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終わりと始まり

魂の光(1)

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 この部屋のではない扉がガチャンと開けられる音がした。バタバタと廊下を駆ける足音が2つ近づいて来る。

「ようやく帰ってきたか」

 ノアの呟きの直後、部屋の扉が勢いよく開かれ、待ち人2人が部屋の中に慌ただしく飛び込んできた。

「リーシャ‼」
「お姉様っ!」

 焦る声でリーシャを呼ぶのは、昔から変わらない姿のクリスティナと、数日前まで老いた姿をしていたはずのルシアだ。今はノアとエリアルと同様に昔の容姿へと戻っている。
 2人はその理由を察していたのだろう。ルシアの顔色は過去にないほどの蒼白に染まっている。
 ルシアは崩れるように、氷漬けのリーシャが横たわるベッドへ寄りかかった。

「兄貴、リーシャは⁉ まさか、間に合わなかったのか⁉」
「わからない。気がついてすぐに凍らせはしたが、俺たちがこの姿に戻ったという事は……」
「そんな……うそ、だろ……? くそぉっ!」

 ルシアは思いきりベッドの端に拳を叩きつけた。もっと急げたのではないかと悔やんでいるのだろう。顔は俯いて隠れているけれど、絶望に歪んでいるに違いない。そんな声だった。
 ノアの胸で泣いていたエリアルが、ルシアの背中に泣きついた。

「ごめっ。僕が、すぐに魔法、使えなかったから……ちゃんとできてたら、ねぇさんは……」
「あ、いや、お前に怒ったんじゃないからな。お前はやる事ちゃんとやれたんだ。どんな結果になっても、俺も兄貴もエリアルが悪いなんて思うわけないから。泣き止め、な?」
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁん!」

 エリアルは遠吠えでもするかのように、余計に激しく泣き出してしまった。いつもならすぐにでもあやしにかかるルシアも、今はさすがにそんな気力はないのか、押し黙った。

「しっかりしてください、皆さん。まだお姉様が死んだと決まったわけじゃありませんわ!」

 クリスティナがそんな葬儀前のような空気を払拭するような、はきはきとした声を響かせた。
 リーシャを竜にするという提案が上がった当初の計画では、今この場にいるのは竜王という事になっていた。けれど、クリスティナがリーシャの魂を卵に移す役割を譲る気は無いとあまりにも言い張るため、長年かけて竜王が自身の経験を叩き込むことで、現状に至ったのだった。
 実行者が竜王ではない事に不安がないわけではないけれど、竜王以上にリーシャを大切に思っているクリスティナならばと、4人はその申し出を受け入れたのだった。
 兄のように光の魔法を自在に操れるわけではないクリスティナだけれど、ノアたち兄弟を諭そうとする姿は、経験を積んできた者のように自信に溢れていた。

「お兄様は言っていましたわ。人間の魂が抜け出るのは体の機能が完全に停止した後、魔力が完全に空になった時。魂は魔力と親和性が強いのか、魔力が少しでも残っていれば魂を繋ぎとめておいてくれるそうです。それに、人間と番う竜の姿が若さを取り戻すのは、体の機能が停止して、新たな魔力が作られなくなった時。なので、たとえ竜の方の擬態姿が若くなったとしても、番の方の魂が体に留まっている可能性は残されてるとも言っていました。お姉様の魔力量はずば抜けて多かったのですから、きっとまだ魂は体に残っているはずですわ!」

 その理屈が本当なのかなど、兄から聞いただけのクリスティナも、そもそも転生の手順自体をよくわかっていないノアたちも知る由はない。
 けれど、いつまでもリーシャの死を嘆き続けても、何も始まりはしない。クリスティナの言葉を信じ、可能性を信じて事を進めるしかないのはノアにもわかる。
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