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竜の国
飛行練習(3)
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「もうこの際、ルニルさんの性格については置いておきましょ。直そうと思ってすぐ直るものじゃないでしょうし、個性という事でいいと思いますわ。幸いにもお姉様の事は親としてしか認識していないようですし。ノアさんも問題ないんじゃありません?」
「ああ。今のところその心配はしていない」
「ですわよね。なので、今はルニルさんに飛び方をどう教えるかを優先しましょう」
そうは言われたものの、3兄弟が小さい頃、リーシャもノアたち自身も飛ぶ必要性を意識して生活していなかったため、竜の親が子供にどう教えているのか全く想像がつかなかった。むしろそこまで放任している親が、子供に飛び方を教えるものなのかという疑問が上がってくるくらいだ。
「クリスティナが小さいときはどんな感じだったの? どういう風に飛ぶ練習したの?」
「私の体験は参考にならないと思いますわよ。私、体調を崩しやすくてあまり外に出てませんでしたから、必然的に飛べるようになったのもかなり遅かったみたいですし」
「それでも教えてほしいかな。何かヒントになる事があるかもしれないし」
「そういう事でしたら……えーとですわね、体の調子が良かった日に、外を眺めようとねぐらの出入り口に近づいて、足を滑らせて崖から落ちた時、ですわ」
クリスティナの練習もなにもない体験談に、シンとした空気が漂った。
その状況が普通から大きくかけ離れていたという事は明らかだ。干渉しないとはいえ、さすがに幼い自分の子供を危険にさらすような事はしないだろう。
そう思わなかった者もこの場にいたようだ。
「じゃあ、ルニルを木の上から落とすとか?」
「エリアル、それはちょっと……」
「クリスティナのねぇさんがそれで飛べたなら、ルニルも飛べるんじゃないの?」
エリアルがキョトンとしていると、クリスティナが困ったように言った。
「私も、それはあまりお勧めしませんわ。私は飛べたからよかったものの、飛べなかった場合が問題ですわ」
「うん。怪我するだけじゃなくて、飛ぶのが怖くて飛べなくなっちゃうかもしれないからね」
竜は大空を大きな翼で翔け回る生き物。翼を失ったノアの空を翔ける弟たちを見上げる瞳が、どこか寂しそうなのをリーシャは知っている。
万が一にもトラウマを抱えさせて、ルニルにまで飛ぶ喜びを失わせるわけにはいかない。
「そっかぁ。それじゃあダメだね」
そう納得して答えてはいたけれど、エリアルはとても残念そうにしていた。
「キューン……」
ルニルはいまだにリーシャにしがみついたまま、訴えるように鳴き続けていた。
すると1匹の青い竜が近づいて来た。青い竜はクリスティナに何かを語りかける。クリスティナもその鳴き声に何か返し始めた。
「ねえ、ノア。あの竜なんて言ってるの? 何かあった感じ?」
「いや。ただ、ルニルが俺たちと一緒にいるのを気にして声をかけてきたようだ」
「ふーん。気にするくらいなら、自分たちが手を貸してあげればいいのに」
「ルニルの事をというより、俺たちがここで何をしようとしているのかを気にしているんだろ」
「自分に害が及ばないかどうか、って感じか……」
クリスティナと青い竜の会話はしばらく続いた。
途中、一方的にクリスティナが熱心に鳴き声を発していた。リーシャたちの事を話しているだけなのに、いったいどこにそんなに気持ちを昂らせる要素があるのか。わからないリーシャは気になった。
どことなく、青の竜が圧倒されているように見える。
(喧嘩じゃないといいけど……)
しばらくすると、クリスティナが何か解決したような雰囲気になり、人間の言葉を発した。
「ああ。今のところその心配はしていない」
「ですわよね。なので、今はルニルさんに飛び方をどう教えるかを優先しましょう」
そうは言われたものの、3兄弟が小さい頃、リーシャもノアたち自身も飛ぶ必要性を意識して生活していなかったため、竜の親が子供にどう教えているのか全く想像がつかなかった。むしろそこまで放任している親が、子供に飛び方を教えるものなのかという疑問が上がってくるくらいだ。
「クリスティナが小さいときはどんな感じだったの? どういう風に飛ぶ練習したの?」
「私の体験は参考にならないと思いますわよ。私、体調を崩しやすくてあまり外に出てませんでしたから、必然的に飛べるようになったのもかなり遅かったみたいですし」
「それでも教えてほしいかな。何かヒントになる事があるかもしれないし」
「そういう事でしたら……えーとですわね、体の調子が良かった日に、外を眺めようとねぐらの出入り口に近づいて、足を滑らせて崖から落ちた時、ですわ」
クリスティナの練習もなにもない体験談に、シンとした空気が漂った。
その状況が普通から大きくかけ離れていたという事は明らかだ。干渉しないとはいえ、さすがに幼い自分の子供を危険にさらすような事はしないだろう。
そう思わなかった者もこの場にいたようだ。
「じゃあ、ルニルを木の上から落とすとか?」
「エリアル、それはちょっと……」
「クリスティナのねぇさんがそれで飛べたなら、ルニルも飛べるんじゃないの?」
エリアルがキョトンとしていると、クリスティナが困ったように言った。
「私も、それはあまりお勧めしませんわ。私は飛べたからよかったものの、飛べなかった場合が問題ですわ」
「うん。怪我するだけじゃなくて、飛ぶのが怖くて飛べなくなっちゃうかもしれないからね」
竜は大空を大きな翼で翔け回る生き物。翼を失ったノアの空を翔ける弟たちを見上げる瞳が、どこか寂しそうなのをリーシャは知っている。
万が一にもトラウマを抱えさせて、ルニルにまで飛ぶ喜びを失わせるわけにはいかない。
「そっかぁ。それじゃあダメだね」
そう納得して答えてはいたけれど、エリアルはとても残念そうにしていた。
「キューン……」
ルニルはいまだにリーシャにしがみついたまま、訴えるように鳴き続けていた。
すると1匹の青い竜が近づいて来た。青い竜はクリスティナに何かを語りかける。クリスティナもその鳴き声に何か返し始めた。
「ねえ、ノア。あの竜なんて言ってるの? 何かあった感じ?」
「いや。ただ、ルニルが俺たちと一緒にいるのを気にして声をかけてきたようだ」
「ふーん。気にするくらいなら、自分たちが手を貸してあげればいいのに」
「ルニルの事をというより、俺たちがここで何をしようとしているのかを気にしているんだろ」
「自分に害が及ばないかどうか、って感じか……」
クリスティナと青い竜の会話はしばらく続いた。
途中、一方的にクリスティナが熱心に鳴き声を発していた。リーシャたちの事を話しているだけなのに、いったいどこにそんなに気持ちを昂らせる要素があるのか。わからないリーシャは気になった。
どことなく、青の竜が圧倒されているように見える。
(喧嘩じゃないといいけど……)
しばらくすると、クリスティナが何か解決したような雰囲気になり、人間の言葉を発した。
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