魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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竜の国

後日談(1)

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 竜の国を発ってから4日目。
 先を急ぐ理由のないリーシャたちはルシアの背の上で、ゆったりと過ぎ去る緑の景色を楽しみながら、王都までの空の旅を続けていた。
 旅路2日目の夜、ルシアが疲れを訴えた後、丸1日起こしても起きないという珍事件を起こしはしたものの、その他にはたいしたトラブルもなしにここまで帰って来ることができた。これからもトラブルなく、家まで帰り着ければいい、そう思っていた。

「あっ!」

 ようやく見えてきた、待ちに待った光景にリーシャが声を上げた。
 最後尾のエリアルが、落ちるのではないかと思えるほどの角度をつけ、ノアの背後から行く先を覗き見た。

「ねぇさん? どうしたの?」
「見て、あれ! 王都が見えてきたよ」
「ほんとに? あっ、ほんとだ!」

 地平の遠く先、ここからでも威厳を示し続けているのを認識できる大きな城と、その周囲を囲む人工的に作られた壁が存在を主張していた。

「にぃさん、もっと早く飛んでよ!」
「お前なぁ、他人事だと思って……俺、3日飛びっぱなしなんだぞ。勘弁してくれ」
「えーー、でもおとといはずっと寝てたじゃん。任せろって言ってよー」

 ルシアのげんなりした言い分に、エリアルはいじけるように返していたけれど、それでもお互いどこか嬉しそうだった。
 リーシャも数か月ぶりに目にした見慣れた光景で、今まで自身では気がついていなかった緊張が解けたかのように、体が楽になったように感じた。
 ほっとして身体を後ろに少しだけ倒すと、背中に人の温もりを感じた。
 その人の顔を見上げると、他の人にはわからないくらいわずかに口角を上げ、柔らかな顔をするノアがリーシャの事を見ていた。こんなにもわずかな違いさえも気がついてしまえるほど、彼との関係を築いてきたのかと不意に感じてしまう。

「ようやくだな。先にアイツの所へ向かうか?」
「? アイツって……スコッチさんの所にってこと?」

 スコッチはリーシャが竜の国へ行くことをかなり心配していた。無事帰りついたと顔を見せた方が良いのはわかるけれど、家に帰り着けばおのずと会える。
 ノアがわざわざ口に出したという事は、彼ではないだろうと察しはしていたリーシャは、見上げたまま首を傾げた。

「いや、スコッチにはわざわざ言いに行く必要はないだろう。近づいたら勝手に気がつく」
「だよね。じゃあ、他に急ぎで合わないといけない人っていたっけ?」
「ファンリルのところだ。王族に竜の襲撃は回避されたはずだと伝えないとならないだろう。それに王都を発つ時、お前がアイツに戻ったら報告に行くと言ったんだ。気にしてるんじゃないのか?」
「あっ……忘れてた。もう全部解決したって安心してたから……そうだよね。フェンリルってあれでも王子様で、騎士団をまとめる立場でもあるんだもんね」

 国の中でも、竜の襲撃で1番気を揉んでいたのは、国を守る立場で、直接対峙する機会の多かったフェンリルのはずだ。襲撃の止んだ今でも、次の襲撃に備え気を張っている事だろう。
 それに旅立つ時、リーシャの事をずいぶんと心配してくれていた。何の音沙汰もないリーシャの帰りを、今か今かと待ちわびてくれているかもしれない。
 ノアは目を細めて何か言いたげだった。忘れる事ではないだろと思っているのだろうけれど、リーシャは気がつかない事にした。
 するとルシアが、王都までの距離を縮めながら問いかけてきた。

「って事は、俺は帰らずに、このまま城に向けて飛べばいいわけ?」

 長旅で疲れはしているものの、後に回さない方がいいだろう。フェンリルの事だ。帰って来たことに気がつかれた場合の、鬼のような形相で家へ乗り込んでくる姿が脳裏に浮かぶ。

「うん、そうしてほしいな。それとエリアル。先に王都に向かって、フェンリルに今から行くって事が伝わるようにしてくれる?」
「いいよ。前ルシアにぃさんが降りたとこに行ったらいい?」
「それって、お城の庭だったよね。それはまずいかなぁ。とりあえず、いつも王都に入るときにくぐってる門のところにいる門番さんに、フェリルに伝えてくださいって言ってくれたらいいかな。エリアルが私の名前出せば、たぶん拒まれないとは思うから」
「わかった! 門番さんだね」
「そう。お願いね」
「うん! じゃあ、行ってくる!」

 エリアルはまるで落ちたかのかと思えるように、するりと横向きにルシアの背から滑り降りた。木々の先端すれすれのところで羽を広げると、王都に向かって高速で飛んで行った。

「俺らも壁の外に降りるのか?」
「うん。できれば王都から少し離れたところの方がいいかも。みんな竜の姿には敏感になってるかもしれないから」
「りょーかい。んじゃあ、そろそろ降りるか」
「おねがい」

 もう王都は目と鼻の先。
 ルシアは木々にまぎれるように飛行を続け、緑のまばらな地面に足をつけた
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