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竜の国
後日談(2)
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リーシャたちは王都から離れた森の中に着陸した。ここから王都までは10分もかからないだろう。
「ルニル。あなたは王都に連れて行けないから、しばらくこの辺りで隠れて待っててくれる?」
「グルゥ……」
ルニルは寂し気に首を左右に揺らした。
リーシャもできれば連れて行きたかったけれど、竜の姿しかもっていないルニルを王都へ連れて行くわけにはいかない。
「あのね、今から行くところに住んでる人間は、最近竜のお兄さんたちに襲われたから、竜の事をよく思っていない人が多いの。ルニルがその姿でいくと、怖がらせてしまうかもしれないし、ルニルの事を敵だと勘違いして攻撃しちゃうかもしれないから、今は連れて行ってあげられないの」
「グルル……」
「ルニルが旅から帰って来た時、街が落ち着いてたら一緒に行こうね」
「グル……」
ルニルは俯いてはいたものの、小さく頷いた。
リーシャが両手を伸ばすと、ルニルがその腕の中へと顔を埋める。ノアとルシアは不満を言いたそうだけれど、何も言わずにいてくれた。
リーシャはルニルの固い頬をそっと撫でながら告げる。
「もし、私たちが戻ってくる前に人間に見つかりそうになったら、とにかく逃げてね。ちゃんと探しに行くから」
「グルル」
リーシャが手を放すと、ルニルはその場に蛇がぐろを巻くように体を丸くして伏せた。納得してくれたようだ。これで安心して王都へと出向ける。
「じゃあ行ってくるね」
「グル!」
ノアとルシアもルニルに声をかけると、3人は再び王都へ向けて出発した。
森の中を進んでいると、そうかからないうちに見覚えのある大きな門が見えてきた。
「ねーさーん!」
人が出入りしている門の横に立っていたエリアルが、リーシャに向かって大きく手を振りながら、嬉し気に駆け寄ってきた。
「あれ? ルニルは?」
「目立つから森の中で隠れてもらってるよ。で? エリアルの方は、どうだった?」
「門番のおじさんに、フェンリルのにぃさんに言わないといけない事があるって、ちゃんと言っといたよ! そしたらすぐに会えるように準備してくれるって。それとね、ねぇさんとにぃさんたちが来たら、そのままお城に向かっていいって言ってたよ」
「ほんと? よかった。ありがとね、エリアル」
「うん!」
リーシャが褒めると、エリアルはえへへと、はにかみながらの誇らしげな笑顔を見せてくれた。
「よし、それじゃあ、フェンリルに言う事言って、とっとと帰るよ!」
「おー!」
リーシャとエリアルのそんな掛け合いを、ノアは他人の振りで、ルシアは苦笑いを浮かべ、遠巻きに見ていたのだった。
門をくぐると、リーシャは目にした街並みに驚いた。
まだちらほらと建て直しの建物はあるものの、不在にしていたこの数か月の間に、もうほとんど竜襲撃以前の姿に戻っていた。
「すごいね。もうこんなに戻ってるなんて」
「まあ、かなりの期間、向こうにいたからな」
「そうだね。いろいろあったからかな。そんなに長い期間向こうにいた感じしなかったけど」
城に向けて主要な道を散策気分で歩いていると、すれ違う人々からチラチラとした視線を向けられているのには嫌でも気がついた。
元々それなりに顔を知られているリーシャが、黒竜に乗り、凍り付いた水竜を足にぶら下げた火竜について飛び立って行くという、変に目立つ旅立ちをしたのだ。気になって仕方ないのだろう。
視線の中には良く思っていないような視線も混じっている。竜からの回し者とでも思われているのかもしれない。
注目されるのが苦手なリーシャの体は、次第に強張っていった。
リーシャが歩きにくそうにしていると、ノアが周りの視線から少しでもリーシャを隠そうとするように、開いていた距離をスッと詰めてきた。
「気になるか?」
「あー……うん。ちょっとね」
「急ぐか?」
「できれば」
「わかった。ルシア、リーシャ連れて先に行け」
「は?」
意味がわからず呆けた顔をしていると、ルシアの脇に抱えられてしまった。ノアとルシアがお互いに頷き合っていたあたり、考えている事は一致しているようだ。
リーシャも抱えられて、ノアが出した指示の意味がわかった。
「りょーかい! 行くぞ、リーシャ」
「ちょちょちょ! 待って!」
「大丈夫だって。歩いて行くより、見られるのは一瞬なんだからさ」
「それはそうなんだけど、そうじゃなくて!」
「んじゃ、あとでなー」
「ちょっとぉぉぉぉ‼」
リーシャの制止もむなしく、ルシアは飛び立った。
たしかに注目を集めるのは一瞬だろう。けれど、より多くの人に印象付ける事になってしまうのは間違いない。
