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竜の国

例え話(1)

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 ルニルが果実を満足するまで食べた後、リーシャたちはクリスティナの背に乗せてもらい、竜の国のいろんな場所へと翔け巡り始めた。
 1度行ったことのある湖から、まだ足をつけた事のない砂漠のような地形の場所。ルニルのためではあったけれど、リーシャ自身も興味の引かれる地形に、観光気分でずいぶんと楽しんでいた。
 この国には、高山でも年中咲き乱れている、珍しい真っ白な花畑があるという事だった。子供を連れた母親竜はよくその地を訪れるという情報を得たリーシャたちは、そこを次の行き先として移動しているところだった。

「ふきゅぁぁぁ……」

 花畑向かって飛んでいると、ルニルから大きなあくびが漏れ出した。いろんな場所を巡り、初めてのたくさんの体験にずいぶんと長い時間はしゃいでいたため、疲れてしまったのだろう。ルニルはウトウトしながらリーシャの体にもたれかかった。
 リーシャ自身もルニルのためというだけでなく、これから向かうその白い花畑という場所を見てみたいと思っていた。けれど、眠そうにしているルニルを連れて行ってまで、というほどではない。

「うーん……クリスティナ」
「なんですの?」

 リーシャの呼びかけに、クリスティナは翼を動かしながら答えた。
 その声は楽しそうで、これからお願いしようとしている事が、申し訳なく思えてくる。

「あのね、ルニルが寝ちゃいそうなの。悪いんだけど、お花畑に行くのは中止にして、私たちが借りてる洞窟に戻ってくれないかな」
「あら、そうなんですの? わかりましたわ。それなら仕方ありませんわね」

 残念そうな声が返ってくるのではと思っていただけに、あっさりとした返事が返ってきたのが拍子抜けだった。

「えっ、いいの?」
「いいもなにも、このお出かけはルニルさんのためなんですし、本竜ほんにんが寝てしまいそうなら仕方ないですわ。お姉様が気にする必要ございませんわ」
「けど、クリスティナも楽しみなんじゃないの? ずっと嬉しそうにしてるし」
「それはお花畑へ行くのが楽しみなんじゃなくて、お姉様と一緒にいられるのが嬉しいからですわ。お姉様はいろんなことを知っていますし、自分がされたいろんな体験をお話してくれるでしょ? 私、それを自分の体験のように想像するのがとても好きなんですの。お姉様のことも大好きですし、そんな方と一緒にたくさんお出かけできて、楽しくないわけございませんわ」
「クリスティナ……」

 好かれているのは嬉しいと思うけれど、それ以上にクリスティナのこれまでの事を思うとリーシャの胸はキュッと締め付けられた。
 最近のクリスティナは毎日のようにはしゃぎまわっている。けれど元々は体が弱いため、これまで自分のねぐらに引きこもっている時間の方が長かったらしく、遠くに出かけた事はないようなのだ。それ故にリーシャの話は新鮮なようで、目をキラキラと輝かせながら聞いている姿は、いつも本当に楽しそうだった。
 そう思うとやはりこちらの勝手な都合で振り回してしまうのは申し訳ないと思ってしまう。
 そんな気持ちを察したのか、クリスティナは付け加えて言った。

「それに、お姉様もまだしばらくこちらに滞在されるでしょうから、無理に今日出かける必要はございませんもの。またお出かけしてくだされば、私はそれでいいですわ。むしろ楽しみは明日にとっておきたい。今はそんな気分ですの」
「そっか。そうだね。ありがと」
「どういたしましてですわ。では、お姉様たちの住処に戻りましてよ」
「うん、お願い」

 リーシャの腕の中のルニルは気がつくとスヤスヤと眠ってしまっていた。
 クリスティナは大きく旋回するとリーシャたちの仮の住処へと翼を進めた。
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