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竜の国
竜王の提案(3)
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「ほんとにそんなことできんのか……⁉ それなら頼……あっ、いや……なあ、アンタはそれを許せるわけ? 仲間の体に人間入れるなんてこと」
反射的に欲望に忠実な答えが返ってくるのではと思っていたため、思いもよらぬ問いが返ってきた事に竜王は少し驚いた。しかもその問いは過去の竜王が味わった葛藤だ。
「出来るのかっていう問いに対しては、できる可能性があると言っておくよ。魔力の性質上、別の肉体に移し替える事は可能だけれど、無理やり押し込んだ魂は新しい体との間に強い拒絶反応を起こす。これまで何度か同胞とその番の人間に持ち掛け、卵の中の子供へと移そうとした事はあるけど、どれも拒絶反応を起こしてしまって、上手くいかなかったんだ。人間としての魂の性質を完全に保ったまま、別の種の体に適応させるのはなかなかに難しいみたいだ」
「よくわかんねーけど、今まで失敗してばっかなら、できねぇって事なんだろ、それ」
「そうかもしれないね。もしかしたら別の人間の子供へと移し替える方が可能性はかなり高いかもしれない。けれどそれだと100年も経たないうちにまた肉体の方が限界を迎える。必ず成功するわけではない以上、何度も魂を移し替えるのは危険だ。魂が壊れてしまうかもしれない。その点、竜に移し替える事ができれば、何度も肉体を変える必要はない。それにリーシャは体の1部に竜の機能を持っている。魔力も私たち竜に匹敵するほどに大きい。これまで上手くいかなかった人間とは明らかに条件が違う。成功する可能性はかなり高いんじゃないかって思ってるんだ」
「つまり、100%無理な事ってわけじゃないんだな。じゃあ……あんたがそれを許せるかどうかは? リーシャの魂入れるって言うなら、もともとの魂っていうのを追い出さねぇとならねぇんじゃないのか?」
ルシアは切なげな表情をしながら言った。
ルシアは頭の悪そうな事をよく言ったりやったりしているけれど、気づくべきところは気づける頭は持っている。だからこその葛藤が今起きているのだ。
「そうだね、君の言う通りだ。正直に言うとね、私も本当は使いたくはない手ではあるんだ。魂を好き勝手に動かすのには抵抗がある。けど、救えるかもしれない同胞の死を黙って見過ごすわけにもいかないから、こうして提案したんだ。私たちは寿命が長い分、新たな命も生まれにくい。とはいえ、何が起きても不死身というわけではないから。竜と呼ばれる種を絶やさないために、救える命は救わなければならない。君たち兄弟の事も、リーシャの後を追って死なせたくはないんだ」
「けど、魂を移すっていうのに成功しても、結局は追い出されたやつが死んじまうじゃねえか」
「そこは孵らない卵を使う。おおよそ、どの卵か孵るかというのはわかるから。孵らない卵って中で体は形成されたものの、魂が定着せずにどこかへ行ってしまったものが多いんだ。それに彼女の魂を埋め込んで、強制的に定着させる」
「……」
ルシアは難しい顔をして黙り込んだ。リーシャのために別の命が失われるわけではないとわかっても、これは1人で決断を出すには責任が重すぎる内容だ。
けれど、そもそも竜王はルシアにこの提案を持ち帰ってもらうために言っただけで、今ここで決めさせる気はなかった。
「すぐに答えを出す必要はないよ。これは君だけの問題じゃないから、4人でしっかり話し合ってほしい。この道を選ぶというのなら私はできる限り手を貸そう。ただ、成功したからと言って、1度肉体を離れた魂が記憶を持ったままという保証はない。もしかすると別人のような性格や姿になってしまうかもしれない」
「わかった。リーシャや兄貴たちに話してみる。ありがとな、竜王サマ」
「うん。悔いのない選択をしてほしい」
「ん。さーてと、そんじゃ作業続けっか!」
ルシアはペンを手にとった。やる気に満ちた顔をしている。100年も経たず消えるはずだったリーシャと歩む道の先が見え、気分が高揚しているのだろう。
竜王は安心して地に伏せた。
