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竜の国
後日談(3)
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早々に城門へと辿り着いたリーシャは、ノアとエリアルを待つ間、門の近くでうずくまっていた。
すぐ近くには城の門番の1人がいるけれど、歓迎の雰囲気など全くと言っていいほどにかった。どうやらルシアが飛んだせいで、リーシャが城へ向かっているという伝達が門番2人に行き届く前に辿り着いてしまったらしく、うずくまるリーシャの事を、不審者を見るような目で、何度もチラ見していた。
さらにいえば、おそらくその門番の男性は魔法貴族出身。元々あまりいい印象を持たれていないのだろう。
それがまたリーシャの弱っている精神を、さらに削った。
「もういや。吐きそう」
過ぎた事を気にして呟くと、横にいたルシアが横で腰を屈めた。そして顔を覗き込むようにして問いかけてくる。
「どうしたんだよ、いきなり。さっきまでは元気だったじゃねぇか。いつもあれより速く飛んでも平気なのに……もしかして、俺の抱え方が良くなかったか? それともマジで気分悪くなったのか?」
心情にかすりもしない心配に、リーシャは少しの苛立ちを覚え、ルシアの事を恨めしそうな顔を向けた。
何故そんな表情を向けられたかわからないルシアは、びくつきながら再び問いかけてくる。
「な、なんだよ。俺、なんか変なこと言ったか?」
「私、ルシアが言ったような意味では言ってないから」
「んん? じゃあどういう意味だよ。気分悪いんじゃないなら、何で吐きそうなんだよ」
「ルシアが飛んでここまで来ようとした時、私、待ってって言ったよね? しかもあんな低いところを飛んで、余計に目立っちゃってたじゃない……私はそれが嫌だったの……」
「えっ……? けっ、けどさ、あのまま歩いてたらもっと長い時間見られることになってたんだぞ? それなら一瞬ですんだ方がマシだろ?」
「ルシアはそう思えるのかもしれないけど、私は……」
言い途中でふと思い至ってしまった。
ちらほらと向いていた嫌悪の視線が、一斉に向けられる恐怖。
経験を積んで人の視線自体には慣れてきた今でも、過去を思い出させるその視線にだけは耐えられない。実際に耐えられなかった。
この恐怖感を感じた事のない能天気なルシアにそれを訴えて、理解を得られるのだろうか。
今ルシアの顔は、リーシャの抱える苦しみがいまひとつ掴めず、ただひたすらに心配の色を浮かべている。
これ以上言葉では伝わらない感情を説明し続けたところで、ルシアを困らせるだけなので、リーシャはいったん口を閉じ、高ぶりかけていた感情を静め込んだ。
「……ごめん。やっぱり大丈夫。忘れて」
「は……?」
突然の突き放すような言葉に、ルシアはもの言いたげだった。
けれどその表情も、ぎこちなく笑うリーシャを見て、ただ嫌気がさして突き放したのではないとは伝わったらしく、きまり悪そうに首の後ろを抑えた。
「えっと……ほんとに気分悪くなったら言えよ?」
「うん」
リーシャに応えてルシアも口角を上げた。
いつもなら騒がしいルシアは、気まずかったのか、それとも吐きそうだと言ったリーシャを気遣ってなのか、笑い合うと静かにノアとエリアルの到着を待った。
すぐ近くには城の門番の1人がいるけれど、歓迎の雰囲気など全くと言っていいほどにかった。どうやらルシアが飛んだせいで、リーシャが城へ向かっているという伝達が門番2人に行き届く前に辿り着いてしまったらしく、うずくまるリーシャの事を、不審者を見るような目で、何度もチラ見していた。
さらにいえば、おそらくその門番の男性は魔法貴族出身。元々あまりいい印象を持たれていないのだろう。
それがまたリーシャの弱っている精神を、さらに削った。
「もういや。吐きそう」
過ぎた事を気にして呟くと、横にいたルシアが横で腰を屈めた。そして顔を覗き込むようにして問いかけてくる。
「どうしたんだよ、いきなり。さっきまでは元気だったじゃねぇか。いつもあれより速く飛んでも平気なのに……もしかして、俺の抱え方が良くなかったか? それともマジで気分悪くなったのか?」
心情にかすりもしない心配に、リーシャは少しの苛立ちを覚え、ルシアの事を恨めしそうな顔を向けた。
何故そんな表情を向けられたかわからないルシアは、びくつきながら再び問いかけてくる。
「な、なんだよ。俺、なんか変なこと言ったか?」
「私、ルシアが言ったような意味では言ってないから」
「んん? じゃあどういう意味だよ。気分悪いんじゃないなら、何で吐きそうなんだよ」
「ルシアが飛んでここまで来ようとした時、私、待ってって言ったよね? しかもあんな低いところを飛んで、余計に目立っちゃってたじゃない……私はそれが嫌だったの……」
「えっ……? けっ、けどさ、あのまま歩いてたらもっと長い時間見られることになってたんだぞ? それなら一瞬ですんだ方がマシだろ?」
「ルシアはそう思えるのかもしれないけど、私は……」
言い途中でふと思い至ってしまった。
ちらほらと向いていた嫌悪の視線が、一斉に向けられる恐怖。
経験を積んで人の視線自体には慣れてきた今でも、過去を思い出させるその視線にだけは耐えられない。実際に耐えられなかった。
この恐怖感を感じた事のない能天気なルシアにそれを訴えて、理解を得られるのだろうか。
今ルシアの顔は、リーシャの抱える苦しみがいまひとつ掴めず、ただひたすらに心配の色を浮かべている。
これ以上言葉では伝わらない感情を説明し続けたところで、ルシアを困らせるだけなので、リーシャはいったん口を閉じ、高ぶりかけていた感情を静め込んだ。
「……ごめん。やっぱり大丈夫。忘れて」
「は……?」
突然の突き放すような言葉に、ルシアはもの言いたげだった。
けれどその表情も、ぎこちなく笑うリーシャを見て、ただ嫌気がさして突き放したのではないとは伝わったらしく、きまり悪そうに首の後ろを抑えた。
「えっと……ほんとに気分悪くなったら言えよ?」
「うん」
リーシャに応えてルシアも口角を上げた。
いつもなら騒がしいルシアは、気まずかったのか、それとも吐きそうだと言ったリーシャを気遣ってなのか、笑い合うと静かにノアとエリアルの到着を待った。
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