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竜の国
竜王の提案(1)
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クリスティナがリーシャたちの前に人間の姿をして現れたのと同刻。
ルシアは竜王のねぐらで、光属性の解放の魔力刻印を試行錯誤しながら紙に描いていた。表情は真剣そのものだ。
ペンを止めると、ルシアは紙を持ち上げ、食い入るように見つめた。
「うーん。なぁんか違う気がするんだよなぁ。けど、何が違うかぜんっぜんわかんね」
「とりあえず、試してみるかい?」
「んー……まあ、そうだなぁ。じゃあ竜王サマ、これ頼んだ」
「わかった」
竜王は紙を受け取ると、魔力を流し込んだ。
ルシアもリーシャたちと同じように、使用された魔力の流れを感じ取る事ができるようだ。ただ、リーシャやエリアルほどはっきりとわかるわけではなく、ぼんやりと感じる事ができる程度。それでも魔力刻印を作るには十分役に立つとの事。刻印のどの辺りに不具合が生じているかが見えるからだ。
ルシアはそれを見極めようと、じっと竜王の手元を見つめていた。
竜王が受け取った刻印の描かれた紙は、すぐに破れる事はなかった。魔力がじわじわと刻印に浸透するように広がっていく。けれど、全体になじむ前、突然ビリビリと破れてしまった。
「失敗みたいだね。けど、前に比べたら魔力の広がりが良くなってるんじゃないかい?」
「良くなってたって、この先をどうすればいいかがわかんねぇから困ってるんだよ! だぁぁぁぁぁぁ‼ もうやってらんねぇ‼」
ルシアはペンを投げ出し、地面に手足を思い切り広げて寝そべった。
1時間近く試行錯誤したものが失敗に終わったのだ。そんな事が何度も起こっていれば、嫌気がさすのも当然だ。
「それじゃあ、休憩がてら少し話でもしようか」
「話ぃ? 別に俺はアンタと話したい事なんてねぇんだけど」
ルシアはそっぽを向いてしまった。
普段はそれなりに愛想よく見せている彼のこの態度。やる気に成果が伴わず、ついに拗ねてしまったらしい。
ルシアがこうしてリーシャから離れ、竜王の住処で魔力刻印を作ろうとしているのは、リーシャがシャノウを解放する事を望んでいるから。番の雌の望みを叶えたいと強く思う、雄の性からだ。
それにルシア自身も、魔道具作りを始める動機は不純なものではあったけれど、今では楽しんで作っている。この作業を始めた頃に口にしていた。
とはいえ、やる気があってもこんな暗くじめじめした環境の中、カメの歩みのような進歩しか得られないのならば、嫌気が差すのも無理はない。
竜は自由奔放な生き物。早くリーシャと兄弟たちと暮らすあの家に帰り、自由気ままな生活に戻りたいのだろう。
そんな気持ちの溢れ出た態度に竜王も少し困っていた。
「まあ、そう言わずに。私の方には話したいことがあるんだよ」
「なんだよ」
「リーシャの事だよ」
リーシャの名前を聞いた途端、ルシアは勢いよく起き上がった。
「竜王サマがリーシャに何の用があるんだよ」
「あーもう。名前を出しただけでそんなに不機嫌にならないで。君たちの関係を脅かそうとか考えていないから」
「……じゃあなんだよ」
どうやらノアとルシアは、竜王がリーシャを気に掛けているのは、女性として気に入っているからと思い込んでいる節がある。竜王としては一個人として気に入ってはいるものの、そんな気などさらさらないため、度々見せてくる嫉妬心に竜王は呆れるしかなかった。
ただ、同じ竜なので気持ちはわからなくもないため、実害がない以上厳しく言う気にもならない。
「まったくもう。私が話したいというのはリーシャの事ではあるんだけど、君たち兄弟も無関係な話ではない事だよ」
「? 要は俺ら4人に関係ある話ってことか?」
