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第十三話:後輩を起こす
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「おーい。そろそろ起きろー」
ベッドに眠る都築に声をかけるが、反応はない。
時刻は現在、午前八時。
ゴールデンウィークも終わり、今日から通常授業だ。
声だけかけていても起きないものは仕方ないので、何度か揺り動かしているとようやく反応があった。
むにゃむにゃ言い出したので、少し距離をとる。
すると、ぽーっとした顔のまま都築は上体だけを起こした。
ここはどこだろう。そんな感じで、きょろきょろと辺りを見回しだした。
そして俺の姿を認めて、ぱっちりと目が合う。
――訪れる沈黙。
その間、都築の目が何度か瞬いた。……そして、急に何かから醒めたように顔に生気が宿った。
「せ、せせせせ先輩!? な、なんでぇ!? ――って頭痛ぁ……」
「いや、だってここ俺の家だし。というか、大丈夫か? ――あ、水飲む?」
「お願いします……」
冷蔵庫から水を取り出し、コップに注ぐ。
都築に渡すと、無言でゆっくりと喉を鳴らしながら飲み干した。
「……ふぅ。ありがとうございました……」
「多少マシになったか?」
「……はい。なんかだんだん思い出してきました……。本当にご迷惑をおかけしました……」
都築は下げた頭をそのまま抱えだした。
なんか「あ゛~~~……」とか言ってるし。
「一応訊きますけど……私、何もしませんでしたよね?」
「いや、別に。うちに連れてきたらすぐ寝たぞ」
不安そうにこちらを窺い見る都築に平然と答える。
実際、本当に、本当に何もなかった。
ここに来るまでは妙にテンションが高かったが、アパートに入るなり糸が切れたかのようにうとうとと舟を漕ぎ出した。
そこで「寝るならベッドで寝とけ」と指示すると、すぐに潜り込んで眠りだしたのだ。
都築は納得したような、それでいて難しい顔で眉根を寄せてうんうんと唸っていた。
何かぼそぼそ呟いているのが微かに聞こえてくるが、いまいち聞き取れない。
「どうした……? 大丈夫か?」
「……はい、大丈夫です。お世話をおかけしました」
言って、頭を下げられる。
顔色も優れているとは言えないが、先ほどよりはマシそうだ。
「良かった。飯食うか? 大したものないけど」
「あ、それならお詫びに私が何か作りますよ」
「え、都築、料理できんの?」
「できますよ! 失礼な! 私を何だと思ってるんですか!」
憤慨し、なぜか急に元気になった都築はつかつかと冷蔵庫へと歩いていく。
扉を開け、中から卵やハム、レタスなどいくつかの具剤を取り出した。
「何作るの?」
「サンドイッチです。朝だからそのくらいがちょうどいいでしょ。……それより、先輩ってきちんと自炊してるんですね。なんか意外でした」
「ん? なんのこと?」
「この冷蔵庫を見ればわかりますよ。普段からやってないと、こんな中身になってないです。料理できる男子ってポイント高いですよ!」
「あー、それは……。いや、うん、そうそう。まあ、人並みにはな」
「……? 何です? 含みのある言い方して」
「別に。何でもないよ」
「そうですか? それならいいんですけど」
いまいち釈然としなさそうな都築だが、大して疑問には思わなかったようだ。
少しほっとした。
いや、別にバレてなんだって話ではあるんだけど、元カノもとい女友達が入り浸っていることに妙な誤解でもされたら面倒だ。
俺と紗香はそれでよくても、周りから理解されない可能性が大いにあることくらいわかっている。
無駄な火種を燃やす必要はない。
都築に「先輩は向こうで待っててください」と言われたので、大人しく引き下がった。
そのまましばらく待っていると、皿にサンドイッチを載せた都築がやってきた。
「おまたせしました~」
「お、サンキューな」
「いえいえ。では……いただきまーす」
「いただきます。そういえばさ、都築は今日講義ないの? ──お、これ美味いな」
「ありがとうございます。えっと、今日は午後からですね。先輩は?」
「あー……どうすっかな。俺も午後からだけど、サボるかも」
「え、体調でも悪いんですか?」
「いや? 休み明けで気分のらないなって」
「それだけ?」
「それだけだけど……」
言うと、呆れ顔を向けられた。
「何言ってるんですか。そんなのダメに決まってるでしょ。あ、そうだ。私、一旦家に帰りますけど、準備したら戻ってくるんで、学校まで送ってってください。一緒に行きましょ」
「えー……」
「『えー……』じゃない!」
「わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」
「わかればいいんです。そんなことしてたら留年しちゃいますよ」
「大丈夫だ。いざとなったら教授に泣きつくから」
冗談で言っただけなのが、通じたのか通じてないのか、都築はまた頭を抱えた。
「はぁ。もう。なんで私はこの人のことを……」
