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第七話:元カノと温泉旅行 part4
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「おー、美味しそうだね!」
机にはところ狭しと料理が並べられている。
それなりに奮発したおかげで、料理も通常よりもワングレード上のものになっている。
県の名産である甘エビや鰤を中心とした刺身のお造りがあると思えば、この辺りの地方の名前を冠した牛肉のすき焼きまである。
その他にも釜飯に茶碗蒸し、天麩羅などなど。
海山問わずふんだんに様々な料理が用意されていた。
「すげえな、おい。なんでもありかよ」
もちろんテンションは鰻登りだ。
「智樹ー、お酒はどれがいい? せっかくだから地酒の中から選ぼうかと思うんだけど」
「うーん、わかんないから任せる!」
「私だってわかんないよ!」
結局、配膳してくれていた仲居さんにおすすめを訊いて、言われるがままに注文した。
「はい、それでは、えーっと……三年生の四月、お疲れ様でした! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
コツン、とお猪口を軽くぶつけ、一気に飲み干す。
カッと喉が熱くなり、体温がじんわりとあがった。
仲居さんの選んでくれた日本酒は、果実を思わせる独特の甘い香りにすっきりとした味わいで、俺たちのように飲み慣れていない人間にもとても飲みやすいものだった。
うーん、さすが。
料理の方もどれをとっても美味しく、申し分ない味だ。
甘エビはぷりっとした歯応えにねっとりとした甘みが口に広がるし、鰤はよく脂が乗ってて溶けるように解けていく。
特に紗香は鰤が気に入ったらしく、食べるたびに顔を綻ばせていた。
「美味いな」
「うん、美味しい!」
「そんな美味そうな顔をして食べる紗香にはこれを進呈しよう」
ふざけた口調で刺身を皿ごと渡す。
一つずつ摘んだが、まだ半分以上残っている。
行儀としてはあまり良くないのかもしれないが、二人しかいないんだし今さらだ。
「わっ。いいの?」
「かまわんよ」
「へへ。ありがとね」
素直にだらしなく相好を崩す紗香を見ると、こちらまで幸せな気持ちになる。
だからこれは紗香のためじゃなくて、自分のためだ。
「じゃあ代わりに私はこっちのお肉あげるね」
「え、マジで? いいの?」
「うん、私、お肉よりお魚が好きだし。一枚は食べたからこれで充分」
「サンキュー」
と、心の中で恰好つけたことを思っていたら、きっちり等価交換されて戻ってきた。
ま、こっちの方がお互い気負いがないか。
お酒を飲もうとお猪口を口につけると、空になっていた。
──そういえばさっき一気に飲んだんだっけ。
思い出し、徳利を手に取って自分で注ごうとすると──
「あ、手酌禁止! 出世出来ないよ!」
紗香に取り上げられてしまった。
「何それ」
「あれ? 言わない?」
知らない。
「まあ、いいや。とにかく私がお酌してあげるから」
「お、悪いな。──って紗香も空いてんじゃねえか。ほら」
「ありがとー」
再び二人のお猪口にお酒が満たされた。
なんとなく顔を見合わせて笑う。
「あらためて、かんぱーい!」
「いえーい! かんぱーい!」
楽しいな。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
△▼△▼△
「はぁー……。いっぱい食べたぁ」
「俺も。腹いっぱい」
食事が終わり、下膳してもらった。
布団もついでに敷いてもらった。
何も言わなかったら勝手にくっつけて敷かれてしまった。
なんかこう……布団二組がくっついていると妙な緊張感がある。
少し離そうとしたけど、紗香に「そのままでいいよ」と止められてしまった。
「私たちにとっては今さらでしょ」
「それもそっか」
別にいっか。
酒も回ってきてよくわからないし。
なんでもないことのような気がしてきた。
「それよりさ、もう少し話そうよ。ほら、こっち来て」
窓際のテーブルと椅子が置いてあるスペースに手招きされた。
広縁と言うらしい。
広い縁側。
……そのままだな。
「これ飲も」
紗香が出してきたのはさっき外を散策していたときに買った地酒だ。
「まだ飲むのかよ」
「飲まないの?」
「飲むけど」
「飲むんじゃん」
「うるせ」
お猪口は食事とともに片付けられてしまったので、備え付けのグラスを使う。
言えば持ってきてもらえたかもしれなけれど、面倒だし。
「じゃ、注ぐよ」
とくとくとく、とまるで水のように紗香はなみなみとグラスに注いでいく。
「入れすぎ」
「今日中に空けるんだからこれでいいの。ほら、私も飲むから」
ん、と差し出されるグラスに俺も同じように注ぐ。
四合瓶。七二〇ミリリットル。コップ約四杯分か。
二人で分け合えば二杯ずつ。
そのくらいならギリ許容範囲かな。
「じゃ、乾杯」
「乾杯」
少しグラスを持ち上げるだけの、軽い乾杯。
先ほどの食事で旅行のメインイベントは終わり、これからは消化試合だ。
流れる空気もどこかゆったりと停滞している。
