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竜の国

駆け引きの行方(2)

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「……シャ、リーシャ!」

 自分を呼びかける声に、リーシャの意識は次第にはっきりとし始めた。
 大きく影を落としているのは、心配そうにリーシャの顔を覗き込んでいるルシア。その背後にノアとエリアルの姿もある。
 リーシャは仮の住処の洞窟の中、フカフカになるまで積み上げられた草のベッドの上に寝かされていた。

「えーっと……」
「ねぇさん!」

 リーシャが体を起こすと、エリアルはルシアを押しのけて1番に抱き付き、その体に顔を埋めた。
 状況が呑み込めないリーシャはされるがまま、ただエリアルからの抱擁を受け入れていた。

「おは、よう?」
「バカッ! おはようじゃねぇよ! あれから丸々1日寝てたんだぞ! おっさんの頭の上から落ちた時、こっちの心臓が止まるかと思ったんだからなっ‼」
「1日?」

 ルシアはきりっとした眉をさらに吊り上げながら、目の端にはうっすらと涙を浮かばせていた。かなり心配させてしまった事はすぐにわかったけれど、意識戻りたてのぼんやりと靄がかかったような状態の頭では、意識が飛ぶ前の事をはっきりと思い出せず、状況は理解できないままだ。

「えっと……私、寝る前に何してたんだっけ?」
「リーシャ。お前は意識を失う前、火竜と決闘をしていた。リーシャが勝てば今後竜たちは人間を無暗に襲わず、火竜が勝てばリーシャが竜たちの活動に手出しをしないという約束で。その最中、お前はシャノウの上から振り落とされ、その後火竜に一撃を入れて魔力が尽き、意識を失った」
「あっ、そっか……」

 ノアの説明であらかたの記憶が戻ってきた。戻ったら戻ったで、中途半端な記憶の結末が気になり始める。
 リーシャは座ったまま前のめりになり、ノアに詰め寄った。

「勝敗は? どうなったの?」
「リーシャの勝ちだ。火竜は落下地点近くの邪魔にならない場所に、氷漬けのまま放置されている」
「よっ、よかったぁぁぁぁぁ。当たってなかったらどうしようかと思ったよ」
「運よくシャノウに気を取られていたらしい。リーシャが落とされた後も、火竜はずっとシャノウに向けて攻撃を続けていた」

 ノアの解説を聞いて、リーシャははたと気がついた。
 リーシャが宙へ体を投げ出した事で、おそらくノアたちにシャノウに対する誤解を与えてしまっている。自分の提案した作戦のせいで、シャノウの事を悪く思わせ続けるのは申し訳ない。

「あのね、訂正させてほしいんだけど、シャノウさんの上から落ちたのは火竜の意識を私から逸らすための作戦だったの。シャノウさんのせいではないから、そこだけは誤解しないでね」
「わざと落ちたのか? 事故ではなく?」
「あれ? シャノウさんがわざと落としたって思ってたんじゃないの?」

 ピリッとした空気が走った。
 ノアの顔がみるみるうちに笑顔の面へと変わっていく。それを見ていたリーシャは、余計な事を言ってしまったのだと後悔した。できる事なら失言を取り消してしまいたかったけれど、後の祭りだ。
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