上 下
11 / 40

第十一話:後輩と遊びに行く part3

しおりを挟む
 その後もクラゲと光を組み合わせた展示や、イルカが間近で見られる海中トンネルなんかを楽しんだ。
 都築はいちいち動きが大袈裟で面白い。
 イルカショーなんかはまるで子供のようにはしゃいでいた。

 なんとなく昔の自分を俯瞰して見ているような気分になっていることに気が付いて苦笑した。
 高校を卒業して二年経ち、いろいろと経験する中でどこか擦れてしまったのかもしれない。
 都築を見ていると、その失っていた何かが充足するように錯覚してしまう。
 それがなんだか新鮮な心地だった。


 そして現在。
 時間はまだ夕方近いくらいだが、俺たちは水族館から既に出て、再び車を走らせている。

「先輩、これってどこに向かってるんですか?」
「……どこだろ?」
「え! 何も考えずに走らせてたんですか?」
「ノープランだわ。一応、どっかで飯くらい食えればって思ってたけど、まだ結構時間あるよな。都築こそどこか行きたいところないの?」
「んー……じゃあ、せっかくここまで来たんで、この辺の観光地っぽいところ行きたいです」
「またアバウトな……」
「あはは。適当なのはお互いさまでしたね」

 どこかあったかな。
 ここら辺は観光できるようなところって意外と少ないんだよなー。

 そんなふうに考えながら頭の中をひっくり返しつつ行先を探していると、一つ心当たりを思いついた。
 面子が俺と都築ってところが少し微妙な気もするけど、まあ問題ないだろう。

「少し遠めだけどいいか? というか、ここら辺だとどこに行っても結構時間かかるし」
「私はいいですけど、先輩の方こそ運転疲れませんか? 私、免許持ってないので変われないですし」
「地方の大学生なめんな。このくらい問題ねえよ」

 △▼△▼△

「よし、着いたぞ」

 一時間と少し走らせると、ようやく目的の場所に到着した。
 駐車場は混んでいるというほどではなく、だけど閑散としているというわけでもない程度の埋まり具合だった。
 適当に空いている場所へと車を止め、二人揃って降りた。

 車を降りて少し歩くと、目の前に海岸が広がる。

「あれって……岩? ですか?」
「なんなんだろうな。一応なんとかって島の名前がついてたはずだけど」
「やっぱり適当だっ!」

 都築の言っているのは、目線の少し先にある三〇メートルほどもある巨大な岩塊だ。
 それが海の中にドンとかなり目立つ感じに存在していた。
 ここら辺一帯はこの地方ではそれなりに有名な景勝地であり、点々と生える松と海岸、そして岩島がかなりいい感じに風情を醸し出している。

 もうそろそろ夕方と言っても差し支えない時間だ。
 太陽はてっぺんをとうに通り過ぎ、夕日となって目の前の海へと落ちかけている。

「いい景色ですねー。もしかしてこれを見せに連れてきてくれたんですか?」
「まあな。でもそれだけじゃないぞ。ここは――」
「あ、先輩! あそこに何かありますよ!」

 言いかけている途中で都築が何かを見つけたらしく、指をさしている。
 見に行きましょうよ、の言葉に従って一緒に歩いてそちらへ向かう。

「鐘?」

 近くまで寄ると、木で出来た鳥居のような囲いの真ん中に大きな鐘が吊り下げられていた。

「なんだろう、これ?」

 都築が鐘を眺めながら首を傾げた。

「ああ。ここら辺はパワースポットになっていて、この鐘もその一環なんだ」
「へー」
「確か恋人の岬だとかなんとか言われていて、縁結びのご利益があるとかなんとか」
「……はい?」

 虚を突かれたような表情で、都築がこちらを見た。
 お、興味を引けたみたいだな。

「一応訊きますけど……先輩はどうして私をここに?」

 なぜかこちらの顔を窺うようにおずおずと都築に訊ねてきた。

「朝、車の中で『彼氏ほしい』って言ってただろ? だからこういうところ好きかと思ってな」
「――……あー、あー、なるほど。まあ、わかってましたけどね。そういうことですか……」
「あれ? 気に入らなかった?」
「いえ、そんなことはないですけど……。こういうところ、やっぱり先輩だなぁって思いまして」
「どういうことだよ?」
「そういうことですっ!」

 不満気なような、そうでもなさそうな調子だ。
 よくわからないけど、気に入らなかったわけではないから、いいのかな?

「……じゃあせっかく来たんだし、この鐘、鳴らしませんか?」
「一緒にか?」
「そうです」
「やめた方がいいぞ。これ確か、一緒に鳴らした二人は結ばれるとかそういうご利益があるやつのはずだし。一人で鳴らして運気高めた方がいいだろ」
「こんなところに男の人と二人で来てるのに一人で鐘鳴らしてたら、私がバカみたいじゃないですか。こーいうのは記念なんだからそれでいいんですっ」
「そういうもんか?」
「はいはい。いいから鳴らしますよ!」
「わかったよ」

 圧に押されて、一緒に下げられた紐を握って、前後に揺さぶる。
 それほど抵抗もなく、すぐにガラガラと音が響いた。
 何度か繰り返してから、手を離す。

「……よし!」
「本当によかったのか?」
「だからいいんですって。先輩も彼女いないんでしょ? ご利益あるといいですね」
「いや、まあ、俺は彼女いらないんだけど」
「恋人の聖地でそんなこと言わないの! もしかしたら案外、近くに先輩を見てくれている人、いるかもしれませんよ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...