魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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竜の国

対立(2)

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「つーか、今までなんともなかったのに、なんで今さらこんな事なってんだよ」
「お前な……さっき言っただろ。帰って来たのは人間を襲いに行っていたやつらだ。おそらく自分たちの縄張りに人間がいるのが気にくわないというところだろう」

 納得のいかないルシアは顔をしかめた。

「けどさぁ。だとしても、俺らは竜王に許可貰ってここにいるんだぞ? いきなりっておかしいだろ」
「お前、人の話を聞いてるのか? やつらはずっと国を空けていたんだ。その辺りがうまく伝わっていなかったんだろう。まあ……もしくは、知っていたうえで、竜王に気付かれる前に始末してしまおうと考えたか、だな。知らなかったで通すつもりだったのかもしれない」
「うわぁ。なんだよそれ。クズじゃねーか」
「だとしたら、だがな」
「てかさ、あの襲って来たっていう赤いヤツ、あん時のヤツじゃね? シャノウのおっさんが手を貸してくれた時の」
「ああ。間違いない」

 ノアとルシアは火竜を見上げ、ギロリと睨みつけた。竜王から何かを告げられている火竜の視線が2人を捉える事はなかった。
 2人の話を聞いていたリーシャは、そこで初めてあの火竜が、自身がシリウスに攫われる直前に対峙していた竜だという事に気がついた。高温の鱗を纏い、シャノウが守ってくれなければ多くの人間と共にリーシャも焼け死んでいたであろう攻撃を仕掛けてきた、あの火竜だという事に。
 リーシャが固唾を呑んで竜王とその火竜の様子を窺っていると、先に竜王の視線が地面へと向いた。

「リーシャ。君にお願いがあるんだ」
「お願いですか? 内容にもよりますけど、なんですか?」
「彼、この火竜と1対1で戦ってほしい。俗にいう決闘っていうやつだね」
「その火竜とですか? なんでまた……」
「今起きている問題を手っ取り早く解決するためだよ。君が勝てば彼らは人間への襲撃を止める」
「ほんとですか⁉」

 瞬間的に喜びはしたものの、そんな人間側のメリットが大きいだけの条件を上げられて、あの火竜が納得するわけがない。リーシャが負けた場合、デメリットも大きいはずだとハタと気がついた。
 リーシャが神妙な面持ちになると、竜王が再び口を開いた。

「ただし、もし君が負ければ、一時的に君の身柄は預からせてもらう。命の保証はするよ」
「それだけ? それだけの事が火竜にとって、何か大きなメリットになるんですか」
「なるよ。君が人間側で戦いに出るかどうかで、人間殲滅の計画の難易度が大幅に変わる。君が人間に就くというだけで少なくともノアたち兄弟に、森の池の主も必然的に人間側になる。場合によってはファイや、この国に残るいくらかの竜たちも、人間のためではなく、君のために手を貸すだろう。そうなれば彼らの計画の完遂までの道のりは長引くし、人間を葬りたい者たちと穏やかに暮らしたい物たちの軋轢が深くなって、この国がバラバラになってしまう。それに戦いが長引けば、君が知っている人間たちが私たちを殺すつもりはなくても、それ以外の何者かが手出ししてこないとも限らない。そんな状況は私としても本意ではないんだ。早々に落ち着くところに落ち着いてくれた方が私の心も休まるしね」

 リーシャは竜王の提案に頭を悩ませた。
 勝てれば好都合の条件だ。ただ、その勝てるかどうかのところに問題がある。

「それで解決できるなら、と言いたいところなんですけど、1対1でってことは、ルシアの背中も借りちゃダメってことですか?」
「ダメだよ。彼と君はただの身内であって、彼の飛ぶという能力は君の力が一切作用していないから」
「それなら空を飛ぶ相手に地上で戦うというのは圧倒的に不利です。それに、その火竜はこの国の中でもかなり上位の力を持ってるんじゃないですか?」
「うん。彼の実力は若い世代では群を抜いている」
「ですよね。勝てる可能性が限りなくゼロに近い竜を相手に、そんな条件の戦いを簡単に承諾はできません!」

 リーシャがきっぱりと断ると、竜王の目が優し気に細められた。

「たしかに、飛ぶだけとはいえ、そこの3兄弟の参戦を認めるわけにはいかない。けど、君が力を乞う事を認められる存在が1匹だけいるよ」
「え……? それって?」

 竜王は表情を変えずリーシャの答えを待った。
 けれどやはりリーシャには答えが浮かばない。ノアたち以外に手助けをしてくれそうな竜を必死に考えた。

「クリスティナ……ではないですよね」
「うん、違うよ。妹は一切関係ない」
「じゃあいったい……」

 竜王はリーシャが考える時間をしばらくとった後、口を開いた。

「とりあえず、彼はここにいないから、まずは呼ぼうか」
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