どことなく足場のないふわふわとした心地のまま、しんみりと。
二人の夜は更けていく。
机にはところ狭しと料理が並べられている。
それなりに奮発したおかげで、料理も通常よりもワングレード上のものになっている。
県の名産である甘エビや鰤を中心とした刺身のお造りがあると思えば、この辺りの地方の名前を冠した牛肉のすき焼きまである。
その他にも釜飯に茶碗蒸し、天麩羅などなど。
海山問わずふんだんに様々な料理が用意されていた。
「すげえな、おい。なんでもありかよ」
もちろんテンションは鰻登りだ。
「智樹ー、お酒はどれがいい? せっかくだから地酒の中から選ぼうかと思うんだけど」
「うーん、わかんないから任せる!」
「私だってわかんないよ!」
結局、配膳してくれていた仲居さんにおすすめを訊いて、言われるがままに注文した。
「はい、それでは、えーっと……三年生の四月、お疲れ様でした! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
コツン、とお猪口を軽くぶつけ、一気に飲み干す。
カッと喉が熱くなり、体温がじんわりとあがった。
仲居さんの選んでくれた日本酒は、果実を思わせる独特の甘い香りにすっきりとした味わいで、俺たちのように飲み慣れていない人間にもとても飲みやすいものだった。
うーん、さすが。
料理の方もどれをとっても美味しく、申し分ない味だ。
甘エビはぷりっとした歯応えにねっとりとした甘みが口に広がるし、鰤はよく脂が乗ってて溶けるように解けていく。
特に紗香は鰤が気に入ったらしく、食べるたびに顔を綻ばせていた。
「美味いな」
「うん、美味しい!」
「そんな美味そうな顔をして食べる紗香にはこれを進呈しよう」
ふざけた口調で刺身を皿ごと渡す。
一つずつ摘んだが、まだ半分以上残っている。
行儀としてはあまり良くないのかもしれないが、二人しかいないんだし今さらだ。
「わっ。いいの?」
「かまわんよ」
「へへ。ありがとね」
素直にだらしなく相好を崩す紗香を見ると、こちらまで幸せな気持ちになる。
だからこれは紗香のためじゃなくて、自分のためだ。
「じゃあ代わりに私はこっちのお肉あげるね」
「え、マジで? いいの?」
「うん、私、お肉よりお魚が好きだし。一枚は食べたからこれで充分」
「サンキュー」
と、心の中で恰好つけたことを思っていたら、きっちり等価交換されて戻ってきた。
ま、こっちの方がお互い気負いがないか。
お酒を飲もうとお猪口を口につけると、空になっていた。
──そういえばさっき一気に飲んだんだっけ。
思い出し、徳利を手に取って自分で注ごうとすると──
「あ、手酌禁止! 出世出来ないよ!」
紗香に取り上げられてしまった。
「何それ」
「あれ? 言わない?」
知らない。
「まあ、いいや。とにかく私がお酌してあげるから」
「お、悪いな。──って紗香も空いてんじゃねえか。ほら」
「ありがとー」
再び二人のお猪口にお酒が満たされた。
なんとなく顔を見合わせて笑う。
「あらためて、かんぱーい!」
「いえーい! かんぱーい!」
楽しいな。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
△▼△▼△
「はぁー……。いっぱい食べたぁ」
「俺も。腹いっぱい」
食事が終わり、下膳してもらった。
布団もついでに敷いてもらった。
何も言わなかったら勝手にくっつけて敷かれてしまった。
なんかこう……布団二組がくっついていると妙な緊張感がある。
少し離そうとしたけど、紗香に「そのままでいいよ」と止められてしまった。
「私たちにとっては今さらでしょ」
「それもそっか」
別にいっか。
酒も回ってきてよくわからないし。
なんでもないことのような気がしてきた。
「それよりさ、もう少し話そうよ。ほら、こっち来て」
窓際のテーブルと椅子が置いてあるスペースに手招きされた。
広縁と言うらしい。
広い縁側。
……そのままだな。
「これ飲も」
紗香が出してきたのはさっき外を散策していたときに買った地酒だ。
「まだ飲むのかよ」
「飲まないの?」
「飲むけど」
「飲むんじゃん」
「うるせ」
お猪口は食事とともに片付けられてしまったので、備え付けのグラスを使う。
言えば持ってきてもらえたかもしれなけれど、面倒だし。
「じゃ、注ぐよ」
とくとくとく、とまるで水のように紗香はなみなみとグラスに注いでいく。
「入れすぎ」
「今日中に空けるんだからこれでいいの。ほら、私も飲むから」
ん、と差し出されるグラスに俺も同じように注ぐ。
四合瓶。七二〇ミリリットル。コップ約四杯分か。
二人で分け合えば二杯ずつ。
そのくらいならギリ許容範囲かな。
「じゃ、乾杯」
「乾杯」
少しグラスを持ち上げるだけの、軽い乾杯。
先ほどの食事で旅行のメインイベントは終わり、これからは消化試合だ。
流れる空気もどこかゆったりと停滞している。
どことなく足場のないふわふわとした心地のまま、しんみりと。
二人の夜は更けていく。
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