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竜の国
後日談(4)
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街からの騒めく音をぼんやり聞いていると、だんだんとルシアが喋らない事が気になりはじめた。いつもはこういう時に場の盛り上げ役のように喋るのに、顔が何を話していいかわからないと言っている。次第にリーシャの方からぽつりぽつりと話し出すようになった。
しばらくそんな雰囲気で、もうそろそろ城を目指している2人が辿り着いてもいい頃合いになるまで話をして待ち続けた。けれど、未だに彼らの姿は見えてこない。
すると、思わぬ方から人が近づいて来た。
その人に向かって門番たちは素早く敬礼をした。
「お疲れ様です、フェンリル団長!」
「おう、ご苦労。けどな、残念ながら今はお前らの団長としてここに来たわけじゃないからな?」
フェンリルは自分が着ている白いジャケットの襟を見せつけるように引っ張った。そのジャケットは遠征時に着ている物ではなく、威厳のある華やかな装飾を施された、王族のみが着ることが許されたものだ。
「はっ! も、申し訳ございません! フェンリル殿下!」
「ん。ここでは気をつけろよ? じゃないと、いざという時に痛い目見るのはお前らだからな」
「はい! 以後気をつけます!」
どうやら第2王子として現れたらしいフェンリルと門番との会話を聞いていると、不意に横を向いたフェンリルとリーシャの視線が合った。直後、フェンリルは目を見開き、何故か覚えのある笑顔に類似した、にっこりとした笑顔へと変化した。
覚えのある笑みと違うのは、笑顔の裏の感情が隠しきれていないところ。口の端がピクピクと痙攣している。
「ひ、久しぶりだね、フェンリル……殿下?」
「そうだな。つか、お前は殿下呼びなんてしなくていいんだぞ、リーシャ?」
「いや、けど私も一応部下? だし、他の騎士さんたちに気をつけるようにって言ってるなら、私も気をつけた方が良いのかなぁって」
「お前は別枠だろ? 俺の友人なんだからな」
「でも、平民だし?」
「お前はこの国の重要人物だ。ただの平民じゃねぇぞ?」
「あ、えっ、えと、えーっと……」
「……」
場を誤魔化そうとする言葉を易々と打ち返され、リーシャはついに言葉に詰まってしまった。これ以上フェンリルが抑えきれていない、怒りに近い感情から逃れようとしても軽くあしらわれそうだ。
どうしようと視線を彷徨わせていると、フェンリルがぷっと吹き出した。先ほどの追い詰めようとする雰囲気はどこかに消え去り、いつもの軽い雰囲気に戻っていた。
「まあいいさ。で? お前はいつ戻ってきたんだ?」
「えと、ついさっきだよ。帰る前に報告しないとって思って」
「そのままこっちに来たのか。すぐ報告に来るって約束は忘れてはなかったんだな。その点だけは誉めてやるか」
「褒めてやるって……何様よ」
「は? 第2王子様だが? なんか文句あるか?」
「……あっ。そうだった……」
「お前っ……! 今それ本気で言ったろ!」
「…………気のせいです」
「いや、ぜってぇ本気だった! ったく、俺の事をなんだと思ってんだか、お前は。これで約束まで忘れられてたら、マジで泣かせに行ってたからな」
フェンリルは本気半分、冗談半分で言っているようだった。
リーシャも軽口で言葉を返していたけれど、内心ホッとしていた。
(帰る前にこっち来てよかったぁ)
忘れて帰っていたら、泣かせにとまではいかなくとも、嫌がらせ程度の事を仕掛けに来ていたかもしれない。約束に気がついてくれたノア様様だ。
「で? ノアとエリアルはどうした? 先に帰したのか?」
「後から来るよ。わけあって私たちが先に着いちゃっただけだから」
「ふーん」
フェンリルがルシアに視線を向けた。すると蒸し返されたくない話だったためか、ルシアは俯き加減にふいっと顔を逸らした。
フェンリルは詳しく聞きだすつもりはないらしく、ルシアの反応をみると城門の方へと体を向けた。
