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終わりと始まり
ドラゴノイド家(4)
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「ねえ、母さん」
「どうしたの?」
「今楽しい?」
「どうしたの急に?」
「だって、母さん昔、竜になるのしぶってったじゃん? けど、父さんたちは変わらずにいるし、エマやユリウスが生まれてさらに騒がしくなった。だから今どう思ってるのかなあって、なんとなく思ったわけ。昔の仲間の人を思い出してつらくなったりしない? 後悔してない?」
これまでルニルは別れに対して特に何の感情も抱いていなかった。大好きなリーシャが人間として死を迎えようとしていた時も、寿命なら仕方ないと割り切った考えをしていた。
けれど自分が人間に対して恋に近しい感情を覚え、その人との別れという出来事を考えた時、心が痛んだ。そして時を重ねるごとにこの痛みは強さを増していくのだろうと悟り、ルニルは淡い恋心を抱いた彼女から逃げ出し、この家に逃げ込んだ。
そしてふと、感情豊かなリーシャがそんな感情に何度も向かい合い、未だに苦しんでいるのではないかと思い不安になった。
けれどリーシャは思いの他平然としていた。
「うーん。そりゃさ、今でももちろんつらくなる事はあるよ? 皆の顔を思い出して泣きそうになる事だって。けどね、それ以上にノアにルシアにエリアルに、エマ、ユリウスが側にいてくれて、ルニルもこうして帰って来てくれるから、悲しい以上に幸せなんだ。今は生まれ変われてよかったって思ってるよ」
リーシャは朗らかに笑っていた。それが嘘偽りのないリーシャの心。大好きなリーシャが幸せそうで、ルニルは心から安心した。
「おい! お前たち、卵が!」
ノアが慌てた声で叫んだ。
もともと竜の卵は孵りにくい。
何かトラブルでも起きたのではと全員慌てて卵の元へと向かった。
「どうしたの⁉」
「動いた。もうすぐ孵るぞ」
ルシアの「紛らわしいんだよ」という声を全員肯定すると、その瞬間を見ようと、身を乗り出して卵を見つめだした。
ノアが言ったように卵は左右にゆらゆらと動いている。
突然ピキッという音を立ててひびが入ると、続けざまに次々と音を立てながらひび割れ箇所は増えていく。まるで中で大暴れでもしているようだ。
ついに卵のてっぺんに穴が開くと、そこからにゅるっと手が出てきて、穴を広げるようにして中の赤子が身を乗り出した。
初めての外の景色を目にしてきょとんとしている。
「かっ、可愛いいいい! うちの子たちはなんでこんな可愛い子ばかりなの‼ おいでー、私がママだよ」
「ウーア?」
リーシャは卵から孵ったばかりの我が子を腕の中におさめた。その姿は姉と兄が生まれた時と同様、卵の中でずいぶんと成長していたようで、とても肉付きの良い姿だった。
そして生まれた赤子の姿に、一同ある結論に辿り着いた。それを口に出したのはルニルだった。
「母さんの子供3人全員がこの姿でってなると、やっぱ母さんが人間だった影響ってかなり大きいみたいだね」
「うん、そうみたいだね」
リーシャの腕の中に抱えられているのは、翼と竜の鱗が生えた、人間姿の男の赤子だった。
生また時からこの姿など、竜の子供としては前代未聞。けれどそんな事などこの家族にとっては些細な事だ。元気に生まれてきてくれるだけでこの一家にとっては幸せだった。
リーシャは愛しそうに腕の中の我が子に話しかける。
「ふふっ。あなたは男の子だから、名前はヨハネよ。いい? ヨハネ」
「ウー?」
指をくわえるヨハネはぐるりと周りを見渡した。そして最後にじっとリーシャの事を見るとニコッと笑いかける。その笑顔に、周りは一瞬で虜にされるのだった。
仲良し大家族になっても、リーシャの波乱は変わらずこれからも続いていくだろう。
