笑顔を見せてよ

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その夜は、私―沢田雛は、親友の夏帆の家に泊まっていた。女友達数人で。いわゆる"女子会"というやつだ。

華の女子高生(私はそんなんじゃないけど)である私たちが話すことといったら、それはもう彼氏の話。
ここにいる5人の内彼氏がいないのは、私だけだ。

友達には、
｢雛は綺麗なのにその性格じゃあ...｣
だの、
｢もうちょっと笑顔振りまいてみたら｣
だの好き勝手言われる。

私だって彼女たちといるときは、笑顔だって見せてるんだけど、それを男性にも向けろということらしい。


私だって女子高生。
色恋沙汰には敏感な年頃なはず...だけど。
まわりで恋愛にのめり込んでいる人を見るたびに、そんなに楽しいのかなと思ってしまう。

まぁ、こんな考え方をしているからダメだって言うことは、結構前からわかっている。
人より大人な考え方しかできない私が悪いんだけどね。







｢ぜーったい信じないんだからっ！｣


突然大声をあげたのは、この部屋の主である夏帆。
さっきまで違う高校の彼氏さんのことをのろけまくってたはずなのに、どうしたんだろうか。


｢だから、手を繋いでたんだって｣
｢嘘つかないで！そんなこと彼は絶対しないもん！｣


どうやら夏帆の彼氏が浮気をした様子。
友達が言う言葉に敏感に反応した夏帆は、唇を噛み締めて｢むふー！｣と威嚇(？)をして息を荒くしている。


｢じゃあほんとのこと言う！腕組んで歩いてたの！｣
｢そ、そんなのありえない！昨日だってメールしてくれたもん！電話で好きって言ってくれたもん！｣


少し狼狽えたものの、頑なに認めようとしない夏帆の様子に言い出した友達も降参したのか、｢トイレ行ってくる｣と言って出ていってしまった。

一方の夏帆はというと、友達の出ていったドアを睨み付けたあと、大きく息をはいた。

まぁ冷静になるまで待とうか。
ハラハラしていた空気が少し緩み、他の友達と目配せして、読んでいた漫画に目を落としたとき。







｢......ねぇ、雛｣



私の名前が静かに
呼ばれた。
そのとき、何だか嫌な予感がした。