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竜の国
後日談(6)
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そんな雑談をしていても、一向に目的の場所に辿り着かずにいた。
ふと窓の外に目をやると、そこから見える城の庭や街の角度に、なんとなく覚えがあるような気がした。
「ねぇ。もしかして、国王様のところに向かってる?」
これから話そうとしている事は、今この大陸全ての国が頭を悩ませている竜に関連する内容だ。謁見の間で国王を前にして報告しなければならない可能性は十分にあり得る。
またあの物々しい雰囲気の広間に連れて行かれるのかと思うと、リーシャの体は強張った。
「いや。お前の件は俺が任されてるから、親父と会う必要はねぇよ」
「そう、よかった」
「お前、親父の事苦手なのか?」
「国王様がというより、謁見の時の雰囲気がちょっとね」
「ふーん。雰囲気がねぇ」
「なによ」
「いや、ただ、お前でも雰囲気とかそういうの気にすんだなぁって思っただけ」
「するよ。当たり前でしょ。フェンリルみたいに図太い性格してないもん」
「嫌味な気がするけど、誉め言葉として受け取っとくわ。って言ってる間に着いたぜ」
フェンリルが足を止めた。
周りのどの部屋の扉とも同じ造りをしていて、特別な部屋と言ったわけではないようだ。造りには見覚えがあった。
「ここって客室?」
「そっ。俺がリーシャと初めて会った部屋。全く知らない部屋連れてくより、ここの方がまだマシだろ?」
「えーっと。あんまり変わらないかなぁ」
そうぼやきながら、フェンリルの後を追って華やかな室内へと踏み入れた。壁の傍にはワゴンを携えたメイドが直立している。
フェンリルは菓子の置かれたテーブルの椅子を引くと、座らずにそのまま後ろに立っていた。
(もしかして、エスコートしようとしてくれてる?)
フェンリルはあれでも第2王子で、リーシャは平民。本来ならありえない光景だ。
フェンリルの行動に、自分がやりたかったのかルシアはふくれっ面になり、メイドはわずかにあきれ顔になっている。
「ほら、早く座れよ」
「あの、フェンリル。私にはそんな事しなくていいよ?」
「ん? あー、そうだな。今はそんな必要なかったな。つい」
「ついって……」
フェンリルは情報収集のため、時折街へと出向き、王子らしからぬと言われる振る舞いをしていると聞く。それの一端が思わず出てしまったのだろう。
そんなリーシャへのエスコートが気にくわないルシアはズンズンと近づいていき、フェンリルを椅子の側から押しのけた。
「あとは俺がやるから、フェンリルは先に座ってろ」
「へいへい。つかお前、俺がやるって言ってるけど、何すればいいかわかってんのかよ」
「……どうすればいいんだ」
「だろーと思った。リーシャが椅子の前に立って座ろうとしたら、タイミング合わせて椅子を押してやれ」
「なんだ、簡単だな。わかった」
ルシアが期待の眼差しを向けるため、断り切れずにリーシャは照れながらもルシアのエスコートを受けた。やりきったルシアは満足げにリーシャの隣の椅子に腰を下ろす。
3人が座ると壁際にいたメイドが、リーシャたちの目の前に綺麗な琥珀色をしたお茶のはいったカップをそっと置いた。
フェンリルが手を上げると、メイドは一礼して客室の外へと出て行ってしまった。
「話を聞き出さないとって思ったら、ついやっちまうんだよなぁ。癖にでもなってんだろうな」
「頻繁にやってるならそうかもね。まあでも、悪い事してるわけじゃないんだし、いいんじゃない?」
「俺が王子っていう立場じゃなければな。威厳が示せないから止めろとかなんとか小言言われるんだぜ」
リーシャはそういうフェンリルの今の姿を見て、小言を言われる1番の原因はそれじゃないのではと思ってしまった。
「……それって、王子が誰にでもエスコートしてるとか以前に、今みたいなのフェンリルの態度が原因なんじゃないの?」
「は? 態度?」
