魔法使いと彼女を慕う3匹の黒竜~魔法は最強だけど溺愛してくる竜には勝てる気がしません~

村雨 妖

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竜の国

飛行練習(4)

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「お姉様、ルニルさんの飛ぶ練習は中止ですわ」
「えっ。どうしたの、いきなり」
「こちらの方に少しご助言をいただいて、私、考え直したんですの。本来子供は親の背中に乗せていろんな場所に連れて行くうちに、いつの間にか飛べるようになっているもの。きっとルニルさんの成長が遅いのは、洞窟の中で過ごしてばかりだったから。だから私もなかなか飛ぶ事ができなかったんですわ。機会がなかったから。それなら、いろんなところに連れ出してあげて、自然に飛ぶ楽しさを覚えさせた方が良いとは思いません?」
「たしかに。クリスティナが体調くずしてから、連れ出す方法がなかったから」

 ねぐらにしている洞窟は、高い位置にある。リーシャとエリアルだけならば、それぞれが風の魔法と自分の翼を使ってどこへでも行けるけれど、ノアとルニルを連れてとなるとルシアやクリスティナのように背に乗せて飛んでくれる存在がいなければ、出るに出られない。試す価値はあるだろう。

「わかった。しばらくその方法を試してみよう。クリスティナが良ければ協力してくれる? ムリはさせないから」
「任せてください、お姉様! 最近は調子が良すぎるくらいで、毎日でもお出かけにお付き合いいたしますわ!」
「ありがとう」

 クリスティナは頼られたことと、お礼を言われたことがかなり嬉しかったらしく、そわそわしていた。
 クリスティナがいなければ、こうして楽しく竜の国で過ごすことはできなかっただろう。感謝してもしきれないくらいだ。

「ふふっ。じゃあルニル、今日はここでおやつ食べようか」
「キュウ!」

 ようやくルニルの手がリーシャの足から離れた。
 リーシャが袋の中で保管していた赤い実を取り出そうと、手を入れた時だった。

「あ、待ってねぇさん。僕良いこと思いついた!」
「どうしたの?」
「まあ見ててよ」

 エリアルはルニルを抱えると飛び上がった。

「ちょっと、エリアル! 危ないから」
「少しならへーきだよ。ルニル、どれがいい? 僕が飛んで連れて行ってあげるから好きなの選んで」
「キュー……キュッ!」
「あの大きいのだね」

 人間の筋肉ではルニルはかなり重いだろうに、エリアルはルニルの希望にそって飛び回っている。
 最後は木の上に座り、2人で木の実を食べ始めた。
 落ちないかという心配はあったけれど、上機嫌の2人に水を差すのも気が引けたため、リーシャはリーシャでやれることをやろうと思い、辺りを見渡した。

「あれ。さっきの竜、もうどこか行っちゃった?」
「ええ。今度は湖の近くへお昼寝に行くって言ってましたわ」
「そっか……」

 せっかく話し掛ける機会ができたというのに有効活用できなかった事に、リーシャは肩を落とした。

「大丈夫ですわ! 私が、お姉様の良さをしっかりアピールしておきましたから!」
「へ?」
「お姉様は、竜と人間が衝突するのを避けたいと思っているのでしょ? お兄様から聞きました。そして自分で説得するようにと言われている事も。ですから、お姉様は私たちと仲良くなって、今の風潮を変えていきたいとお思いなのでしょう?」
「そうだけど、クリスティナはそれでいいの?」

 竜王曰く、クリスティナも人間の事を良く思っていないはずだ。リーシャと過ごしてくれるようになったのも、ある意味奇跡に近い事だ。
 故に、リーシャがやろうとしている事に手を貸してくれるとは思っていなかった。

「お姉様以外の人間と仲良くしようとは思いませんけど、戦争を起こしてほしいとも思っておりませんわ。むしろ戦いの最中であっても、人間なんかと遭遇したくないですし。ですから、お姉様がやりたい事に協力するだけですわ」
「クリスティナ……」
「だから安心してください。先ほどの方にもちゃんとお伝えしてますから!」

 リーシャの思考が停止した。
 クリスティナが自信満々という事は、リーシャの事を青い竜に伝えたのはあの時だろう。

「まさか、さっき熱心に語りかけてたのって……」
「もちろん、お姉様がいかに優しくて強くて美しくて偉大な方だという事をしっかりとお伝えしておきましたわ!」

 クリスティナが人間の姿をしていたら間違いなくドヤ顔になっているはずだ。
 目の前で自身の事を熱く語られたと知った途端、顔から吹き出そうなほどの恥ずかしさが込み上げてきた。

「あ、ああああ……」

 あの青い竜にはリーシャがどんな人間として伝わったのか。クリスティナの様子からして、神や英雄を称えるように語られたのは間違いないだろう。

(いったいクリスティナは何を言ったの? あることない事行ってないよね⁉)

 リーシャはその場でうずくまって顔を押さえた。恥ずかしさに燃える顔の熱はなかなか引いてはくれない。
 そんな事だと知らないエリアルとルニルは地面へと慌てて降りてきて、心配そうに声をかけ続けたのだった。
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