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竜の国
1度だけ(2)
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「さて、どうしよう……水の魔法はあの火竜相手じゃ効果は無いし……」
目の前の宙に浮く火竜の鱗は高熱を放っていて、ただの水魔法では届く前に蒸発してしまう。
短時間で決着がつけられる方法を、リーシャは必死に模索した。
「そういえば、闇の氷って、ただの炎じゃ溶けないんだよね。それなら……」
「グルル……」
聞こえたのはシャノウの低い鳴き声だった。
「ダメだって言ってるんですか……? わからないよ……」
シャノウの頭蓋骨の一部が隆起した。
その突起は土魔法で作られた傀儡のようにモソモソと動くと、シャノウの頭から切り離された。そして翼を生やして竜のような形になると、リーシャめがけて飛びかかった。
「なっ、なに⁉」
顔をめがけて飛びかかってきた傀儡に驚いたリーシャは、咄嗟に腕で顔を覆い隠した。
けれど傀儡はリーシャにぶつかることなく、寸前のところで消えてしまった。何が起こったのかわからず周囲を見渡していると、声が響いてきた。
『ふん。どうやら成功したようだな』
「シャノウさん⁉ えっ、なんで? だって今シャノウさん指輪の外に……」
『俺の一部を使って分身を作り、その中に戻した。こうして意思疎通ができるかは賭けだったが、存外うまくいくものだな。だが、こんな煩わしい方法をとるのは最初で最後だ。二度とせんからな!』
不愉快極まりない声の響きだった。そうまでしてこの方法を試したのは、あの火竜に間接的にでも負けたくないと思っているからだろう。
「ありがとうございます、シャノウさん。それで、さっきは何が言いたかったんですか?」
『闇の氷はたしかにあのガキにも有効だろう。だが、それはあの竜に当たれば、の話だ。当てる事さえできれば解けぬ氷になるが、アイツの炎は群を抜いている。直撃する以前にアイツの攻撃にかすりでもすれば、瞬く間に消え去るぞ。今回は目くらましになるやつもいない。貴様は闇の魔力をコントロールする術も持っていない事を忘れるな』
「そんなこと、わかってます。わかってますけど……」
闇の魔法を使うのなら、チャンスは1度きり。確実に当てるためにはどうにか火竜の動きを止めなければならない。止められずとも、少なくとも意識をリーシャから逸らさなければならない。
形勢不利な状況で時間もない事に焦るリーシャは、それしか勝機を見いだせずにいた。そして方法を懸命に考えた。
(どうにか避けられないようにする方法は。不意を突く方法。目くらまし……そうだ!)
リーシャは頭の中で火竜がとるだろう動き、必要な魔法、自身の魔力残量から作戦を立て、実行可能かどうか、高速でシミュレーションを繰り返した。
リーシャは戦闘に関してはどちらかというと直感で動くタイプだ。作戦を立てて行動に移す事はあっても、その内容は大雑把で、相手の動きや戦いの流れまで精密に計算して動く事はない。今思いついた作戦が思い通りに運ぶ可能性はかなり低いだろう。
けれどこのまま何もしなければ時間だけが過ぎ、負けるのは確実だ。何もしないよりは行動に移すべきだとリーシャは覚悟を決めた。
目の前の宙に浮く火竜の鱗は高熱を放っていて、ただの水魔法では届く前に蒸発してしまう。
短時間で決着がつけられる方法を、リーシャは必死に模索した。
「そういえば、闇の氷って、ただの炎じゃ溶けないんだよね。それなら……」
「グルル……」
聞こえたのはシャノウの低い鳴き声だった。
「ダメだって言ってるんですか……? わからないよ……」
シャノウの頭蓋骨の一部が隆起した。
その突起は土魔法で作られた傀儡のようにモソモソと動くと、シャノウの頭から切り離された。そして翼を生やして竜のような形になると、リーシャめがけて飛びかかった。
「なっ、なに⁉」
顔をめがけて飛びかかってきた傀儡に驚いたリーシャは、咄嗟に腕で顔を覆い隠した。
けれど傀儡はリーシャにぶつかることなく、寸前のところで消えてしまった。何が起こったのかわからず周囲を見渡していると、声が響いてきた。
『ふん。どうやら成功したようだな』
「シャノウさん⁉ えっ、なんで? だって今シャノウさん指輪の外に……」
『俺の一部を使って分身を作り、その中に戻した。こうして意思疎通ができるかは賭けだったが、存外うまくいくものだな。だが、こんな煩わしい方法をとるのは最初で最後だ。二度とせんからな!』
不愉快極まりない声の響きだった。そうまでしてこの方法を試したのは、あの火竜に間接的にでも負けたくないと思っているからだろう。
「ありがとうございます、シャノウさん。それで、さっきは何が言いたかったんですか?」
『闇の氷はたしかにあのガキにも有効だろう。だが、それはあの竜に当たれば、の話だ。当てる事さえできれば解けぬ氷になるが、アイツの炎は群を抜いている。直撃する以前にアイツの攻撃にかすりでもすれば、瞬く間に消え去るぞ。今回は目くらましになるやつもいない。貴様は闇の魔力をコントロールする術も持っていない事を忘れるな』
「そんなこと、わかってます。わかってますけど……」
闇の魔法を使うのなら、チャンスは1度きり。確実に当てるためにはどうにか火竜の動きを止めなければならない。止められずとも、少なくとも意識をリーシャから逸らさなければならない。
形勢不利な状況で時間もない事に焦るリーシャは、それしか勝機を見いだせずにいた。そして方法を懸命に考えた。
(どうにか避けられないようにする方法は。不意を突く方法。目くらまし……そうだ!)
リーシャは頭の中で火竜がとるだろう動き、必要な魔法、自身の魔力残量から作戦を立て、実行可能かどうか、高速でシミュレーションを繰り返した。
リーシャは戦闘に関してはどちらかというと直感で動くタイプだ。作戦を立てて行動に移す事はあっても、その内容は大雑把で、相手の動きや戦いの流れまで精密に計算して動く事はない。今思いついた作戦が思い通りに運ぶ可能性はかなり低いだろう。
けれどこのまま何もしなければ時間だけが過ぎ、負けるのは確実だ。何もしないよりは行動に移すべきだとリーシャは覚悟を決めた。
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