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#2 部屋の中
19 罵声、昼夜逆転
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何日か過ぎた頃、ある日の晩から、私は眠れなくなった。
彼はいつも通り食事を作ってくれる。
ただ彼は、夕食の後外出するようになったのだ。
聞けば仕事をしているらしい。
今までしていなかったのに、どういう風の吹き回しかは分からない。
けれど、とにもかくにも彼の帰宅は深夜になった。
そして彼はそのまま、すぐに眠る。
しかし、その後すぐに目を覚ましてしまう。目を覚まして、彼は大声で喋り出す。
そのせいで私は眠れなくなった。
「あー、今日もなかなかだったよな!」
「……え?」
私は突然の大声に起こされて、眠い目を擦りながら彼の方を見る。
彼は真っ暗な部屋で誰もいないテーブルに座り、虚空に向かって話していた。
「大丈夫だよ、納期には間に合うから!」
「納期?」
「そうそう、ほら、今日はまだ飲んでないだろ?」
「飲んでない?」
「いやいや、俺だって分かってるよ!」
口調は明るく、楽しそうだ。
その大声で私はいつも飛び起きる。
飛び起きてしばらく要領を得ない彼の話を聞いているうちに、彼は突然眠りに落ちる。
気絶するといってもいい。
ソファーに座って見えない本を読みながら笑っていたかと思うと、次の瞬間には横になって呆然と天井を見つめる。
その時はいつも、見知らぬ女性の声が聞こえる。
「先輩、先輩、先輩はどうしてこうもクズなんですか? ゴミなんですか? 死ねばよかったのに、先輩が消えればよかったのに」
「……」
「どうして生きてるんですか、どうして死なないんですか? 生きる価値もないのに、息をする資格もないのに」
彼は彼女から罵声を浴びせかけられる。
私は、その声が彼に聞こえているのだというらしいことに気が付いた。
少なくともその罵詈雑言は彼の耳にも届いていて、彼はそれに対して耳を塞ぐこともできずにただ、先のように大声で話している。
どうやら様子がおかしいとは私も思ってはいたのだけれど、私にとっては夜に起こされる以外の実害はないので放っておいていた。
おかげで昼夜が逆転しかけているけれど、特に問題はない。
どうせ彼のいない昼間に起きていたって、特にすることもないし。
それに、不思議と、翌日の朝になると彼はその夜のことは何もかもすっかり忘れていつも通りの生活に戻っていく。
私はそれが夢なのか現実なのか、よく分からなくなっていた。
深夜の出来事だし、彼に尋ねても首を傾げて否定するばかりだからだ。
彼はいつも通り食事を作ってくれる。
ただ彼は、夕食の後外出するようになったのだ。
聞けば仕事をしているらしい。
今までしていなかったのに、どういう風の吹き回しかは分からない。
けれど、とにもかくにも彼の帰宅は深夜になった。
そして彼はそのまま、すぐに眠る。
しかし、その後すぐに目を覚ましてしまう。目を覚まして、彼は大声で喋り出す。
そのせいで私は眠れなくなった。
「あー、今日もなかなかだったよな!」
「……え?」
私は突然の大声に起こされて、眠い目を擦りながら彼の方を見る。
彼は真っ暗な部屋で誰もいないテーブルに座り、虚空に向かって話していた。
「大丈夫だよ、納期には間に合うから!」
「納期?」
「そうそう、ほら、今日はまだ飲んでないだろ?」
「飲んでない?」
「いやいや、俺だって分かってるよ!」
口調は明るく、楽しそうだ。
その大声で私はいつも飛び起きる。
飛び起きてしばらく要領を得ない彼の話を聞いているうちに、彼は突然眠りに落ちる。
気絶するといってもいい。
ソファーに座って見えない本を読みながら笑っていたかと思うと、次の瞬間には横になって呆然と天井を見つめる。
その時はいつも、見知らぬ女性の声が聞こえる。
「先輩、先輩、先輩はどうしてこうもクズなんですか? ゴミなんですか? 死ねばよかったのに、先輩が消えればよかったのに」
「……」
「どうして生きてるんですか、どうして死なないんですか? 生きる価値もないのに、息をする資格もないのに」
彼は彼女から罵声を浴びせかけられる。
私は、その声が彼に聞こえているのだというらしいことに気が付いた。
少なくともその罵詈雑言は彼の耳にも届いていて、彼はそれに対して耳を塞ぐこともできずにただ、先のように大声で話している。
どうやら様子がおかしいとは私も思ってはいたのだけれど、私にとっては夜に起こされる以外の実害はないので放っておいていた。
おかげで昼夜が逆転しかけているけれど、特に問題はない。
どうせ彼のいない昼間に起きていたって、特にすることもないし。
それに、不思議と、翌日の朝になると彼はその夜のことは何もかもすっかり忘れていつも通りの生活に戻っていく。
私はそれが夢なのか現実なのか、よく分からなくなっていた。
深夜の出来事だし、彼に尋ねても首を傾げて否定するばかりだからだ。
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