「なんか言ったか?」
「なんでもありませーん。さ、早いとこ食べちゃいましょ。うかうかしてたら私までサボることになるかもしれませんし」
ベッドに眠る都築に声をかけるが、反応はない。
時刻は現在、午前八時。
ゴールデンウィークも終わり、今日から通常授業だ。
声だけかけていても起きないものは仕方ないので、何度か揺り動かしているとようやく反応があった。
むにゃむにゃ言い出したので、少し距離をとる。
すると、ぽーっとした顔のまま都築は上体だけを起こした。
ここはどこだろう。そんな感じで、きょろきょろと辺りを見回しだした。
そして俺の姿を認めて、ぱっちりと目が合う。
――訪れる沈黙。
その間、都築の目が何度か瞬いた。……そして、急に何かから醒めたように顔に生気が宿った。
「せ、せせせせ先輩!? な、なんでぇ!? ――って頭痛ぁ……」
「いや、だってここ俺の家だし。というか、大丈夫か? ――あ、水飲む?」
「お願いします……」
冷蔵庫から水を取り出し、コップに注ぐ。
都築に渡すと、無言でゆっくりと喉を鳴らしながら飲み干した。
「……ふぅ。ありがとうございました……」
「多少マシになったか?」
「……はい。なんかだんだん思い出してきました……。本当にご迷惑をおかけしました……」
都築は下げた頭をそのまま抱えだした。
なんか「あ゛~~~……」とか言ってるし。
「一応訊きますけど……私、何もしませんでしたよね?」
「いや、別に。うちに連れてきたらすぐ寝たぞ」
不安そうにこちらを窺い見る都築に平然と答える。
実際、本当に、本当に何もなかった。
ここに来るまでは妙にテンションが高かったが、アパートに入るなり糸が切れたかのようにうとうとと舟を漕ぎ出した。
そこで「寝るならベッドで寝とけ」と指示すると、すぐに潜り込んで眠りだしたのだ。
都築は納得したような、それでいて難しい顔で眉根を寄せてうんうんと唸っていた。
何かぼそぼそ呟いているのが微かに聞こえてくるが、いまいち聞き取れない。
「どうした……? 大丈夫か?」
「……はい、大丈夫です。お世話をおかけしました」
言って、頭を下げられる。
顔色も優れているとは言えないが、先ほどよりはマシそうだ。
「良かった。飯食うか? 大したものないけど」
「あ、それならお詫びに私が何か作りますよ」
「え、都築、料理できんの?」
「できますよ! 失礼な! 私を何だと思ってるんですか!」
憤慨し、なぜか急に元気になった都築はつかつかと冷蔵庫へと歩いていく。
扉を開け、中から卵やハム、レタスなどいくつかの具剤を取り出した。
「何作るの?」
「サンドイッチです。朝だからそのくらいがちょうどいいでしょ。……それより、先輩ってきちんと自炊してるんですね。なんか意外でした」
「ん? なんのこと?」
「この冷蔵庫を見ればわかりますよ。普段からやってないと、こんな中身になってないです。料理できる男子ってポイント高いですよ!」
「あー、それは……。いや、うん、そうそう。まあ、人並みにはな」
「……? 何です? 含みのある言い方して」
「別に。何でもないよ」
「そうですか? それならいいんですけど」
いまいち釈然としなさそうな都築だが、大して疑問には思わなかったようだ。
少しほっとした。
いや、別にバレてなんだって話ではあるんだけど、元カノもとい女友達が入り浸っていることに妙な誤解でもされたら面倒だ。
俺と紗香はそれでよくても、周りから理解されない可能性が大いにあることくらいわかっている。
無駄な火種を燃やす必要はない。
都築に「先輩は向こうで待っててください」と言われたので、大人しく引き下がった。
そのまましばらく待っていると、皿にサンドイッチを載せた都築がやってきた。
「おまたせしました~」
「お、サンキューな」
「いえいえ。では……いただきまーす」
「いただきます。そういえばさ、都築は今日講義ないの? ──お、これ美味いな」
「ありがとうございます。えっと、今日は午後からですね。先輩は?」
「あー……どうすっかな。俺も午後からだけど、サボるかも」
「え、体調でも悪いんですか?」
「いや? 休み明けで気分のらないなって」
「それだけ?」
「それだけだけど……」
言うと、呆れ顔を向けられた。
「何言ってるんですか。そんなのダメに決まってるでしょ。あ、そうだ。私、一旦家に帰りますけど、準備したら戻ってくるんで、学校まで送ってってください。一緒に行きましょ」
「えー……」
「『えー……』じゃない!」
「わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」
「わかればいいんです。そんなことしてたら留年しちゃいますよ」
「大丈夫だ。いざとなったら教授に泣きつくから」
冗談で言っただけなのが、通じたのか通じてないのか、都築はまた頭を抱えた。
「はぁ。もう。なんで私はこの人のことを……」
「なんか言ったか?」
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