「またしばらくかかりそうだし、私はしばらく眠らせてもらうよ。必要があったら起こしてね」
「わかった」
竜王が瞼を閉じると、ルシアは再び紙にペンを滑らせ始めた。
反射的に欲望に忠実な答えが返ってくるのではと思っていたため、思いもよらぬ問いが返ってきた事に竜王は少し驚いた。しかもその問いは過去の竜王が味わった葛藤だ。
「出来るのかっていう問いに対しては、できる可能性があると言っておくよ。魔力の性質上、別の肉体に移し替える事は可能だけれど、無理やり押し込んだ魂は新しい体との間に強い拒絶反応を起こす。これまで何度か同胞とその番の人間に持ち掛け、卵の中の子供へと移そうとした事はあるけど、どれも拒絶反応を起こしてしまって、上手くいかなかったんだ。人間としての魂の性質を完全に保ったまま、別の種の体に適応させるのはなかなかに難しいみたいだ」
「よくわかんねーけど、今まで失敗してばっかなら、できねぇって事なんだろ、それ」
「そうかもしれないね。もしかしたら別の人間の子供へと移し替える方が可能性はかなり高いかもしれない。けれどそれだと100年も経たないうちにまた肉体の方が限界を迎える。必ず成功するわけではない以上、何度も魂を移し替えるのは危険だ。魂が壊れてしまうかもしれない。その点、竜に移し替える事ができれば、何度も肉体を変える必要はない。それにリーシャは体の1部に竜の機能を持っている。魔力も私たち竜に匹敵するほどに大きい。これまで上手くいかなかった人間とは明らかに条件が違う。成功する可能性はかなり高いんじゃないかって思ってるんだ」
「つまり、100%無理な事ってわけじゃないんだな。じゃあ……あんたがそれを許せるかどうかは? リーシャの魂入れるって言うなら、もともとの魂っていうのを追い出さねぇとならねぇんじゃないのか?」
ルシアは切なげな表情をしながら言った。
ルシアは頭の悪そうな事をよく言ったりやったりしているけれど、気づくべきところは気づける頭は持っている。だからこその葛藤が今起きているのだ。
「そうだね、君の言う通りだ。正直に言うとね、私も本当は使いたくはない手ではあるんだ。魂を好き勝手に動かすのには抵抗がある。けど、救えるかもしれない同胞の死を黙って見過ごすわけにもいかないから、こうして提案したんだ。私たちは寿命が長い分、新たな命も生まれにくい。とはいえ、何が起きても不死身というわけではないから。竜と呼ばれる種を絶やさないために、救える命は救わなければならない。君たち兄弟の事も、リーシャの後を追って死なせたくはないんだ」
「けど、魂を移すっていうのに成功しても、結局は追い出されたやつが死んじまうじゃねえか」
「そこは孵らない卵を使う。おおよそ、どの卵か孵るかというのはわかるから。孵らない卵って中で体は形成されたものの、魂が定着せずにどこかへ行ってしまったものが多いんだ。それに彼女の魂を埋め込んで、強制的に定着させる」
「……」
ルシアは難しい顔をして黙り込んだ。リーシャのために別の命が失われるわけではないとわかっても、これは1人で決断を出すには責任が重すぎる内容だ。
けれど、そもそも竜王はルシアにこの提案を持ち帰ってもらうために言っただけで、今ここで決めさせる気はなかった。
「すぐに答えを出す必要はないよ。これは君だけの問題じゃないから、4人でしっかり話し合ってほしい。この道を選ぶというのなら私はできる限り手を貸そう。ただ、成功したからと言って、1度肉体を離れた魂が記憶を持ったままという保証はない。もしかすると別人のような性格や姿になってしまうかもしれない」
「わかった。リーシャや兄貴たちに話してみる。ありがとな、竜王サマ」
「うん。悔いのない選択をしてほしい」
「ん。さーてと、そんじゃ作業続けっか!」
ルシアはペンを手にとった。やる気に満ちた顔をしている。100年も経たず消えるはずだったリーシャと歩む道の先が見え、気分が高揚しているのだろう。
竜王は安心して地に伏せた。
「またしばらくかかりそうだし、私はしばらく眠らせてもらうよ。必要があったら起こしてね」
「わかった」
竜王が瞼を閉じると、ルシアは再び紙にペンを滑らせ始めた。
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