上 下
370 / 419
竜の国

対立(4)

しおりを挟む
「まあ、そういう事だから。シャノウの参戦はあの火竜にも認めさせているから問題ないよ」
「認め……て?」

 リーシャの目に映る火竜は、竜王が呼び寄せた竜が予想外の圧を放つ竜だったことに驚き、気後れしているようだった。
 どう考えても、こんな態度をとる相手がシャノウの参戦を認めているとは思えない。おそらく竜王は、魔道具でリーシャの使役下にある竜が翼代わりとしてこの決闘に参戦する事は火竜に了承させたものの、その竜がどんな竜なのかまでは話さなかったのだろう。
 竜王の行動は中立を保っているようで、実はリーシャの肩を持っているようだ。火竜からは恨みの視線が飛んできている。
 リーシャがどんな感情を持てばいいかわからずにいると、竜王が言葉を掲げた。

「さて、それでは始めようか」

 その声に、周りにいた竜たちが開戦の場を作るためにノソノソと下がりはじめた。その中心で、シャノウと火竜は向き合っている。
 本来戦う必要のないシャノウを、人間側の戦力として巻き込む事になってしまったのは申し訳ないとは思った。けれど、人間のため、争いを望まない竜たちのため、早々に現状に終止符を打ちたかったリーシャは、シャノウの力を借りる覚悟を決めた。

「あの、シャノウさん。私はどこに乗ればいいですか? ルシアの時はいつも背中に乗っているんですけど」

 シャノウの背中は背骨しかない。さすがにこれでは、安定した乗り心地にするのは無理だろう。
 するとシャノウは頭を伏せ、再び「グルル」と鳴いた。まだ近くに残っていたルシアがシャノウの言葉をリーシャに伝える。

「おっさん、頭に乗れって言ってる。けど、視界の邪魔になるから鼻の辺りには乗るなだって」
「わかった。ルシア、ありがと」
「おう。気をつけてな」

 ルシアはリーシャに向かって手を振ると、そのまま他の竜がいる場所まで下がっていった。
 リーシャは風魔法でふわりと浮き上がり、シャノウの脳天へと足を下ろした。いつでも出られるよう、足を魔法でしっかりと固定して足場も確保した。
 直後、竜王が口を開いた。

「リーシャ。きっと彼は君を殺す気で来るだろうから、君も遠慮なく魔法を使っていいよ。危ないと思ったら私が止めに入るから」
「わかりました」

 言われずとも、火竜が殺気立っているのは見ているだけで分かるし、若い竜の中で群を抜いているというあの竜の能力の高さは過去に痛感している。はじめから全力でぶつかるつもりだった。

「次に私が竜の言葉を叫ぶ時が開始の合図だ。準備はいいかい?」
「はい」
「よし、じゃあ……」

 竜王の体がのそりと動き、空を仰いだ。そして、宣言通り、大きな声が響き渡った。

「グオォォォォォォン‼」

 同時にシャノウと火竜が空へ舞い上がる。人類の命運がかかった決戦が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...