ドラゴノイド一家のそんな騒々しい暮らし模様はまた別のお話だ。
「どうしたの?」
「今楽しい?」
「どうしたの急に?」
「だって、母さん昔、竜になるのしぶってったじゃん? けど、父さんたちは変わらずにいるし、エマやユリウスが生まれてさらに騒がしくなった。だから今どう思ってるのかなあって、なんとなく思ったわけ。昔の仲間の人を思い出してつらくなったりしない? 後悔してない?」
これまでルニルは別れに対して特に何の感情も抱いていなかった。大好きなリーシャが人間として死を迎えようとしていた時も、寿命なら仕方ないと割り切った考えをしていた。
けれど自分が人間に対して恋に近しい感情を覚え、その人との別れという出来事を考えた時、心が痛んだ。そして時を重ねるごとにこの痛みは強さを増していくのだろうと悟り、ルニルは淡い恋心を抱いた彼女から逃げ出し、この家に逃げ込んだ。
そしてふと、感情豊かなリーシャがそんな感情に何度も向かい合い、未だに苦しんでいるのではないかと思い不安になった。
けれどリーシャは思いの他平然としていた。
「うーん。そりゃさ、今でももちろんつらくなる事はあるよ? 皆の顔を思い出して泣きそうになる事だって。けどね、それ以上にノアにルシアにエリアルに、エマ、ユリウスが側にいてくれて、ルニルもこうして帰って来てくれるから、悲しい以上に幸せなんだ。今は生まれ変われてよかったって思ってるよ」
リーシャは朗らかに笑っていた。それが嘘偽りのないリーシャの心。大好きなリーシャが幸せそうで、ルニルは心から安心した。
「おい! お前たち、卵が!」
ノアが慌てた声で叫んだ。
もともと竜の卵は孵りにくい。
何かトラブルでも起きたのではと全員慌てて卵の元へと向かった。
「どうしたの⁉」
「動いた。もうすぐ孵るぞ」
ルシアの「紛らわしいんだよ」という声を全員肯定すると、その瞬間を見ようと、身を乗り出して卵を見つめだした。
ノアが言ったように卵は左右にゆらゆらと動いている。
突然ピキッという音を立ててひびが入ると、続けざまに次々と音を立てながらひび割れ箇所は増えていく。まるで中で大暴れでもしているようだ。
ついに卵のてっぺんに穴が開くと、そこからにゅるっと手が出てきて、穴を広げるようにして中の赤子が身を乗り出した。
初めての外の景色を目にしてきょとんとしている。
「かっ、可愛いいいい! うちの子たちはなんでこんな可愛い子ばかりなの‼ おいでー、私がママだよ」
「ウーア?」
リーシャは卵から孵ったばかりの我が子を腕の中におさめた。その姿は姉と兄が生まれた時と同様、卵の中でずいぶんと成長していたようで、とても肉付きの良い姿だった。
そして生まれた赤子の姿に、一同ある結論に辿り着いた。それを口に出したのはルニルだった。
「母さんの子供3人全員がこの姿でってなると、やっぱ母さんが人間だった影響ってかなり大きいみたいだね」
「うん、そうみたいだね」
リーシャの腕の中に抱えられているのは、翼と竜の鱗が生えた、人間姿の男の赤子だった。
生また時からこの姿など、竜の子供としては前代未聞。けれどそんな事などこの家族にとっては些細な事だ。元気に生まれてきてくれるだけでこの一家にとっては幸せだった。
リーシャは愛しそうに腕の中の我が子に話しかける。
「ふふっ。あなたは男の子だから、名前はヨハネよ。いい? ヨハネ」
「ウー?」
指をくわえるヨハネはぐるりと周りを見渡した。そして最後にじっとリーシャの事を見るとニコッと笑いかける。その笑顔に、周りは一瞬で虜にされるのだった。
仲良し大家族になっても、リーシャの波乱は変わらずこれからも続いていくだろう。
ドラゴノイド一家のそんな騒々しい暮らし模様はまた別のお話だ。
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