「なら、先にお前らだけ案内する。付いて来い」
「うん」
フェンリルは門番の1人に、ノアたちが到着したら客間に案内するように言い伝えると、城の方へ歩き出した。リーシャとルシアは遅れないようにその後に続く。
しばらくそんな雰囲気で、もうそろそろ城を目指している2人が辿り着いてもいい頃合いになるまで話をして待ち続けた。けれど、未だに彼らの姿は見えてこない。
すると、思わぬ方から人が近づいて来た。
その人に向かって門番たちは素早く敬礼をした。
「お疲れ様です、フェンリル団長!」
「おう、ご苦労。けどな、残念ながら今はお前らの団長としてここに来たわけじゃないからな?」
フェンリルは自分が着ている白いジャケットの襟を見せつけるように引っ張った。そのジャケットは遠征時に着ている物ではなく、威厳のある華やかな装飾を施された、王族のみが着ることが許されたものだ。
「はっ! も、申し訳ございません! フェンリル殿下!」
「ん。ここでは気をつけろよ? じゃないと、いざという時に痛い目見るのはお前らだからな」
「はい! 以後気をつけます!」
どうやら第2王子として現れたらしいフェンリルと門番との会話を聞いていると、不意に横を向いたフェンリルとリーシャの視線が合った。直後、フェンリルは目を見開き、何故か覚えのある笑顔に類似した、にっこりとした笑顔へと変化した。
覚えのある笑みと違うのは、笑顔の裏の感情が隠しきれていないところ。口の端がピクピクと痙攣している。
「ひ、久しぶりだね、フェンリル……殿下?」
「そうだな。つか、お前は殿下呼びなんてしなくていいんだぞ、リーシャ?」
「いや、けど私も一応部下? だし、他の騎士さんたちに気をつけるようにって言ってるなら、私も気をつけた方が良いのかなぁって」
「お前は別枠だろ? 俺の友人なんだからな」
「でも、平民だし?」
「お前はこの国の重要人物だ。ただの平民じゃねぇぞ?」
「あ、えっ、えと、えーっと……」
「……」
場を誤魔化そうとする言葉を易々と打ち返され、リーシャはついに言葉に詰まってしまった。これ以上フェンリルが抑えきれていない、怒りに近い感情から逃れようとしても軽くあしらわれそうだ。
どうしようと視線を彷徨わせていると、フェンリルがぷっと吹き出した。先ほどの追い詰めようとする雰囲気はどこかに消え去り、いつもの軽い雰囲気に戻っていた。
「まあいいさ。で? お前はいつ戻ってきたんだ?」
「えと、ついさっきだよ。帰る前に報告しないとって思って」
「そのままこっちに来たのか。すぐ報告に来るって約束は忘れてはなかったんだな。その点だけは誉めてやるか」
「褒めてやるって……何様よ」
「は? 第2王子様だが? なんか文句あるか?」
「……あっ。そうだった……」
「お前っ……! 今それ本気で言ったろ!」
「…………気のせいです」
「いや、ぜってぇ本気だった! ったく、俺の事をなんだと思ってんだか、お前は。これで約束まで忘れられてたら、マジで泣かせに行ってたからな」
フェンリルは本気半分、冗談半分で言っているようだった。
リーシャも軽口で言葉を返していたけれど、内心ホッとしていた。
(帰る前にこっち来てよかったぁ)
忘れて帰っていたら、泣かせにとまではいかなくとも、嫌がらせ程度の事を仕掛けに来ていたかもしれない。約束に気がついてくれたノア様様だ。
「で? ノアとエリアルはどうした? 先に帰したのか?」
「後から来るよ。わけあって私たちが先に着いちゃっただけだから」
「ふーん」
フェンリルがルシアに視線を向けた。すると蒸し返されたくない話だったためか、ルシアは俯き加減にふいっと顔を逸らした。
フェンリルは詳しく聞きだすつもりはないらしく、ルシアの反応をみると城門の方へと体を向けた。
「なら、先にお前らだけ案内する。付いて来い」
「うん」
フェンリルは門番の1人に、ノアたちが到着したら客間に案内するように言い伝えると、城の方へ歩き出した。リーシャとルシアは遅れないようにその後に続く。
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