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竜の国

亀裂(2)

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 竜たちのリーシャへの対応に変化が起き始めたのは、クリスティナがリーシャの事を熱弁した日辺りからだ。あの後もクリスティナは他の竜に向けてリーシャの魅力を熱心に語っているようで、その成果かリーシャに対する竜たちの風当たりは、確実に緩くなっていったのだ。
 以前はリーシャが現れると避けるようにどこかへ行くか、遠くから様子を窺うだけだった竜たちだけれど、今では気にせず近くで昼寝をしたり、飛び回ったりするくらいには受け入れている。
 さらに雌の竜は、竜の子供とその子供を育てる人間という組み合わせが物珍しくて気になるようで、時折今のようにおすそ分けと称した食料を持って来る。リーシャとしてはこれが非常に助かっているのだった。

「こうして食べ物を持って来てくれるのって、ルニルを危ない場所に連れて行かなくていいからありがたいよね」
「……過保護」
「いやいや、過保護って。子供が危険な目にあわないようにするのは親として当然の事じゃない?」
「竜の親はそこまで考えないだろう。危険なところでも平気で連れて行っているはずだ。そもそもお前はあいつの親ではない」
「育ての親だもん。親には変わりないでしょ。あー、それを言うとノアたちの育ての親でもあるのか」

 何気なくリーシャがつぶやいた言葉に、ノアの眉間に皺が寄った。

「おい。何度も言うが、育てられはしたが俺たちはリーシャの事を親だとは思っていない。いい加減に自覚してくれ。お前は俺たちの……」
「あーもうはいはい。わかったから、もうこの話はここまで!」

 リーシャは話を遮り、プイッとそっぽを向いた。今は顔を見られたくないし、この話題も続けたくはない。その態度にノアはさらにムッとしたようだ。

「おい、ちゃんと話を……」

 そこまで言ったところでノアの声が消えた。きっとリーシャの気持ちなど見透かされているのだろう。
 リーシャは顔を背けたまま、口を尖らせて尋ねた。

「何よ」
「いや? 自覚はあったみたいだな。それなら問題ない」
「……あっそ」

 やはりノアには敵わない。
 リーシャが面倒くさくて話を逸らそうとしたのではなく、ただ自分たちの番だと主張されるのがむず痒かっただけという事はバレバレのようだ。顔を見なくても満足げにしているとわかるのが、なんとなく悔しかった。


「グオォォォォン‼」

 突然どこからか、けたたましい竜の声が轟いた。
 どうやら国の中からではなく、外から聞こえてきているようだ。その声は怒気を孕んでいるようで、聞いた瞬間にリーシャの背筋に悪寒が走った。
 とても嫌な予感がした。
 遠い空を見渡していると、近くの宙に停滞する竜たちが、チラチラとある方角の空を気にしているのが視界に入ってきた。
 竜たちと同じ方向を向くと、遠くから十数匹の竜がこの国に向かって飛んできているのが見えた。
 先頭を飛ぶ赤い竜が目指しているのは自分ではないか。リーシャにはそんな気がしていた。
 そしてそれは、次第に気がするだけではないとわかり始めた。
 どう見ても竜の集団は降下している。角度からして高確率でリーシャの近くに着地しそうだ。しかも皆、物々しい気配を纏っているようだ。
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