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竜の国
後日談(11)
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「あ、そうだ」
ふとフェンリルの足が止まった。
「どうしたの?」
「リーシャ、カルディスの指輪は今持ってるか?」
「うん」
「それ、こっちで預かってもいいか? 中の魔物がいなくなったとはいえ、貴重な魔道具であることには変わりないからな」
「えっ……」
「なんだよ。なんか問題でもあんのか?」
「問題はないけど……ずっとシャノウさんと一緒にいたから。お別れしちゃった上に、この指輪までなくなっちゃったら……」
「なるほど。愛着か…………」
リーシャももちろんそんな理由で納得してもらえるとは思っていない。
カルディスの指輪は刻印自体が繊細で価値のある魔道具である上に、強力な魔物を封じ、操る事もできる貴重で危険な魔道具でもある。操れる魔法使いがいるいないに関わらず、世に出回っていい魔道具ではない。
それはわかっていても、シャノウとの思い出を映すこの指輪を手放す覚悟はそう簡単な事ではなかった。
フェンリルも拒否されると思っていなかったようで少しばかり頭を悩ませていた。
「んー……まあいいか。どうせそれが召喚の指輪だなんて知ってる人間なんてほぼいねぇんだし。こっちで保管したところで、誰か使えるってわけでもねぇしな。お前が持ってた方が何か役に立つか」
「……そんないい加減でいいわけ?」
あっさりと出された予想外の結論に、目を丸くせずにはいられなかった。
「あー、いーんじゃねぇの。親父に回収して来いって言われたわけじゃねぇし。お前は金を積んでも魔道具は手放さないタイプの人間だろ?」
「えーっと、よくおわかりで」
「ハッ、そりゃな。お前にとって何よりも優先させたい大事なものが、そいつら兄弟の次が魔法だって事がわかってりゃ、そんくらいの事は簡単に予想できちまうよ」
「えっ、なっ!」
図星を突かれたのもそうなのだけれど、変な言い方をされたリーシャの顔は、瞬く間に赤く染まり上げた。
フェンリルはニシッと笑うと、「じゃーな」と手をヒラつかせながら、部屋を出て行ってしまった。相変わらず真面目なのかいい加減なのかよくわからない王子である。
フェンリルの姿が扉の影に消えると、リーシャはちらっと3兄弟たちの様子を見てみた。
喜んでいるかと思いきや、3人とも知っていると言わんばかりの顔をしていた。このまま1人気にし続ける方が気まずいように思える。
茶会もどきの騒がしい主催者が去った後は、エリアルが黙々と菓子を食べ続ける音が響いた。
「えーっと、これはもう帰った方がいいのかな?」
「フェンリルが好きなだけいていいっていてたんだし、まだいいんじゃねぇの?」
「けど、それって社交辞令でしょ。すぐに帰れとか思ってても直接言えないし」
「? よくわかんねぇけど、あいつなら俺らにはダメなもんはダメって言うだろ」
「言うかなぁ」
言いそうと言えばいいそうである。
それにテーブルに並ぶ菓子の数々はわざわざ急いで用意させたと言い、残した方が悲しいと言っていた。大袈裟に言っただけだろうけれど、それが本当なら大量に残して帰る方が失礼な気もする。
「まあ、今出されてる分を頂く間くらいならいいのかな」
「いんじゃねーの」
「じゃあ、まあそうしようか」
リーシャも手を伸ばし始める。
「あっ、美味しい」
そんなこぼれ出た言葉に反応して、エリアル笑顔でリーシャの方を向いた。
「僕、頑張ってこういうのも作れるようになって見せるから。待っててね!」
「うん。待ってるね」
きっと料理長に弟子入りをすることを言っている事なのだろう。
これからエリアルがどんなものを作れるようになるのか。
リーシャは成長がとても楽しみだった。
ふとフェンリルの足が止まった。
「どうしたの?」
「リーシャ、カルディスの指輪は今持ってるか?」
「うん」
「それ、こっちで預かってもいいか? 中の魔物がいなくなったとはいえ、貴重な魔道具であることには変わりないからな」
「えっ……」
「なんだよ。なんか問題でもあんのか?」
「問題はないけど……ずっとシャノウさんと一緒にいたから。お別れしちゃった上に、この指輪までなくなっちゃったら……」
「なるほど。愛着か…………」
リーシャももちろんそんな理由で納得してもらえるとは思っていない。
カルディスの指輪は刻印自体が繊細で価値のある魔道具である上に、強力な魔物を封じ、操る事もできる貴重で危険な魔道具でもある。操れる魔法使いがいるいないに関わらず、世に出回っていい魔道具ではない。
それはわかっていても、シャノウとの思い出を映すこの指輪を手放す覚悟はそう簡単な事ではなかった。
フェンリルも拒否されると思っていなかったようで少しばかり頭を悩ませていた。
「んー……まあいいか。どうせそれが召喚の指輪だなんて知ってる人間なんてほぼいねぇんだし。こっちで保管したところで、誰か使えるってわけでもねぇしな。お前が持ってた方が何か役に立つか」
「……そんないい加減でいいわけ?」
あっさりと出された予想外の結論に、目を丸くせずにはいられなかった。
「あー、いーんじゃねぇの。親父に回収して来いって言われたわけじゃねぇし。お前は金を積んでも魔道具は手放さないタイプの人間だろ?」
「えーっと、よくおわかりで」
「ハッ、そりゃな。お前にとって何よりも優先させたい大事なものが、そいつら兄弟の次が魔法だって事がわかってりゃ、そんくらいの事は簡単に予想できちまうよ」
「えっ、なっ!」
図星を突かれたのもそうなのだけれど、変な言い方をされたリーシャの顔は、瞬く間に赤く染まり上げた。
フェンリルはニシッと笑うと、「じゃーな」と手をヒラつかせながら、部屋を出て行ってしまった。相変わらず真面目なのかいい加減なのかよくわからない王子である。
フェンリルの姿が扉の影に消えると、リーシャはちらっと3兄弟たちの様子を見てみた。
喜んでいるかと思いきや、3人とも知っていると言わんばかりの顔をしていた。このまま1人気にし続ける方が気まずいように思える。
茶会もどきの騒がしい主催者が去った後は、エリアルが黙々と菓子を食べ続ける音が響いた。
「えーっと、これはもう帰った方がいいのかな?」
「フェンリルが好きなだけいていいっていてたんだし、まだいいんじゃねぇの?」
「けど、それって社交辞令でしょ。すぐに帰れとか思ってても直接言えないし」
「? よくわかんねぇけど、あいつなら俺らにはダメなもんはダメって言うだろ」
「言うかなぁ」
言いそうと言えばいいそうである。
それにテーブルに並ぶ菓子の数々はわざわざ急いで用意させたと言い、残した方が悲しいと言っていた。大袈裟に言っただけだろうけれど、それが本当なら大量に残して帰る方が失礼な気もする。
「まあ、今出されてる分を頂く間くらいならいいのかな」
「いんじゃねーの」
「じゃあ、まあそうしようか」
リーシャも手を伸ばし始める。
「あっ、美味しい」
そんなこぼれ出た言葉に反応して、エリアル笑顔でリーシャの方を向いた。
「僕、頑張ってこういうのも作れるようになって見せるから。待っててね!」
「うん。待ってるね」
きっと料理長に弟子入りをすることを言っている事なのだろう。
これからエリアルがどんなものを作れるようになるのか。
リーシャは成長がとても楽しみだった。
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