魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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竜の国

亀裂(3)

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「ねぇさん、なんかあの竜のおじさんたち、なんか怒ってるような気がするんだけど。それにこっちに向かって来てない?」
「……」

 ルニルを背中にくっつけたエリアルがリーシャへ問いかけてきた。
 リーシャは気のせいだと言いたかった。けれど否定などできず、リーシャの額からは嫌な汗が、心臓は警報を鳴らすように早鐘を打ち始めている。

「嫌なタイミングで戻ってきましたわね。もっとゆっくり暴れまわってくればよろしいのに」

 クリスティナが憎々し気に呟いた。
 まさか同族の帰還にそんな声音が出てくるとは思っていなかった。
 けれどリーシャはそれ以上に、その呟きの中の不穏な言葉の方に関心が向いていた。というより、向かざるをえなかった。

「もしかしてあの竜たちって、今までどこかの街を?」
「ええ。お姉様がいらっしゃる少し前に、西方の遠方の人間の街に向かわれた方々ですわ。もう少し出払っていると思っていたのですけど。過激な方々ですから、私たちも敬遠しがちなのですわ」
「そうなんだ」
「ですわよ。変に人間に手を出したせいで追跡されて、この場所を知られるような事になったらどうするんですのって感じですわ。そう思っているのは私だけじゃございませんし、雌……女性の方々はあの方々には近づかないようにしてますの。ちょっとした意思表示ですわ」

 クリスティナは呆れるように言い放った。
 竜の人間襲撃事件は竜全体の意志ではなく、一部の雄の勝手な行動という認識で間違いなさそうだ。どちらかというと人間と関わりたくないから止めてくれと思っている竜の方が多いのかもしれない。
 クリスティナとそんな話をしているうちに、戻ってきた集団はリーシャたちの所へとかなり近づいてきている。

「というかまずいですわ。あれ、絶対お姉様の事を狙ってますわ。誰かあの方々にお姉様の事を伝えに行きましたわね」

 先頭の火竜の口が大きく開いた。息吹を放ってくるつもりだ。

「お姉様、私の後へ」
「でも」
「いいですから」
「う、うん」

 炎の息吹が放たれた。
 クリスティナは結界のような、白い光を帯びた盾を、自分と息吹の間に作り上げた。
 けれどリーシャの目には、輝く盾が息吹の威力に耐えられるような強度には見えなかった。火竜は国ごとリーシャを焼き尽くすつもりなのかというほどの魔力量を息吹に込めている。

「それだけじゃ防ぎ切れない! 水よ!」

 リーシャは咄嗟にクリスティナの影から飛び出し、思いっきりの魔力で水球を放った。
 慌てて出した魔法だ。5秒抑え込めれば上々という威力分の魔力しか込められていない。

(まずい! 押し負ける‼)

 そう思った時の事だった。

「グルゥアアアアアウ‼」

 掛け声のような声が上がった直後、四方八方から勢い強い水の柱が炎の息吹に向かって伸びていった。
 周りを見渡すと、何匹もの水竜たちが息吹を火竜の息吹に向かって放っている。そのおかげで、炎の威力は大幅に削られ、かろうじでクリスティナの盾に届いた息吹の末尾も、ろうそくの灯が吹き消されるように消えていった。
 今の息吹の威力と戻ってくる竜たちの隊列からして、あの火竜が集団のリーダーだと捉えていいだろう。
 リーシャが成そうとしている目的、シャノウを召喚の指輪から解放するとは別のもう1つの目的を果たすためには、あの火竜をどうにかしなければならないという事だ。
 突然攻撃を仕掛けてくるあたり、話し合いで解決できるような相手ではない。そう悟ったリーシャは、警戒してその場で身構えた。
 ついに集団が竜の国へと辿り着いてしまった。そしてリーシャたちの前に降り立つ。
 元からこの場にいた他の竜たちが、彼らと対立するようにリーシャたちの前で立ちはだかった。
 リーシャという来訪者の存在で、元々亀裂が入っていた竜の国は、完全に2つに割れてしまったようだ。

「どうしよ……」

 想定外の展開にリーシャは困惑し、呟きを零した。
 直後、再び近づいて来る風を切る音が聞こえてきた。それは竜王が翼を羽ばたかせる音だった。

「予想してなかったわけじゃないけど、面倒なことになったね」

 非常事態に駆けつけた竜王は2つの集団の間に降り立った。
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