ルシアの不機嫌は収まり、竜王の話に興味を持ったようだ。
竜王はいつも通り関心が離れないよう、質問を織り交ぜながら話を続けた。
ルシアは竜王のねぐらで、光属性の解放の魔力刻印を試行錯誤しながら紙に描いていた。表情は真剣そのものだ。
ペンを止めると、ルシアは紙を持ち上げ、食い入るように見つめた。
「うーん。なぁんか違う気がするんだよなぁ。けど、何が違うかぜんっぜんわかんね」
「とりあえず、試してみるかい?」
「んー……まあ、そうだなぁ。じゃあ竜王サマ、これ頼んだ」
「わかった」
竜王は紙を受け取ると、魔力を流し込んだ。
ルシアもリーシャたちと同じように、使用された魔力の流れを感じ取る事ができるようだ。ただ、リーシャやエリアルほどはっきりとわかるわけではなく、ぼんやりと感じる事ができる程度。それでも魔力刻印を作るには十分役に立つとの事。刻印のどの辺りに不具合が生じているかが見えるからだ。
ルシアはそれを見極めようと、じっと竜王の手元を見つめていた。
竜王が受け取った刻印の描かれた紙は、すぐに破れる事はなかった。魔力がじわじわと刻印に浸透するように広がっていく。けれど、全体になじむ前、突然ビリビリと破れてしまった。
「失敗みたいだね。けど、前に比べたら魔力の広がりが良くなってるんじゃないかい?」
「良くなってたって、この先をどうすればいいかがわかんねぇから困ってるんだよ! だぁぁぁぁぁぁ‼ もうやってらんねぇ‼」
ルシアはペンを投げ出し、地面に手足を思い切り広げて寝そべった。
1時間近く試行錯誤したものが失敗に終わったのだ。そんな事が何度も起こっていれば、嫌気がさすのも当然だ。
「それじゃあ、休憩がてら少し話でもしようか」
「話ぃ? 別に俺はアンタと話したい事なんてねぇんだけど」
ルシアはそっぽを向いてしまった。
普段はそれなりに愛想よく見せている彼のこの態度。やる気に成果が伴わず、ついに拗ねてしまったらしい。
ルシアがこうしてリーシャから離れ、竜王の住処で魔力刻印を作ろうとしているのは、リーシャがシャノウを解放する事を望んでいるから。番の雌の望みを叶えたいと強く思う、雄の性からだ。
それにルシア自身も、魔道具作りを始める動機は不純なものではあったけれど、今では楽しんで作っている。この作業を始めた頃に口にしていた。
とはいえ、やる気があってもこんな暗くじめじめした環境の中、カメの歩みのような進歩しか得られないのならば、嫌気が差すのも無理はない。
竜は自由奔放な生き物。早くリーシャと兄弟たちと暮らすあの家に帰り、自由気ままな生活に戻りたいのだろう。
そんな気持ちの溢れ出た態度に竜王も少し困っていた。
「まあ、そう言わずに。私の方には話したいことがあるんだよ」
「なんだよ」
「リーシャの事だよ」
リーシャの名前を聞いた途端、ルシアは勢いよく起き上がった。
「竜王サマがリーシャに何の用があるんだよ」
「あーもう。名前を出しただけでそんなに不機嫌にならないで。君たちの関係を脅かそうとか考えていないから」
「……じゃあなんだよ」
どうやらノアとルシアは、竜王がリーシャを気に掛けているのは、女性として気に入っているからと思い込んでいる節がある。竜王としては一個人として気に入ってはいるものの、そんな気などさらさらないため、度々見せてくる嫉妬心に竜王は呆れるしかなかった。
ただ、同じ竜なので気持ちはわからなくもないため、実害がない以上厳しく言う気にもならない。
「まったくもう。私が話したいというのはリーシャの事ではあるんだけど、君たち兄弟も無関係な話ではない事だよ」
「? 要は俺ら4人に関係ある話ってことか?」
ルシアの不機嫌は収まり、竜王の話に興味を持ったようだ。
竜王はいつも通り関心が離れないよう、質問を織り交ぜながら話を続けた。
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