リーシャは真っ赤にした顔を抑えながら、城へと運ばれるのだった。
「ルニル。あなたは王都に連れて行けないから、しばらくこの辺りで隠れて待っててくれる?」
「グルゥ……」
ルニルは寂し気に首を左右に揺らした。
リーシャもできれば連れて行きたかったけれど、竜の姿しかもっていないルニルを王都へ連れて行くわけにはいかない。
「あのね、今から行くところに住んでる人間は、最近竜のお兄さんたちに襲われたから、竜の事をよく思っていない人が多いの。ルニルがその姿でいくと、怖がらせてしまうかもしれないし、ルニルの事を敵だと勘違いして攻撃しちゃうかもしれないから、今は連れて行ってあげられないの」
「グルル……」
「ルニルが旅から帰って来た時、街が落ち着いてたら一緒に行こうね」
「グル……」
ルニルは俯いてはいたものの、小さく頷いた。
リーシャが両手を伸ばすと、ルニルがその腕の中へと顔を埋める。ノアとルシアは不満を言いたそうだけれど、何も言わずにいてくれた。
リーシャはルニルの固い頬をそっと撫でながら告げる。
「もし、私たちが戻ってくる前に人間に見つかりそうになったら、とにかく逃げてね。ちゃんと探しに行くから」
「グルル」
リーシャが手を放すと、ルニルはその場に蛇がぐろを巻くように体を丸くして伏せた。納得してくれたようだ。これで安心して王都へと出向ける。
「じゃあ行ってくるね」
「グル!」
ノアとルシアもルニルに声をかけると、3人は再び王都へ向けて出発した。
森の中を進んでいると、そうかからないうちに見覚えのある大きな門が見えてきた。
「ねーさーん!」
人が出入りしている門の横に立っていたエリアルが、リーシャに向かって大きく手を振りながら、嬉し気に駆け寄ってきた。
「あれ? ルニルは?」
「目立つから森の中で隠れてもらってるよ。で? エリアルの方は、どうだった?」
「門番のおじさんに、フェンリルのにぃさんに言わないといけない事があるって、ちゃんと言っといたよ! そしたらすぐに会えるように準備してくれるって。それとね、ねぇさんとにぃさんたちが来たら、そのままお城に向かっていいって言ってたよ」
「ほんと? よかった。ありがとね、エリアル」
「うん!」
リーシャが褒めると、エリアルはえへへと、はにかみながらの誇らしげな笑顔を見せてくれた。
「よし、それじゃあ、フェンリルに言う事言って、とっとと帰るよ!」
「おー!」
リーシャとエリアルのそんな掛け合いを、ノアは他人の振りで、ルシアは苦笑いを浮かべ、遠巻きに見ていたのだった。
門をくぐると、リーシャは目にした街並みに驚いた。
まだちらほらと建て直しの建物はあるものの、不在にしていたこの数か月の間に、もうほとんど竜襲撃以前の姿に戻っていた。
「すごいね。もうこんなに戻ってるなんて」
「まあ、かなりの期間、向こうにいたからな」
「そうだね。いろいろあったからかな。そんなに長い期間向こうにいた感じしなかったけど」
城に向けて主要な道を散策気分で歩いていると、すれ違う人々からチラチラとした視線を向けられているのには嫌でも気がついた。
元々それなりに顔を知られているリーシャが、黒竜に乗り、凍り付いた水竜を足にぶら下げた火竜について飛び立って行くという、変に目立つ旅立ちをしたのだ。気になって仕方ないのだろう。
視線の中には良く思っていないような視線も混じっている。竜からの回し者とでも思われているのかもしれない。
注目されるのが苦手なリーシャの体は、次第に強張っていった。
リーシャが歩きにくそうにしていると、ノアが周りの視線から少しでもリーシャを隠そうとするように、開いていた距離をスッと詰めてきた。
「気になるか?」
「あー……うん。ちょっとね」
「急ぐか?」
「できれば」
「わかった。ルシア、リーシャ連れて先に行け」
「は?」
意味がわからず呆けた顔をしていると、ルシアの脇に抱えられてしまった。ノアとルシアがお互いに頷き合っていたあたり、考えている事は一致しているようだ。
リーシャも抱えられて、ノアが出した指示の意味がわかった。
「りょーかい! 行くぞ、リーシャ」
「ちょちょちょ! 待って!」
「大丈夫だって。歩いて行くより、見られるのは一瞬なんだからさ」
「それはそうなんだけど、そうじゃなくて!」
「んじゃ、あとでなー」
「ちょっとぉぉぉぉ‼」
リーシャの制止もむなしく、ルシアは飛び立った。
たしかに注目を集めるのは一瞬だろう。けれど、より多くの人に印象付ける事になってしまうのは間違いない。
リーシャは真っ赤にした顔を抑えながら、城へと運ばれるのだった。
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