今のフェンリルは、肘で頬杖を突きながら、テーブルの上の菓子を頬張っていた。親しい者の前とはいえ、気を抜きすぎだ。
ふと窓の外に目をやると、そこから見える城の庭や街の角度に、なんとなく覚えがあるような気がした。
「ねぇ。もしかして、国王様のところに向かってる?」
これから話そうとしている事は、今この大陸全ての国が頭を悩ませている竜に関連する内容だ。謁見の間で国王を前にして報告しなければならない可能性は十分にあり得る。
またあの物々しい雰囲気の広間に連れて行かれるのかと思うと、リーシャの体は強張った。
「いや。お前の件は俺が任されてるから、親父と会う必要はねぇよ」
「そう、よかった」
「お前、親父の事苦手なのか?」
「国王様がというより、謁見の時の雰囲気がちょっとね」
「ふーん。雰囲気がねぇ」
「なによ」
「いや、ただ、お前でも雰囲気とかそういうの気にすんだなぁって思っただけ」
「するよ。当たり前でしょ。フェンリルみたいに図太い性格してないもん」
「嫌味な気がするけど、誉め言葉として受け取っとくわ。って言ってる間に着いたぜ」
フェンリルが足を止めた。
周りのどの部屋の扉とも同じ造りをしていて、特別な部屋と言ったわけではないようだ。造りには見覚えがあった。
「ここって客室?」
「そっ。俺がリーシャと初めて会った部屋。全く知らない部屋連れてくより、ここの方がまだマシだろ?」
「えーっと。あんまり変わらないかなぁ」
そうぼやきながら、フェンリルの後を追って華やかな室内へと踏み入れた。壁の傍にはワゴンを携えたメイドが直立している。
フェンリルは菓子の置かれたテーブルの椅子を引くと、座らずにそのまま後ろに立っていた。
(もしかして、エスコートしようとしてくれてる?)
フェンリルはあれでも第2王子で、リーシャは平民。本来ならありえない光景だ。
フェンリルの行動に、自分がやりたかったのかルシアはふくれっ面になり、メイドはわずかにあきれ顔になっている。
「ほら、早く座れよ」
「あの、フェンリル。私にはそんな事しなくていいよ?」
「ん? あー、そうだな。今はそんな必要なかったな。つい」
「ついって……」
フェンリルは情報収集のため、時折街へと出向き、王子らしからぬと言われる振る舞いをしていると聞く。それの一端が思わず出てしまったのだろう。
そんなリーシャへのエスコートが気にくわないルシアはズンズンと近づいていき、フェンリルを椅子の側から押しのけた。
「あとは俺がやるから、フェンリルは先に座ってろ」
「へいへい。つかお前、俺がやるって言ってるけど、何すればいいかわかってんのかよ」
「……どうすればいいんだ」
「だろーと思った。リーシャが椅子の前に立って座ろうとしたら、タイミング合わせて椅子を押してやれ」
「なんだ、簡単だな。わかった」
ルシアが期待の眼差しを向けるため、断り切れずにリーシャは照れながらもルシアのエスコートを受けた。やりきったルシアは満足げにリーシャの隣の椅子に腰を下ろす。
3人が座ると壁際にいたメイドが、リーシャたちの目の前に綺麗な琥珀色をしたお茶のはいったカップをそっと置いた。
フェンリルが手を上げると、メイドは一礼して客室の外へと出て行ってしまった。
「話を聞き出さないとって思ったら、ついやっちまうんだよなぁ。癖にでもなってんだろうな」
「頻繁にやってるならそうかもね。まあでも、悪い事してるわけじゃないんだし、いいんじゃない?」
「俺が王子っていう立場じゃなければな。威厳が示せないから止めろとかなんとか小言言われるんだぜ」
リーシャはそういうフェンリルの今の姿を見て、小言を言われる1番の原因はそれじゃないのではと思ってしまった。
「……それって、王子が誰にでもエスコートしてるとか以前に、今みたいなのフェンリルの態度が原因なんじゃないの?」
「は? 態度?」
今のフェンリルは、肘で頬杖を突きながら、テーブルの上の菓子を頬張っていた。親しい者の前とはいえ、気を抜きすぎだ。
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