。今は大丈夫なの、信じてくれ」

 彼はそう言って、水を流して手を洗った。
 私は立ち上がって、彼に近づいて同じように手を洗う。

「どうしたの? そんなひっついてきて……」
「私にも教えて下さい。料理を作れるようになりたいです」

 彼は鍋に水を入れて、火にかけた。
 また半笑いのままで彼は首を振る。

「いいっていいって、俺が作るから」
「教えてくださいよ」
「危ないから。ほら、包丁とかで指切ったらどうするんだよ?」
「どうもしません」
「俺が動揺するんだってば、分かってくれ頼むから」

 彼は頑なにそう言って、また私の方を向いて困ったように笑う。
 とても綺麗な笑顔で、恐らく彼にはそのつもりはないのだろうけれど、この人はやはり色々なことを笑顔で誤魔化しているような気がする。

「……どうしても駄目なんですか?」

 私は彼をじっと見つめて、視線で気圧してみた。
 すると彼はたじたじと後退し、私から目を逸らす。

「分かったよ……だからもう本当、お前って、あーもう可愛い……」

 どうやら圧力をかけたのが良かったらしい。

 彼は押しに弱いタイプのようだ、そんな気はしてたけど。
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