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竜の国
亀裂(1)
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ルシアが竜王のところへと飛び出していった日から数週間経ったある日。
リーシャが言った光の魔力刻印の模様の推測は合っていた事も証明され、ルシアの作業は順調を極めていた。
ルシアは飛び出した後、数日のうちに光属性の魔力刻印と思われる図案を完成させた。そして試しに、その図案を利用した解放の魔力刻印とクリスティナが鉱山で採掘してきた鉱石を使い、人間の頭くらいの大きさがある、透明な水晶玉型の解放の魔道具を作り上げたのだった。
これで当初からの目的達成。
と言いたいところだけれど、やはりその程度の大きさの刻印では効力が小さすぎるせいなのか、それとも必要なのは光の魔力ではなかったのか。竜王が光の魔力を注ぐと反応はするものの、シャノウを解放する事はできなかった。
今ルシアは魔法陣を描くのに適した広い場所で、作り上げた魔力刻印を魔法陣として描き出している最中だ。きっと難しいだのなんだの1人ブツブツ呟きながら、まじめに作業を続けている事だろう。
ルシアが1人作業を続けているのと同時刻、リーシャとノア、エリアル、クリスティナ、そしてルニルは、日課になっている“竜の国内の旅“と称した外出の真っ最中だった。草原の中をルニルがエリアルを追いかけて走り回っている姿を、他の2人と1匹は風になびく草の中で座って眺めていた。
「2人とも元気だねぇ。やっぱり若いからかな」
「なに年をくった人間のような事を言っているんだ。お前もまだまだ若い分類の年齢だろ」
「まあ、そうなんだけど。でも、少なくともノアたちよりは年上だもん。ノアよりは年をくってるから」
「まったく。何を言っているんだか」
ノアはニッといたずらに笑うリーシャへそれ以上の言葉を返す事はせず、口元にわずかな弧を描き、静かに笑っていた。
「グルルル?」
「んー?」
笑いあっていると、背後から何かを尋ねるような竜の声が聞こえてきた。
クリスティナは真横にいる。それにリーシャたちと一緒にいる時は人間の言葉を使うため、確実に彼女ではない。
誰だかわからない声の主の方へ、リーシャは顔を向けた。そこに立っていたのは穏やかな様子の水竜だった。
「何か用ですか?」
「グルル。グルルルル」
水竜はリーシャに何か告げると、手に抱えていた物を地面の上にパラパラと落とした。それは竜の国周囲の森で取れる木の実やキノコ等々。たくさんのそれらは、リーシャの前で平たい山を作った。
「これって」
「おすそわけだそうだ。ルニルに食わせてやってくれと言っている」
「ほんとに? ありがとうございます!」
リーシャがにっこりと笑いながら礼を述べると、水竜は静かに見つめ、何も言うことなく飛び去って行った。
この数週間で竜たちのリーシャへの態度が大きく変わった。リーシャが客人としてこの国に留まる事を受け入れるようになったのだ。
リーシャが言った光の魔力刻印の模様の推測は合っていた事も証明され、ルシアの作業は順調を極めていた。
ルシアは飛び出した後、数日のうちに光属性の魔力刻印と思われる図案を完成させた。そして試しに、その図案を利用した解放の魔力刻印とクリスティナが鉱山で採掘してきた鉱石を使い、人間の頭くらいの大きさがある、透明な水晶玉型の解放の魔道具を作り上げたのだった。
これで当初からの目的達成。
と言いたいところだけれど、やはりその程度の大きさの刻印では効力が小さすぎるせいなのか、それとも必要なのは光の魔力ではなかったのか。竜王が光の魔力を注ぐと反応はするものの、シャノウを解放する事はできなかった。
今ルシアは魔法陣を描くのに適した広い場所で、作り上げた魔力刻印を魔法陣として描き出している最中だ。きっと難しいだのなんだの1人ブツブツ呟きながら、まじめに作業を続けている事だろう。
ルシアが1人作業を続けているのと同時刻、リーシャとノア、エリアル、クリスティナ、そしてルニルは、日課になっている“竜の国内の旅“と称した外出の真っ最中だった。草原の中をルニルがエリアルを追いかけて走り回っている姿を、他の2人と1匹は風になびく草の中で座って眺めていた。
「2人とも元気だねぇ。やっぱり若いからかな」
「なに年をくった人間のような事を言っているんだ。お前もまだまだ若い分類の年齢だろ」
「まあ、そうなんだけど。でも、少なくともノアたちよりは年上だもん。ノアよりは年をくってるから」
「まったく。何を言っているんだか」
ノアはニッといたずらに笑うリーシャへそれ以上の言葉を返す事はせず、口元にわずかな弧を描き、静かに笑っていた。
「グルルル?」
「んー?」
笑いあっていると、背後から何かを尋ねるような竜の声が聞こえてきた。
クリスティナは真横にいる。それにリーシャたちと一緒にいる時は人間の言葉を使うため、確実に彼女ではない。
誰だかわからない声の主の方へ、リーシャは顔を向けた。そこに立っていたのは穏やかな様子の水竜だった。
「何か用ですか?」
「グルル。グルルルル」
水竜はリーシャに何か告げると、手に抱えていた物を地面の上にパラパラと落とした。それは竜の国周囲の森で取れる木の実やキノコ等々。たくさんのそれらは、リーシャの前で平たい山を作った。
「これって」
「おすそわけだそうだ。ルニルに食わせてやってくれと言っている」
「ほんとに? ありがとうございます!」
リーシャがにっこりと笑いながら礼を述べると、水竜は静かに見つめ、何も言うことなく飛び去って行った。
この数週間で竜たちのリーシャへの態度が大きく変わった。リーシャが客人としてこの国に留まる事を受け入れるようになったのだ。
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