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竜の国
後日談(15)
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リーシャが俯いていると、ノアの眉間に皺が寄った。
「それを言うなら、お前がいなくなった後の俺たちや竜王、クリスティナの事はどうなんだ? お前は俺たちにお前が死んだ後も生き続けて欲しいと言う。まあ、その願いはおそらく叶えられないだろうが、クリスティナはどうだ? あいつは実の兄の事よりもリーシャ、お前の事を姉として強く慕っている。だが、たとえリーシャが死んでも、あいつの体は死を選ばない。自分の意志で死のうとしても、それは竜王が許さないだろう。お前がいなくなった喪失感の中を、生きなければならないんだ。竜王もお前を少なからず気に入っている。何も感じないわけがない」
「それは……きっといつかは慣れるよ」
「そう言うなら、俺もお前に同じ言葉を贈ってやる。友の死などいずれ慣れる」
「そ、そうやって言うなら、ノアたちだって」
「お前の思う喪失感と一緒にするな。俺たちのは竜の特性だ。気持ちでどうにかなるものではない。竜が番を求めるという事はそういうものなんだ」
リーシャは自分の悩んでいる事が、ノアたちに比べたら些細な事と言われたように思えてムッとした。
「じゃ、じゃあ、ノアは私が竜として生まれ変われさえすれば、他のことは気にしないんだね?」
「は? 何が言いたい」
「人間の記憶がなくて、全く別人みたいになっちゃってたら? それって魂が私なだけであって、私じゃないよね? それでもノアたちはいいの? それでも生き続けてくれるんだね?」
「なっ」
リーシャがムキになって力強くそう言うと、ノアの瞳が揺れ、言葉に詰まった。
論点がズレている事はリーシャも百も承知。けれど、何か言い返さなければ気がおさまらなかった。
ノアの方は、リーシャの言った事の可能性を考えていなかったわけではないだろうけれど、考えたくなくて頭の片隅にでも追いやっていたのかもしれない。
言いたくなさそうに言葉を閉ざしていたものの、リーシャが答えを求めて見つめ続けたところ、根負けしたようだ。
「その時にならなければわからないが、その竜の中にお前をみいだせなければ、体は衰弱していくだろう。だが、そうなってもお前が1人でも生きていけるくらいには、術を教えてから逝く。それくらいならば生を延ばせる。いや、延ばしてみせる」
ノアの言葉に、リーシャの胸にズキリと重く鈍い痛みが走った。
それは一番聞きたくない答えだ。
転生に成功する可能性も低く、成功したとしても記憶が引き継がれる保証などない。成功例がない以上、魂が移り変わったところで、魂が記憶を保持しているかどうかわからないのだ。魂は魂であって、記憶や人格とは一切関係のない物なのかもしれない。
どうやっても、リーシャと竜の兄弟たちの望みは叶わないのかもしれない。
「それを言うなら、お前がいなくなった後の俺たちや竜王、クリスティナの事はどうなんだ? お前は俺たちにお前が死んだ後も生き続けて欲しいと言う。まあ、その願いはおそらく叶えられないだろうが、クリスティナはどうだ? あいつは実の兄の事よりもリーシャ、お前の事を姉として強く慕っている。だが、たとえリーシャが死んでも、あいつの体は死を選ばない。自分の意志で死のうとしても、それは竜王が許さないだろう。お前がいなくなった喪失感の中を、生きなければならないんだ。竜王もお前を少なからず気に入っている。何も感じないわけがない」
「それは……きっといつかは慣れるよ」
「そう言うなら、俺もお前に同じ言葉を贈ってやる。友の死などいずれ慣れる」
「そ、そうやって言うなら、ノアたちだって」
「お前の思う喪失感と一緒にするな。俺たちのは竜の特性だ。気持ちでどうにかなるものではない。竜が番を求めるという事はそういうものなんだ」
リーシャは自分の悩んでいる事が、ノアたちに比べたら些細な事と言われたように思えてムッとした。
「じゃ、じゃあ、ノアは私が竜として生まれ変われさえすれば、他のことは気にしないんだね?」
「は? 何が言いたい」
「人間の記憶がなくて、全く別人みたいになっちゃってたら? それって魂が私なだけであって、私じゃないよね? それでもノアたちはいいの? それでも生き続けてくれるんだね?」
「なっ」
リーシャがムキになって力強くそう言うと、ノアの瞳が揺れ、言葉に詰まった。
論点がズレている事はリーシャも百も承知。けれど、何か言い返さなければ気がおさまらなかった。
ノアの方は、リーシャの言った事の可能性を考えていなかったわけではないだろうけれど、考えたくなくて頭の片隅にでも追いやっていたのかもしれない。
言いたくなさそうに言葉を閉ざしていたものの、リーシャが答えを求めて見つめ続けたところ、根負けしたようだ。
「その時にならなければわからないが、その竜の中にお前をみいだせなければ、体は衰弱していくだろう。だが、そうなってもお前が1人でも生きていけるくらいには、術を教えてから逝く。それくらいならば生を延ばせる。いや、延ばしてみせる」
ノアの言葉に、リーシャの胸にズキリと重く鈍い痛みが走った。
それは一番聞きたくない答えだ。
転生に成功する可能性も低く、成功したとしても記憶が引き継がれる保証などない。成功例がない以上、魂が移り変わったところで、魂が記憶を保持しているかどうかわからないのだ。魂は魂であって、記憶や人格とは一切関係のない物なのかもしれない。
どうやっても、リーシャと竜の兄弟たちの望みは叶わないのかもしれない。
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